悩ましき買物 |
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81 悩ましき買物
赤瀬川原平 著
知恵の森文庫
エッセイ集
投稿人:cave ☆☆ 02.07.08
コメント:あ〜、思いきり買物したいなあ |
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赤瀬川原平さんの、イラスト(というか鉛筆デッサン)付き『ブツ』購入顛末エッセイ集である。著者の「路上観察」で研ぎ澄まされた鋭い(変わった?か)視点での買物であるので、凡人の買物とはちょっと違った経緯をたどって購入にいたるさまを楽しむ読み物である。
ポイントは「芸術家」「優柔不断」「貧乏性」そして「些細な事にこだわる」あたりであろうか。しかし考えてみると、レベルは全然違うけれど、あたしも似たようなもんだ。買物に対しての感覚は、たぶん近いところがあるだろう…。というわけで読んでみたのだけれど、買物に対する「悩ましさ」に関しては頷けることが多いが、やはり、使える金額が愕然と違うのである。なにせ著者は芥川賞作家である。「貧乏性」であるところは存じ上げているのだけれど、実際、貧乏ではないお方なのである。
このテのエッセイ、たとえば東海林さだお氏もそうだが、なんとなく庶民の隣にいるような視点で「貧乏性」や「優柔不断」を骨格にしているような作品には魅かれるものが多いのだけれど、これ、本当に貧乏な人は本なんか出せない訳で、ベストセラーになったあとで、こちらはその存在を知ったりするのだ。結局、貧乏性について共感を与え面白く表現することが可能なのは「貧乏性の金持ち」じゃないと書けないんだな。「貧困旅行記」などがある、つげ義春さんはどうなんだろう。
だから特殊なジャンルと言うことになろう。本当の貧乏人が書いたら、「貧乏性」をペーソスに変える余裕など生じないのだから、つまらない暗いものになってしまう。
さて、本書に取りあげられている『ブツ』は、「中古カメラ」を始め、時計、バッグ、ナイフなどを中心に、衣類、骨董、ガラクタの類い、と多種に及んでいる。出会い、葛藤、決断の紆余曲折を経て購入に到る経緯は読んでいて楽しめる。その中で、印象に残った記述を拾ってみる。
〈物を買う楽しさは、じつはお金を払うことにあるんじゃないか。……〉
買物は呼吸みたいなもので、たまに大きな買物をするのは、たまにする深呼吸だ。とおっしゃる。それはそうですその通り。ストレス解消にかなり大きな効果があると思われる。ただ、「たま」にも大きな買物なんてできませんよ、あたしは。
たとえば、茶道具などの買物で、
〈あまり正面からは近づかないようにしようと考えている……底なし沼のような世界に引き込まれ……誰のためにやっているのかわからなくなる〉
「ハス」に構えて、仕来りのややこしい世界に入ってゆくのは、わたしも同様であります。そのなかから自分にとって有用で満足を得られるモノを購入すればよい。どう使おうと勝手。
〈仏壇の考え方なんてAからZまでありそうで、どうも結論はでない。いろいろ考えて、自分の背中の位置にした(置いた)……〉
で、著者は仏壇を置く台をエスニック家具屋で購入するのだけれど、仕来りに考慮をしつつも、結局自分の理想のものに着地して満足感を得る、という部分は共感がある。
などなど。
お仕事とはいえ、こんなにも趣味的なものをどんどん買えてしまうのは、ほんとうに羨ましいしだいである。あたしなんか最近は、陳列物をできるだけ見ないように心がけて、外を歩いているというに。
しかし青色申告をすることになり、帳簿をつける羽目になった。ぜーきんを取り返そうと思えば、領収書を集めなければならないので、買物に対する心構えが変わった。ひょっとしたら今後、「悩ましき買物」を楽しむ機会は増えるのかもしれない。
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