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文庫本読書倶楽部
02
田宮模型の仕事

田宮模型の仕事 02 田宮模型の仕事

田宮俊作 著
文春文庫


投稿人:cave ― 00.06.20
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 オレたちがガキだったころには、PS2などもってのほかで、ファミコンの影すら無かった。成人ののち親戚で行われた法事のときに、若くして所帯を持ったイトコの長男が、発売されたばかりのファミコンを持ち込んできていた。その甥っ子の肩越しにテレビ画面を見て「何とまあ、夢のようなオモチャが出来てきたもんだ!」と驚いたことを覚えている。

 オレたちの時代の憧れのオモチャといえば、まずUコンだった。ワイヤーつきの飛行機模型だ。FUJIの09、エンヤの15(イチゴー)なんてエンジンの名前をさも自慢気に言い合っていたものだ。しかし、Uコンは夢のまま終わった。ビンボー人には高価すぎるオモチャだったからだ。

 その次にヨダレものだったのが、スロットレーシングカーだ。民家の土間や玄関を改築して店にしたようなレース場があちこちに出現した。こちらは金額的にはそう手の届かないものでもなかったが、オトナ(おにいちゃん)が支配する環境だった。レース場の人垣の後の方から必死で背伸びしつつコースを走るクルマを見ていた。なかでもずば抜けて速かった記憶があるのが、本書にも出てくる「タミヤのロータス」だった。オレはこのクルマのデザインを当時もカッコイイとは思わなかったのだが、その(模型の)抜群の性能は「自分のものにしたい」という強烈な欲望を喚起した。しかし、これも所有するに至らなかった。風紀の問題が取りざたされ、レース場への児童の入場が禁止されてしまったからだ。その後あっという間にレース場はもとの民家の土間に戻ってしまった。

 しかし、ビンボーな家庭のガキ共にも比較的容易に手に入れられたものがプラモデルだ。当時の子供たちは必ずプラモのジャンル歴というものが語れる。オレの場合、戦闘機→軍艦→戦車→城寺院→クルマ→二輪→蒸気機関車→潜水艦と推移した。特にタミヤの戦車製品はシンプルな箱のデザインとともに、子供たちの間で群を抜いた評価を受けていた。「小松崎茂先生」と箱絵作家までオレたちはヒーロー視していたのだ。この先、ジオラマやウエザリングや改造、考証に走り出すとオトナの趣味に転じるのだがそこまで深入りはしなかった。理由はただひとつ、手先が不器用だからだ! ただ勤めだしてからウォーターラインシリーズで潜水戦隊の小ジオラマを作ったことはあったが…

 本書を読んでみると、ソニーやホンダと同様、この国が世界に誇れる製品の企業の土台には必ず「オトナの少年」が燃えに燃えまくっている様が見てとれる。オレ、そういうのに弱いのだ。目頭が熱くなるのだ!恥ずかしながら「頑張れ!ニッポン!」と叫んでしまいそうになるのだあぁ…。照れ隠しに背中丸めてランナーのバリ取りに熱中しているフリをして誤魔化そう。

 最近はプラモデル屋、というのが少なくなったと思う。ホビーの量販店やスーパーの玩具売り場ではプラモデルは「クルマ」一色であることが多い。かつての街の模型屋には脱サラした模型好きのオヤジが精魂込めて作った模型が埃だらけのショーケースに飾ってあった。大概非売品である。子供たちはそのテクニックと完成度に憧れる。自分のものにしたいと挑む気になる。買うだけじゃなく時間をかけて作りあげるのだ。そうして完成したものはまさにタカラモノ、といえる。

 比較的安価な商品だから個人商店で売るのは今の時代には割が合わない商売だろう。しかし、オレは模型屋のオヤジがショーケースの向こう側で見本用の戦車や駆逐艦を塗装している姿に、男の生き様のひとつの典型のようなものを感じるのだ。

 よーし!ここはいっちょうオレが模型屋のオヤジに…あかん、オレ不器用やったんや…


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