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文庫本読書倶楽部
130
日本の庭園 - 造景の技術とこころ

日本の庭園
130 日本の庭園 - 造景の技術とこころ

進士五十八 著
中公新書
文化・教養ノンフィクション

投稿人:コダーマン ☆☆☆ 06.03.22
コメント:半信半疑の人も、読んでみるといいですよ


 出版社に「庭を読む」あるいは「庭園の読み方」「名園を読み取る」というようなムックの企画案を出したことがある。素人として、それぐらいには日本の庭園に興味を持っている。
 というのも、名園、名庭を見ても、単純に「素晴らしい庭だなぁ」と思うところで終わり、その作庭の匠の技を読み取ることができない。石と木と、池の配置、あるいはその意匠を読み取る基礎知識がない。
 どうしてあの場所に、あの形の石灯籠が置かれたのかなどを、さっと読み取れて感心、感激できたら面白い。うれしい。
 庭園をどう見るとそれがわかり、その庭の四季を満喫できるかという基礎学問が私にはない。日本文化を理解できない日本人では恥ずかしい。

 だから、私自身が、庭の専門家や庭の達人と一緒に歩いて「ほら、ここから見ると庭の中の岩が亀に見えて、岸の松が鶴の形に刈ってあるでしょう」というような単純なことから始まって多くを教えてもらいつつ、その庭の素晴らしさを解いてもらい、作庭師の意図を汲み取れるように教えてもらってそれを文章に書き起こす。同行したカメラマンには見るべき角度から撮影してもらう。そういう本を想定していた。
 私は専門家の言葉を普通の言葉に置き換えたり、冗談を挟んで解説するのを得意にしている。
 だからその庭の仕事をしたかったのだ。

 そういう私が『日本の庭園』という本を見つけたのだから買わないわけにはいかなかった。
 著者の「進士五十八」氏、この名前は一回でサッとは読めなかった「しんじいそや」である。名前は「いそや、か、いそはち」と思うけれど、名字は初めてだった。そのまま読むほかに意外な読み方があるのだろうかと思って奥付を見たぐらいだ。
 仏教が入ってきて以降の庭は、想像上の極楽を描くようになったり、後には禅の心を映すようになったり、あるいは侘び寂びに傾いたり。また、中国文化の影響が濃い時代には中国の景勝地を写したり、縮尺して作ってみたりということになる。そうなるとどうしても、読む側に知識が必要になる。
 そういう知識の、基本を望んでいた。それがこの本だった。実に面白い。知らない日本語が沢山でてきて興味深かった。
 庭に作る建物に東屋、亭、庵、観、閣、楼という呼び方があって、それぞれに元々の目的、あるいは考え方が違うのだといわれると、知りませんでした、ということになる。私がいう庭に関しての基礎知識というのはそういうことである。

 新書だけでは私にはわかりきらないところもあったが、非常に役に立つ本だった。もう少し読み解いて欲しい部分もあった。通勤の時のリュックに長い時間入っていたので、本の端が丸くめくれ上がるぐらいになった。ゆっくり読んだのと、どうせ一度では覚えきれないから少しずつ楽しもうと思って、この本を一章ごと読んでその間に別の本を読むようなことをしてしまったから。そうして楽しむに充分の面白さである。

 後半に日本の名園三十六景を紹介している。これを読んで暗記してもしょうがないが、旅に出てそこに行けることになったら、行く前におさらいしておけば、行って目を付けるべきところを一つ二つ覚えて出かけることができると思う。
 日本の歴史、文化も込められているし、庭園を作る人の創造力とそれを受け取って実際に作庭する人の技術力、また時代の表現力などが優れた庭には反映されているということである。
 名庭園だけでなく、ちょっと立ち寄ったお寺さんで、本堂を廻り、天井の絵を見て、廊下から庭を見たとき、すっとその庭が読めたらどんなにうれしいか。もう少し修業したい。


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