金魚と淡水魚の飼育
29話
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水槽撮影はムズい!




深夜真っ暗な状態でデジタルカメラを三脚にセットして、いきなり水槽用ライトを点灯したところ。
金魚たちは、まだねぼけていてじっとしている。全部の金魚が静止している写真は、なかなか撮れない。



 いつも、適当にパチパチと撮っている水槽の写真だけれど、満足に撮れたためしがない。わたしはプロのカメラマンではないけれど、商売柄どうすれば上手く撮れるのかは分かっているつもりだから、根性を入れて撮影すればもっと良い写真が撮れるはずなのだ。ところがウチの水槽は、食事をする卓袱台の横、それも水槽台用に物色してきた安物の下駄箱の上に設置してある。光のまわりは最悪。充分な光量が得られる昼に撮影すると、水槽ガラス面に部屋の様子が反射して、洗い物の山積みされた流し台や散らかった卓上の様子などが写り込んでしまう。オマケに中央にはカメラを構えたわたしのマヌケ面が、でーんと。こんな状態で良い写真を撮ろうとすると、ライティングやマスキングやなんやかんやでオオ事になる。それが面倒なので、マ、いいか。とパチパチ撮って、ままマシなものを使っているのである。

 深夜、仕事をしていて喉が渇いたので、ダイニングへお茶を飲みに行った。豆球の明かり越しに水槽を覗くと、金魚ども、みんな寝ておる。いいかげん仕事に飽きたころだったので、ピンとひらめいて写真を撮ることを思い立った。明かりを消したまま、音をたてないように、予備の水槽用ライトを設置して全部で3灯にした。ゴソゴソと三脚を持ち出してきて水槽正面に立てる。デジカメを取り付けて、距離計をマニュアルに設定する。だいたい40cmという見当にした。シャッター速度を少しでも稼ごうとISO感度もちょっぴり上げて、絞り優先のスポット測光にする。部屋は真っ暗だから映り込みは起きないが、明かりは水槽用ライトのみなので光量はかなり頼りない。ガラス面に反射してしまうのでストロボを使うわけにはいかない。絞り開放f1.8、シャッター速度60分の1秒くらいとなると、まず三脚が必要なわけだ。しかし、金魚が元気に泳ぎだしてしまうと、60分の1秒では流れてしまう。そこで寝込みを襲い、金魚が寝呆けて、じっとしているあいだに撮ってしまおうという魂胆である。

 デジカメのセッティングが終了したので、頃合いを見計らい「それ!」と、一斉に水槽用ライトを点灯する。普通ならわたしが近づいただけで、「メシ!メシ!」とガラスに口をぶつけながら大騒ぎで激しくダンスをするのだけれど、しめしめ、奴等、思惑通り寝呆けていやがる。ライトを消していたときのまま動かずに漂っている。「いまだ!」とシャッターを切ったが、やはり光量が足りなくて暗い。おまけにピントあわせにも手間取った。オロオロしながらシャッターを切り、30秒くらい経ったか。一匹の神経質な金魚がハッ! と我にかえりやがった。「オ!…明るいな。あ、前に飼い主がおるやんけ。え、と…。そや、メシや! ソレ、メシくれ!メシくれ!」すると他の寝ぼけていた奴等たちも、「なんやなんやなんや、あ、メシかいな。ソーレィ! メシくれ!メシくれ!メシくれ!メシくれ!」「お前なあ、寝てる場合と違うで、メシや! 早よ起きんかい!」。一瞬にして水槽内は蜂の巣をつ突いたような大騒ぎに。かくしてわたしの目論見はわずか30秒にして潰えたのであった。

 しかしこの作戦、2、3匹の飼育水槽なら充分に使える手である。ウチみたいに15cmクラス中心のが11匹も入っていると、スルドイ奴が先に騒ぎだして即オジャンになってしまうが、数が少なければ、結構長時間寝呆けていてくれるのではないだろうか。美しい水槽写真を撮りたいとお想いのお方は、一度お試しあれ。




 今回も「幼魚たちのはなし―生まれつき身体の不自由な幼魚たち(01.05.20)」の稚魚たちから、鰓まくれの「ライトくん」と「レフトくん」(雌・2000年12月生まれ)をご紹介します。

うちの金魚たち:その2 「レフトくんとライトくん」



照明を点灯して30秒もすると、もはやこの状態。ブレのない写真を撮ることは困難だ。
中段左の上向きの金魚が「ライトくん」。中央右寄り左向きの金魚が「レフトくん」。

 前回の「みっちゃん」同様、パワーフィルターのなかで孵化し、成長してしまった稚魚たちです。フィルター内の水は、まあ汚水処理施設の沈殿池みたいなものですから、それは酷い環境です。悪性の菌はうじょうじょ繁殖しているでしょうし、アンモニアの濃度も高く、酸素も少ないことでしょう。金魚の飼育の本などによると「エラ腐れ病」という病気があり、細菌感染によって鰓が腐ると記述されていますが、この2匹の場合は腐っているのではなく、捲れ上がってしまっているのです。稚魚の状態から現在の十数センチの大きさになるまで、病状が進行することもなく元気に泳いでいますので、病気というより、デリケートな稚魚時代に悪い環境で過ごしたためのアクシデントだと考えています。この2匹のほかにも、両鰓ともが捲れているものなど4匹、計6匹が同じような症状で育っていたのですが、度重なる水カビ病で死んでいってしまいました。

 左側の鰓が、開いてしまっているのが「レフトくん」。右側開きが「ライトくん」という、いたって安直な命名なんですが、子供たちには分かりやすいと好評です。雌なのに「くん」付けなのは、金魚はメダカのようにヒレに特徴が無く、あるていど成長するまで雌雄の区別がつきにくいので、そうなってしまいました。まあウチの雌金魚のほとんどは「くん」と呼ばれる羽目になってしまっています。

 「レフトくん」はかなり体も大きく暴れん坊なので、「みっちゃん」などはよく、肩をぶつけられて迷惑そうにしています。また「大口」の持ち主でもあり、大食漢です。エラのめくれかたもドスが効いています。「どーせアタイは生まれつきカタワなんだい! 好きなだけ喰いまくって暴れてやるんダ」というような心意気が感じられ、飼い主としても眉をひそめつつ「ま、仕方がないか」と言わざるを得ない、アバズレ娘に成長しました。

 「ライトくん」も体は大きいほうですが、「レフトくん」ほど、アバズレではありません。ですから、しばしば静止して写真も撮らせてくれます。彼女の特徴はおでこの部分に段があること。それで左側面をこちらにして泳いでいてもスグに分かります。彼女は別名「キッスくん」とも呼ばれています。他の金魚が大きなエサを丸呑みにして、モグモグやっていると、真っ正面からスーッと近づいてゆき、口と口を合わせて、チュツ!と吸います。相手の金魚は口いっぱいに頬張って必死で咀嚼しているエサを、一瞬のうちに横取りされてしまうワケです。だから、エサを食べている途中の金魚は、「ライトくん」が近づいてくると、顔をそむけて餌を取られまいとします。面白いでしょう? 名前は「カツアゲくん」でもよかったかな。



←「ライトくん」。まだ少々寝呆けている様子。
頭と口のあいだ、額の部分にくぼみがある。「ライトくん」は、少しおとなしいタイプだが、ズル賢くて執念深い。
←「レフトくん」。エサに対する情熱は水槽一かも。
エサをめざして、底の方から猛スピードでアタックする。与えている飼い主の顔とメガネは水しぶきでビショ濡れになる。
←のんびりと漂う「ライトくん」。
カノジョは他人の口の中のエサを横取りするのが得意。それもいたって堂々と実行してしまうのだから侮れない。
←水槽のスミで食後の小休止中の「レフトくん」。
じっとしているのは珍しい。が、これも一瞬。せいぜい10秒ほど。なかなか写真を撮らせてもらえない。

↓悠々と泳ぐ「ライトくん」を流し撮り。ムズい。
2002/08/30 (Fri)

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