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宮本常一、アフリカとアジアを歩く

宮本常一、アフリカとアジアを歩く 61 宮本常一、アフリカとアジアを歩く

宮本常一 著
岩波現代文庫
民族学ノンフィクション

投稿人:cave ☆☆ 01.11.05
コメント:---


 宮本常一、という名前は常に私の視界の中にちらちら瞬いていたものの、どういうわけかいままで纏まった書物に接することが無かった。
 その理由は、なんとなくではあるが、周囲の論評や批判が、著者の旅や民俗学そのものに対する興味をそぐ方向で展開しているように感じられ、疎ましくなってしまっていたように思う。
 無知ゆえの誤解かもしれないが、このひと自身の「ことば」が、わたしに響いては来なかったからだ。しかしそれでも魅かれていたのは「あるいて」日本の津々浦々を塗りつぶしたという、その徹底した「フィールドワーク」にあった。新たにその足跡に触れるに当たって、膨大な「日本国内」の考察から、ひとつを選ぶことは非常に不安を感じていた。
 本書は宮本常一最晩年の、海外への旅の記録なので、あえてこの位置からなら「入門」できるのではないかと、ページを開いてみた次第である。したがって、国内における「旅の巨人」に対する予備知識はほとんどない状態で、本書の感想を述べることになる。
 胃癌に侵されつつあった著者が体調の不安をおしての、東アフリカ、済州島、台湾、中国の旅の記述が本書であるが、著者の初めての海外への旅にもかかわらず、日本での知識と考察によって培われた「視点」の鋭さにはあらためて驚かざるを得ない。
 たとえば、タンザニアの畑で、エンドウやトウモロコシの作柄を見て収穫量をはじきだす。バナナの畑をみて、肥料を忠実に施していることから、土地の水分蒸発を防ぎ十分な収穫を得ていることを見分け、その葉や茎が牛の飼料になっていることを指摘し、牛とコーヒーの生産量を合わせるとかなりの収入が得られることを推測する。そしてそれらのことから、「戦後日本の農政の失敗は作物の単一化だった。タンザニアにはみごとな複合経営がある。技術的には日本の中クラスだが、山村地帯よりはるかに豊かに見える」という結論に導く。
 済州島の編では、「海人(あま)」に関する考察がなされる。台湾の旅では、原住民の高砂族と日本人との深いつながりを予感させる視点。中国では、日本における「畑と柿の木」の関係のルーツを見出し、川船の構造や川住まいの様式に日本への稲作伝播のヒントを探る。
 生涯四千日以上の「あるくみるきく」の旅で、この「旅の巨人」の脳に蓄積されたものは膨大だが、そのデータを自由に取りだし、繋ぎ、組み替えて、新たな考察に結びつけることができるのは、本人の脳内に尽きる。民俗学に限らず、学問という範疇で、その考察や知識を論文や活字にして、後世に残してゆくことは、なんと困難で実りの小さいことだろうとつくづく思ってしまう。
 旅に限らず、何かを見つめるとき、どんなに小さくても持てる知識を総動員して、生活文化や時の流れ、環境の変化などに注視してみることを忘れてはいけないな、と強く思った。


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