ヤドカリと磯の生き物の飼育

19話
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磯の愚連隊海ヤド組 〜ゴカイのご乱心〜

↑軒並み大きくなった「磯の愚連隊」の面々。
この画面だけでも8匹写っている(手前のはイシダタミガイ)。


 いやしかし、長い秋ですな。ユビナガホンヤドカリの海水水槽の水温はヒーターなしでも20℃をくだらない。ちまたの紅葉もさっぱり色づかないらしいし、こちらの体調もどうも不具合である。地球はどんどんヘンになって来ているようだ。ま、それはともかく、ひさびさに海ヤドたちの近況をレポートしておこう。

 水量15リットル程度のデスクボーイ水槽に犇めきあっている、ユビナガホンヤドカリ。採集時の愚息の申告によると、その数39匹ということだったのだが、わたしが実数を確認したことはなかった。3〜4ヶ月経過して、各個体がかなり成長し、もはや10匹程度はオカヤドカリ購入時に付いてきた直径2cm前後の宿替え用貝殻に入るようにまでなっている。最小のものでもそこそこの大きさの貝殻に入居しているので、採集当初に目立ったような超チビヤドの姿はみられない。そこで先日のメンテナンスのときに、いっちょう現在の実数を把握しておこうと、一匹ずつピンセットでバケツに移し、数を数えてみたところ、26匹であった。サンゴ岩の隙間に潜ってる輩などがいたかもしれないから、正確とは言いきれないが、まあそんなところである。愚息の申告を信じるとすればかなりの数が淘汰されているようだが、まあ仕方がないであろう。なにせこいつら、少しでも弱った生き物がいると見るや、いきなり徒党を組んで襲い、食べてしまうからである。もちろん仲間でもおかまいなし。そのさまを見ていると「磯の掃除屋」なんて可愛らしいものではなく、はっきり言って「ギャング」である。残酷きわまりないのだ。今回はそんなおはなし。

 まずは、味噌汁用の活アサリ。8月の中場に放り込まれた3匹(しかしアサリは「匹」なのか「個」なのかどちらなのかねえ。それとも「グラム」で計るのか?)のうちシロブチが食べられてしまったのは報告したが、その後10月に一匹喰われ、残る一匹がしぶとく生息していた。狭い水槽ではあるが、アサリが結構場所を移動するのには驚く。姿は潜って見えなくとも、一本細い繊毛のようなものを水中に伸ばしたりするのでおおよその位置が分かるのだ。ところが先週(11月17日あたり)、ぷは〜っという感じて砂の上に出てきた。味噌汁の実になりそこねてからおよそ三月である。おいおい、出てきたら喰われるぞ、と思ったものの、一週間ほどはふてぶてしく砂上にゴロンと横たわりつつ、ヤドの襲撃をなんとか回避していたのだが、防御もそこまで。昨日覗いて見たら、キレイな二枚の貝殻になっていた。元気なときは貝を閉じていれば安全なのだが、少しでも弱ってくるとやられてしまうようだ。これで8月から棲んでいたアサリは全部餌になってしまったわけだが、実はこの11日にもう2匹追加した。そのニューフェイスたちは今、ちゃっかり砂に潜っている。

 4匹いたイシダタミガイは、いまだ3匹が健在。最大のやつは、当初より多少気力に乏しく、じっとしていることが多かったのだが、ある日ヤドの集団襲撃を喰らい、あわれピカピカの新居にされてしまった。殻の直径が2cmほどもあり重いため、しばらくは空家のままころがっていたが、ヤドの急成長により、いまや背負われて第二の人生を送っている。3匹が活発に掃除するため、水槽のガラスはクリヤーなのだが、ヤド用に入れている「生ワカメ」を食べて食いつないでいるようである。


←こいつら、結局のところ何でも食べる。主食はいちおう海水魚用の沈下型「テトラミニグラニュール」なんだが、「ザリガニの餌」「金魚の餌」「メダカの餌」なんでもござれ。あげくは自分の糞やゴカイの糞まで。しかしあまり餌ばかり投入しても水が汚れるので、最近は副食として「生ワカメ」を入れている。イシダタミガイもこれを食べているが、ほんの二日でひと房消滅してしまうという、凄い食欲。
←いちばん大きかったイシダタミガイが少し弱ったなと思ったら、即、餌になってしまった。その貝殻をちゃっかり家にしているヤド。ガラスに付着した苔を摘んで食べている。なにも逆立ちして喰わんでも。
←イボニシの貝殻は、ヤドカリのお好みのようで、空家になっているのを見たことが無い。
←2002年3月に南紀白浜からホンヤドやカニに紛れてやってきたゴカイ(イトメ?)。いままでアタマ以外を砂から出したことは無かったのだが、何をトチ狂ったのか突然全身を現した。砂の中にいるときにはもっと細長く見えたのだが、こうして水中に出てしまうと意外にずんぐり短い。オイ、早く潜らないと、ヤド連中に喰われるぞ!
←これは何でしょう? キャビア? いえいえゴカイの糞です。生ワカメを大量に食べて、尻の先から噴水のように吹き上げます。それをヤドカリがまた喜んで食べております。
←ガラス清掃中のイシダタミガイ。移動はけっこう素早くする。口のところに牙があり、ワカメの表面や岩に付いた苔をこそげるようにして食べ進む。

 さてここからは本日(11月27日)の話。朝、照明を点けて餌を与えようとすると、ピンク色の不気味なものが水槽内をうねり泳いでいる。ん、なんだ。と目を凝らしてみると、どうやら昨年3月より生息する、我が海水水槽の最古参、白浜産のゴカイのようである。ま、ゴカイなのかイトメなのかは良く知らないのだが、ちゃんと体の先っぽに、砂粒のような目玉が付いていて、小さなヒゲを生やしている。その顔はドジョウのようで、結構愛嬌があり、わたしはヒソカに贔屓していたのであるが、いままでその姿は水槽ガラス際の砂中か、砂から顔を出したところしか見てはいなかったもので、全体をつぶさに見たのは初めてである。砂中では15cmくらいの長さに見えていたのだが、泳いでいる姿を見るとずんぐり縮んでいて、6cmくらいか。頭部2cmほどは白い色だが、その他の腹部はどぎついピンク色で、蠕動につれ波打って気味が悪い。それが狂ったように水槽じゅうを鼠花火のようにのたうっている。ゴカイといえば、ま、絶好の釣り餌なのであるから、この泳ぎかたを真似れば釣果もあがるということか。などと暢気にしばらくは見ていた。

 なにせ釣り餌なのであるから、ユビナガ共にとってはご馳走が泳いでいるようなものだ。ゴカイが近くを通ると、必死でハサミを振り上げて捕まえようとするが、田淵でおなじみの「うねり」パワーではじき飛ばされてしまい、捕まえることができない。しかしこのままだと、早晩泳ぎ疲れたところを襲われてしまうと思ったので、お節介にも砂に窪みを作って埋めてやったのだが、その親心を裏切って、しばらくするとまた出てきて泳ぎだす。急に何をトチ狂ったのか、海水が傷んでいるのかもと比重などを測ってもみたが、正常である。この腹部のピンク色も普段は見られない色なので、ひょっとしたら繁殖期なのか? しかしゴカイってどう繁殖するんだ? などと図鑑などを探しているうちに、あ〜あ、とうとうヤドに捉まった。埋めてやっても飛びだしてくるから、もはや成り行きに任すしかない、と見ていたら、ついにヤド5匹に押さえ込まれ、綱引きをされ、あっという間にピンク色の腹部を引きちぎられてしまった。その腹部が数匹のヤドによってたかって屠られるのに、ほんの数分。それでも残った頭部3分の1は、まだ動いている。ひょっとしたら再生するかもと、頭部だけを埋め戻してやった。しかしダメ。すぐに自分で砂から出てきてしまう。あんのじょうヤドに見つかり、あわれ目玉まで奇麗に食われてしまったという次第。

 このところ、生ワカメを砂中に引っ張りこんではさかんに食べて、キャビアのような糞を砂地にてんこ盛りにしていたゴカイなのだが、いったいどうしたのだろう? 水温は徐々に下がってきたとはいえ、このゴカイはこの水槽でひと冬越してきたやつなのだ。う〜ん。ゴカイの考えていることは分からん。あたりまえか。しかしヤド共も、ゴカイが尻の先から噴水のようにまき上げるキャビア(糞)を、美味そうにつまんでは食べていたというに、その食料品製造元を食ってしまってどうする?

 いや、いちおうこの水槽のメインは「ヤドカリ」なのであるからして、どうしてもヤドカリ中心の、というか、ヤドカリを善玉のように思ってしまうのだが、今回書いたような、アサリ、イシダタミガイ、ゴカイなどの顛末を見ていると、ヤドカリつうのは、かなりタチが悪いやつらなのである。一見可愛く見えて、何でも食べるから「磯の掃除屋」「水槽の掃除屋」なんて重宝されたりするのだけれど、他の生物が弱ると見るやすかさず襲い、腹に収めてしまうさまを見ていると、これは「磯のハイエナ」もしくは「磯の愚連隊」と言ったほうが正しいように思えてきた。自分が得た食べ物を抱え込んで、他のヤドカリに奪われないようにするときの逃げ足の速いこと。餌に気づいたときの敏捷な動き。奪いに来る他のヤドカリを牽制する手(ハサミ)付きと目付き。どう見てもカタギのそぶりじゃないね。そのくせ強そうなヤツが来るとすぐに貝殻に引っ込んでしまう。セコい奴等。ま、磯の「ちんぴら」あたりが適当かも。



ゴカイ(イトメ?)のご乱心
長くて、ぶにょぶにょしているものがニガテな方は見ないほうが無難かもです
←水槽を覗くと、白とピンクのツートーンの不気味な物体が、のたくって泳いでいる。一瞬、何が発生したのかと思ったが、頭部などを見るとどうやら現住人のゴカイのようだ。一瞬「千と千尋」の川の神様など思いだしてしまった。わたしは海釣りをしないので、これが正しく「ゴカイ」なのかどうかは分からない(ご存知のかたはご教示を…)。しかし砂中にいるときは腹部がピンク色に見えたときはなかったのだけどなあ。んで、今日はまた、何で泳いでるんだ?
←ほら、捉まった。ユビナガホンヤドにとっては、釣餌であるゴカイは大のご馳走であろう。この時はまだゴカイが元気だったので、パワーでヤドのハサミを振り飛ばして逃れていたが、このままだと早晩喰われてしまうと判断したわたしは、砂に穴を掘り、ゴカイを埋め戻してやったのだが…。
←その親心も反故にして、そそくさと出てきてしまう。いつもは頭を出していても、ヤドが近づくとすぐに砂中に引っ込んでしまうのに、おかしい。何かに憑かれたようにずんずん水中に出てきてしまう。これはもうお手上げだ。成り行きを見ているしか手はない。昨年の今の時期には、出てくることなど無かったのだけれど…。
←腹部のみが鮮やかなピンク色。砂から出た以上、ヤド共に襲われて屠られてしまうのは時間の問題だ。
←「いただきっと! 一度掴んだらこっちのもんだ。喰い終わるまで離すもんかい」ゴカイのうねりにひっくり返されても、スッポンのようにしがみついて離さないヤド。なんという食い意地。
←柔らかそうな腹部から食べつつ、他のヤドカリに奪われまいと、高速バック移動を続けるヤド。ゴカイも必死でうねるのだが、もはや万事休す。
←う〜ん。うまか〜。最高だな、ゴカイは。
←残った頭部から再生しないかと、頭部のみも埋め戻してみたのだけれど、なんとそれでも這い出てくる。腹もないのに元気なこと。もう知らん。知りません。
←オ、俺にも喰わせろ。わたいにも。儂も。というわけで、あわれゴカイは跡形もなくなってしまいました。ご愁傷さま。

↓「え、俺の目付きが善人に見えないってのかい?」
2003/11/27 (Thu)

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