ヤドカリと磯の生き物の飼育

28話
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ひと夏の出来事

↑春の採集からおよそ5か月経った海ヤド水槽。
当家お約束の、夏の淘汰も経て、住人数ほぼ安定。
(06.09.02撮)


 前回記事に続き、4月18日に南紀白浜の磯で採集してきた海ヤド水槽の住人のその後の経過と近況をご報告しよう。濾過もいい加減なちんまい水槽に、節操もなくぎゅう詰めに住まわせたうえ、今年の夏も猛暑だったものだから、毎度のことながら、衰弱したり脱皮に失敗したり捕食されたり餓死したり脱走死したりと、脱落してゆく個体が相次いだのだけれど、秋を迎えてようやく面子が落ち着いたような按配だ。その間、こちらがやった世話といえば、月に二度の人工海水の交換、日々の餌やり、水温が30℃を超えないように注意するくらいで、あとはなりゆき任せである。どうせならちゃんとした水槽と装置を備えたマリンアクアリストに捕まれば良かったんだが、たまたまあたしに捕まったのがオノレの不運と諦めるように。

 どうやら当欄の写真だけを見ると、この海ヤド槽、非常に立派な大水槽に見えるらしい。記事にも載せたけれど、偏屈酒場ご常連の赤海鼠磯吉さんが、夕飯のおかずに生鮮スーパーで購入した刺身のサザエの貝殻に、元気なフジツボが大量棲息しているのに気付き、むざに殺すのは忍びないとわざわざ拙宅までお持ち込みに。その折、海ヤド槽をご覧いただいたが、「えっ!こんなに小さいの!」と驚いておられた。そうなのであります。なにせ、デ・ス・ク・ボ・ー・イ、水槽なもんで。水量せいぜい15リットル、しかもフィルター非装備なのでありますれば、この大量の住人つうのは、いかに無茶な、というか、動物愛護上お叱りを受けても仕方がないような飼い方をしているのでありまして、そのあたり勘違いの無きよう、十分に眉を顰めながらお読みいただきたいと思うのであります。

 無茶は承知のうえだが、ガキの頃に海棲生物と縁遠かったせいもあって、連中の生き様を見ているのが新鮮で非常に愉しい。飼育の知識にも乏しいのだけれど、そこは一例一例経験を積んで、徐々に身に付けて行ければと思っている。脱落してゆく個体には申し訳ないが、勝手ながら、こんな記事でも書いて皆さんにご覧いただくことが、ささやかな供養だと思わせておくれ。これ作るの、結構面倒なんだ(全然反省してない)。

 さて、そんな不運な生き物たちのその後。前回記事を更新したのが5月10日。以後のトピックをおおまかに書くと、5月7日にイソ六脱皮。5月12日、ケブカガニ脱皮。5月13日に赤海鼠さんのフジツボ付きサザエ貝殻が加入。5月24日、ヒライソガニ脱皮。5月26日、先住人のイソ六(イソヨコバサミ)没。6月3日、イソヨコバサミ脱皮不全。6月7日、イソクズガニ行方不明(脱走)。このあたり、ドイツW杯たけなわ。6月23日、脱皮不全イソヨコバサミが再脱皮。7月12日、カタベガイ(小)没。7月28日、カタベガイ(大)没。このあたり、猛暑で水温が上がり、巻貝類の転覆続出。7月30日、脱走イソクズガニの干物発見。8月1日、オウギガニ脱皮。8月13日、イソヨコ没。8月19日、シッタカ(大)没。シッタカは巻貝類では永らく健闘していたが、このあたりに及び、高水温と大柄ゆえの餌不足であいつぎ没る。カタベガイなどの大物が死ぬと、死体処理がベントス連中の手に余り、腐って水質が激悪化してしまう。これにうっかり気付かないでいると、小さなヤドカリ連などに多大なダメージが及ぶみたいだ。この間に他のヤドカリ連中も、脱皮に失敗したり、捕食されたり、脱走乾燥死したりしてどんどん数を減らし、現在に至っている。9月に入って、金魚の奇病が進行し、そちらを注視することになったため、海ヤドの観察が手薄になってしまった。ま、詳細は写真のキャプションを。なお、いつものことながら、登場生物の種名や芸名はいたってエーカゲンに付けておりますので、正しいとは限りません。あらかじめご了承ください。

 10月に入った現在、ざっと水槽を見回してみると、残存しているヤドカリは10匹程度。ほとんどがホンヤドカリで、イソヨコバサミが1匹残っている。ケアシ系その他はケアシ1,ホシゾラ1は確認したが、それ以外は淘汰されてしまったようだ。でも詳細は未確認。カニ類はオウギガニとケブカガニが健在。ヒライソガニはいつのまにか姿を消してしまっていたが、つい先日脱走死と判明した。巻貝類は、アマオブネガイのみ2匹残存、意外だが結構強いんだアマオブネ。ハンニバルとアンダーテイカーはまだいる、実にしぶとい肉食組。ムラサキウニは水槽の端っこに陣取り、メシを喰いまくってどんどん成長、もはや直径は4倍近くになった。イソギンチャクはグッタリしつつも膨張中、食欲だけは旺盛である。ゴカイ類に関しては、特大の数匹もさることながら、爪楊枝大のガキどもがマジで数百匹は居る。ある日などガラス面に接している底砂が全面真っ赤になったので、驚いてよく見たら全部ゴカイのガキどもだった。植物の毛細根のようにビッシリ。これ、さすがに気持ち悪いので写真は掲載しない。メンテのとき、毎回プロホースでデトリタスを吸い上げるのだが、いまだチビゴカイ一匹たりとも掛からず。実に不思議である。連中いまでも全数居るのかなあ。



まずはヤドカリたちの様子から
↑2004年7月18日の採集(南紀白浜)から生き残っていた海ヤド水槽のヌシ、
イソヨコバサミの「磯六」が、5月26日突然死。
岩の上に貝殻が載っているのに中味が見えないようなので探すと、
イソギンの隣に裸でコロがっていた。飼育1年と10か月。
新顔の入居でイソヨコハーレムを作ってゴキゲンな様子だったのだが…。
イソヨコバサミは他種と較べると、換水直後によく脱皮するので、
水質にデリケートな種だとは思っていたが、イソ六もやはり脱皮不全か。
それともそろそろ飼育下寿命だったのか。
イソヨコバサミにしてはかなり大きな個体に成長していた。
この写真が生前最後の撮影。
(06.05.13撮)

↑採集時には気付かなかったが、持ち帰った海藻にチビヤドが多数付いていた。
そいつらが成長するにつれ、目新しい輩も見られるようになった。
なにやらヤブカみたいな奴だが、クロシマホンヤドカリか?
成長を愉しみにしていたのだが、いつの間にかいなくなってしまった。
なんつってもウチの水槽は過酷だからなあ。
(06.05.13撮)

↑赤ヒゲのヤドカリたちは、脚が白斑点のホシゾラホンヤドカリしかいない
とばかり思っていたが、よく見りゃこいつは黒斑点である。
なんだ、ケアシホンヤドカリもいたのか。
厳しい夏を越すうちにヨレヨレのドドメ色になってしまってはいるが、
この個体、現在もしぶとく棲息中。
(06.07.16撮)

←ライブロック上に憩うホンヤド軍団。本来、「ヤドカリパーク」とは、こういふ長閑な風情のことを呼んでいたモンだが、最近はなにやら怪しげな単語に変貌してきたきらいがあるなあ。
(06.05.11撮)
←イソギンチャクの脇を歩くホシゾラホンヤドカリ。来訪当初のイソギンはちょこまかと動き、ソソクサと水槽奥の岩陰に隠れてばかり。メンテがしにくいし餌もやりにくいので、その都度、岩ごとぐるりと回転させ水槽正面に鎮座させていたが、弱ったのか諦めたのかどーでもよくなったのか、現在は移動しなくなった。
(06.05.11撮)
←今まで、海ヤド槽のエサは、テトラミニグラニュール(沈下性)と固形の配合飼料のヤドカリ・カニのエサ、それに塩蔵生ワカメ、たまにクリルとニボシというラインナップだったのだが、イソギンとウニの来訪で、あらたに冷凍ミックスシーフード(エビ・イカ・貝柱・アサリ等)が加わった。スーパーで独身者向けの食べきりパックつうのを買って一旦解凍し、微塵切りにしたものを小袋に分け、再冷凍して保存し、与えている。「おかげで美味いもんにありつけるようになった」と喜ぶホンヤド陸軍二等兵。
(06.06.29撮)
←岩上に和む。左からコシダカガンガラ(巻貝)、ホンヤドカリ、ケアシホンヤドカリ、ホシゾラホンヤドカリ。こんなに回りに同類が集っているつうのに、ホンヤドは無造作にスポン!とその場脱皮。おまけに脱いだ殻はポイ捨て。オカヤドの入念かつデリケートな脱皮に較べると、なんともないがしろに見える。まあ、敵の多い磯では、テキパキ済ませちまったほうが安全ということか。
(06.06.30撮)
←傾向を見ていると、ホシゾラホンヤドカリはどうやらクボガイの貝殻の宿をお好みのようだ。ただ、このクボガイの貝殻、ムラサキウニも好物なようで、自分のまわりにある貝殻を触手で集め、口で砕いてバラバラにしてしまう。おかげで入居可能なクボガイ貝殻はどんどん数が減ってゆく。
(06.07.12撮)
←今年来たイソヨコバサミは、いまいち元気がない個体が多かった。青の色落ちも激しいし、一緒に洗濯できんぞ(笑)。こいつもなんとなくショボクレている。イソ六の時はイソヨコ全盛だったのになあ。連中、水質変化に敏感に反応して脱皮するようなところがあるので、イソギンやウニが来て、海水換えのペースが上がった影響があるのかも。
(06.07.29撮)

脱皮に失敗したイソヨコバサミ
↑イソ六が逝って、ヤド連ナンバー1の座を得たこのイソヨコ君だったが、
6月3日、あらら、脱皮に失敗。ツイてないなあ。
体や鋏脚は上手く抜けたのだが、歩脚のヌギヌギにことごとく失敗。
脚先に脱皮殻がくっついて身動きが取れず。「う〜ん無念」である。
噂によると、脱皮の最中にいきなりメンテをしに来たオッサンがいたらしい。
(06.06.07撮)

←動けないんじゃ仕方がないんで、こいつだけにはピンセットで餌を口元に与えてやっていたが、6月23日、なんとか緊急再脱皮を敢行。脚は再生した。しかし栄養が足らんかったのか、とりあえずは貧弱な脚しか…で、あいかわらず満足には動けず。だいたいが非常時つうのに、こんなにデカくて重い宿(イソ六の)に入っているのがアホなんだが。
(06.06.29撮)
←飼い主の罵倒がようやく届いたとみえ、ようやく軽めの貝殻に引越しした。遅い、つうの。しかし情けない脚先だなあ。
(06.07.12撮)
←やはり緊急再脱皮というのでは、即、カンペキ五体満足というわけにはいかないようだ。歩脚は細くてひょろひょろだし、初回には無事だった鋏脚まで若干矮小化してしまっている。その後、再々度の脱皮をしたようだ。現在、水槽にイソヨコバサミは一匹のみ健在だが、この脱皮に失敗した個体がしぶとく残っているのかどうかは判別できていない。
(06.07.12撮)

カニ連中、その後
↑今回採集のイソクズガニは非常に活性が良く、
強面オウギガニのチョッカイからも上手く立ち回っていたので、
こりゃ今度は長生きするかも、と愉しみにしていたのだが、
その元気さが裏目に出た。
6月のある日、姿が見えなくなったので捕食されたのかと亡骸を探したがナシ。
で、7月の末になって干物発見。脱走であった。元気も困るナ。
(06.05.11撮)

←イソクズガニの体表には、海藻などをくっつけて偽装するのに適した細かな突起がたくさん付いている。自然とはまったく面白い仕組みを生みだすもんだ。写真の脚を見るとわかるように、マジックテープのオス面まんまである。あれの特許をとった発明者は、ひょっとしたらイソクズ愛好家だったのではないか。つうことは磯採集にマジックテープのメスシートを持っていきゃ、イソクズガニ大漁か? こんど試してみよう(冗談)。
(06.05.11撮)
←6月に失踪してからひと月以上経った7月30日、水槽近辺にある古新聞置場の底から発見されたイソクズガニの亡骸。ま、ミイラですな。陸に上がってもなお海藻の変わりに、ちゃんと全身に埃とハウスダストを装着しているのは立派。その名に恥じぬ見上げた了見だ。(って、しっかり家を掃除しろよ管理人!)
(06.09.05撮)
←採集したつもりはなかったけれど、知らぬ間に紛れ込んで来ていたヒライソガニの幼体だが、こいつ、ビビリなんで常に砂中に潜っていて滅多に出てこない。月に一回見かけるかどうかくらいだったが、たまたま出会ったのでパチリ。採集時の甲幅は6mmくらいだったが、2か月強経過して10mmくらいには成長していた。体にあった白い縞模様は消えている。この撮影以降一度も目にすることは無かったので、とうとう捕食されてしまったかと思いきや、なんとつい先日、水槽から3mほど離れた壁とカーペットの隙間で干物発見。ヒライソ、お前もか!(だから掃除しろって管理人!)
(06.06.29撮)
←10月の声を聞いてから発見された、脱走ヒライソガニの亡骸。甲幅15mmほどに成長していたところから推測するに、8月末頃に脱走を敢行したものと思われる。この夏はヤドカリも何匹か脱走死した。例年、夏には高水温を抑えるために照明を控えていたのだけれど、今年はイソギンがいるのでなるだけ照明を当ててやろうと思い、冷却効率を高めるために、やむなくガラス蓋に少々のスキマを作っていたのが仇となった。しかし長時間かけて乾燥しきってしまうと、脱皮殻も亡骸もほとんど同じだな、カニは。
(06.10.13撮)
←「ふっふっふ。みんなには煙たがられているようだが、生憎オイラは元気だぜ!」てなところか。ハサミも大きく怪力自慢の水槽のチンピラだが、実は案外不器用で、ガラスやコードを這い登っての脱走などとてもできない運動オンチなのである。そのオウギガニ、相変わらず、毎日岩組をひっくり返したり大穴を掘ったり貝殻を集めたりヤドカリを脅したりしながら地回りを続けている。現在、甲幅は30mmくらい。コイツとケブカガニは両方とも先代とまったく同じ行動をしているので、前の個体がまだ生きているような錯覚にとらわれてしまうほどだ。
(06.07.12撮)
←こちらは8月1日に回収したオウギガニの脱皮殻。亡骸ではない。この時点での甲幅は20mm強だった。
(06.09.05撮)

↑採集したときには右の鋏を欠損していたケブカガニだが、
5月12日に脱皮をして無事再生。写真はその脱皮翌日の様子。
まるで髪結いに行ったごとく、毛並みも色も非常に美しい。
現在も健在だが、先代と同じ穴ぐらに入ったきり滅多に出てこないので、
なかなか撮影するチャンスがない。
玄関先(穴の前)にシーフード片を置いてやると、
のっそりハサミだけ出して掴み、穴に持ち帰ってゆく。
(06.05.13撮)

フジツボご来宅

←5月13日、偏屈酒場ご常連の赤海鼠磯吉さんが、生鮮スーパーで購入した刺身セットのサザエの貝殻に元気なフジツボが大量棲息しているのに気付き、むざに殺すのは忍びないとわざわざ拙宅までお持ち込みに(どうせなら刺身本体の方が嬉しかったんだが)。直径5cm程度のトゲ無しサザエの貝殻一個にびっしりと付いたフジツボ(サラサフジツボか?)で、50個ほどの個体すべてがさかんに鼻毛(蔓脚)を出し入れしている。さっそく海ヤド槽に投入したのだが…。
(06.05.13撮)
←ふと、『ワルキューレの騎行』のバックミュージックが流れたような気がしたら、あんのじょう岩陰からイボニシがぬっと登場。長い間、岩の裏側に潜行していた「アンダーテイカー」だが、この行動の早さには恐れ入る。いつもは死体処理中心で、生体食専門の「ハンニバル」(レイシガイ)と役割分担しているのだが、今回は別のようだ。よほど美味そうな臭いが漂ったものとみえる。ま、この嗜好の違いはウチのご両人に限っての傾向であり、図鑑などによるとイボニシのほうが俊敏で獰猛とある。
(06.05.13撮)
←最大戦速でサザエ殻に一番乗りしたアンダーテイカーは、「とりあえずビール」てな優柔不断をかますこともなしに、いきなり最寄りの個体に食らいつく。んでもってしばらくゴソゴソやってから、隣のフジツボへと箸を移す。通過したあとを見ると、フジツボの蓋部分と中味はスッポリと空に。このペースで喰われると早晩全滅に違いない。フジツボもしばらくの間は観察したかったので、食事中を無理矢理ひっぺがしたが、またすぐ一直線にやってくる。こりゃ仕方がないわいと諦めた。ひと晩で4〜5個は平らげたようだ。喰われている個体の、すぐ隣のフジツボが健気に蔓脚を出し入れしているのを見ると、「もののあはれ」を感じる。
(06.05.13撮)
←おや、今回はやけに役者の出が遅いね、と思った途端、『吹けよ風、呼べよ嵐』の幻聴に乗って、レイシガイの「ハンニバル」がやっぱり登場。でも、触角と水管をアンテナに振りたてながらも、なんか方向を決めかねてウロウロしている。春の採集以来、大量の巻貝どもが同居しているので餌の臭いが交錯し、フジツボのターゲット位置を正確にサーチできないのか。そりゃあんた飽食だよ、飽食。
(06.05.13撮)
←25日ほど経過した。もはや存命のフジツボは、ほとんど無し。しかし、なおもハンニバルが来ているということは、どこかにまだ生き残りが逼塞しているのだろう。アンダーテイカーとハンニバルは空腹を感じるたびにサザエまでやって来て、フジツボを食しては、満腹して岩陰に戻るという行動をくり返していた。ま、フジツボ達の人身御供のおかげで藻食巻貝連中は、しばしの間にせよ気壗に暮らせる時を得た、というもんだ。5月末にイソ六が身罷ってしまったので、海ヤド槽の最古参住人は、とうとうこいつら肉食巻貝2匹ということになってしまった。もはや来宅後2年3か月を超えたが、果たしていつまで生きるものか。
(06.06.07撮)
←時が過ぎた。投入直後は、イボニシのみかヤドカリやカニも頻繁に訪れ、全島くまなくツルアシが活発に動き(ツルハシの駄洒落でっせ)、石炭産業全盛時の炭坑街のような活気に満ちあふれていたサザエ殻だったが、もはや動くものはなし。訪れるイキモノもなく、まさに廃墟の趣を醸し出している。嗚呼軍艦島。フジツボの頂部は、噴火した火山のカルデラのように空虚な穴を晒しているのみだ。イボニシどもの歯舌の威力の強烈なことよ。しかし興味深い観察ができた。赤海鼠さんありがとうございました。これに懲りずにまたお願いします(こんどはゼヒ刺身付きで!)。
(06.06.29撮)

イソギンチャク変貌
↑「びろろ〜ん」
前回の記事写真を見ていただくと変化がよくわかると思うが、
採集時、まるで生娘のように愛らしくピチピチしていたイソギンが
当水槽の毒気に当てられたのか、あれよあれよオバハンの風情に変貌した。
現在、嫁取りに憧れている男子諸君、とくとご覧あれ。
(06.07.12撮)

←こいつが何イソギンチャクなのか、わたしには解らないけれど、淡いピンク色で均等に短くてハリがあった触手が、来宅2か月でこんなにひょろ長のモジャモジャに。色もドドメ系になってしまった。水温の上昇を押えるために照明を控え目にしていたのだが、光量が不足したのだろうか。ええいままよ、とフル点灯したアオリで、カニ連中の脱走死があいつぐ結果となってしまった。一見、弱ってグッタリして来たようにも思えるのだが、ピンセットでシーフード片などを差し出してやると、俊敏に引ったくるようにしてモリモリ食べる。あいかわらず食欲は凄いし、どんどんデカくなってきた。どうなる今後?
(06.06.29撮)
←朝、照明を点灯しに行くと、こんなふうに蕾んでいる時がたまにある。なんというか、まあ情けないこと。口元に食いさしを付けたままで実に貧相。饐えた風情というか淫猥ですらあるなあ。場末の遣り手婆アつうか。娘時代の、あの清純さよ、いずこへ…。
(06.07.16撮)
←活発に触手を動かしているかと思えば、全身脱力したり、小さく縮んだと思えば、目一杯膨張したりするので、見ていて飽きないやつだ。イソギンチャクを飼育するのは初めてで、要領がわからないぶん、結構気を遣わされる。死んでしまうとカラダが溶け出して、水槽中ワヤになるらしいから、管理がたいへんだ。普通はどのくらい生きるもんなのか。
(06.07.29撮)
←最近に及んで、おばはん度はますます加速。だらしなくデローンと広がり、口を剥き出して見せていることも多い。小さい水槽の中央にデンと鎮座して長く伸びた触手をゆらゆらさせているので、嵩張って仕方がない。こうなってくると他の生物にとってもかなりの脅威だ。裸のヤドカリやチビヤドなどが近くを歩いて、少しでも触手に触れようものなら、あっという間に取り込まれて食われてしまう。いまだ現場は見ていないが、イソギンの犠牲になった個体も結構いたのではないだろうか。
(06.09.02撮)

ムラサキウニ肥大中
↑採集時は棘先までの径を測っても2cmくらいしかなかったチビだが、
まあ食うわ食うわ。
食っちや寝食っちや寝で(ウニが寝るのかどうかは知らないが)
かくして寝る子は育ち、もはや棘径7cmになんなんとす。
(06.06.29撮)

←採集後一週間ほどは、ライブロックの窪みに縮こまっていたが、意を決したか、ある日水槽右奥隅のガラス面に移動。以後、そのままローターSの陰あたりに落ち着いている。毎日少しずつ移動しているが、この隅っこの範囲から遠出することはない。ま、こちらとしては針師には隅っこに居てもらったほうが、メンテがしやすく好都合だけれど、暗い場所なので観察・撮影には難あり。
(06.05.11撮)
←殻径でいうと、3cm〜4cmというところか。元気に棘を伸ばしているが、とりあえずガンガゼじゃなくてよかった、と。しかしまあ良く食う大食漢である。好き嫌いなくなんでもござれだ。シーフード片などは棘先に引っ掛けておいてやると、ちゃっちゃと口に運んでしまう。塩蔵ワカメも好物で、四六時中食っている。あんまり食うんで、意地悪して棘先から少々離して置いてやるんだが、ちゃんと動いてきて掴んで口に運ぶ。サンゴ砂も食うし、ヤドカリの宿替用貝殻まで集めてきて齧ってしまうので困る。特にクボガイやコシダカガンガラの貝殻をお好みのようだ。しかして足元には貝殻の破片が散乱してしまうことに。
(06.09.02撮)
←上の写真を口のほうからのアングルで。棘に触れた餌を口まで運ぶのは意外なほど素早い。
(06.09.02撮)

う〜ん。半年経過して総括してみると、この海ヤド水槽、もはやヤドカリ連中の影薄く、オウギガニがのしているように見えるものの、実権はイボニシ、レイシガイの肉食巻貝と、イソギン、ウニの4巨頭によって牛耳られている環境だと言えるなあ。あと、砂中のゴカイ類が裏社会のドンか。

↑初代・磯六(2006年5月26日没)
(06.04.20撮)

住人覚え書/2006.10.13現在
●先住者(2004.7.18採集)
・ハンニバル(クリフレイシガイ)
・アンダーテイカー(C型イボニシ)
・ゴカイ類:無数(ま、代替わりしてるとは思うけどね)
●06年春入居者(2006.4.18採集)
・ホンヤドカリ:5〜7
・イソヨコバサミ:1
・ケアシホンヤドカリ:1
・ホシゾラホンヤドカリ:1
・ケブカガニ:1

・オウギガニ:1
・イソギンチャク:1
・ムラサキウニ:1
・アマオブネガイ:2
●過去帳(2006.5.3以降/確認できたもののみ)
・没 磯六(イソヨコバサミ/5.26)
・没 イソクズガニ(6.7脱走/7.30ミイラ発見)
・没 カタベガイ・小(7.12)
・没 カタベガイ・大(7.28)
・没 イソヨコバサミ:1(8.13)
・没 シッタカ・大(8.19)
・没 ヒライソガニ(8月末頃脱走/10.5ミイラ発見)


巻貝(ハンニバル&アンダーテイカーの餌)たち2

←カタベガイ(大)がひっくり返ったスガイを介抱中、てなことはなく、スガイの貝殻に付いている苔を食べているところ。カタベガイとシッタカ2匹はそのカラダの大きさゆえ捕食されることなく長く生きていたが、いかんせん餌が足りなくなってしまった。死因はたぶん餓死だと思われる。
(06.07.12撮)
←毎年、夏のある時期、巻貝連中が軒並み砂地にひっくり返ってしまうときがある。やはり水温上昇の影響なのだろうか。死んでいるわけではないが、この体勢、イボニシやレイシガイ、カニやヤドカリに対してあまりにも無防備。拾い上げて岩に載せてやるとまた動き出すのだが、しばらくするとまた落ちてしまう。写真はコシダカガンガラ転倒中。上写真のスガイも同様。
(06.07.16撮)
←こちらは卒倒中のクボガイ。
(06.07.16撮)

当初、あっという間にピカピカになった水槽を見て、持ち帰り過ぎたと舌打ちした巻貝類だが、ひと夏過ぎれば、それも杞憂。まず、小型のスガイ、イシダタミガイ、クボガイあたりから捕食されて数を減らせてゆき、夏の盛りまでは大型のカタベガイとシッタカが残っていたが、やがて力尽きた。いまだ健在なのはアマオブネガイ2匹のみである。アマオブネはイボニシに強い貝なのと小食なのが幸いしての無事だろう。
その他

←で、あんた、誰?
(06.06.30撮)

↓ヤドカリパーク(ライブロック)を囲むカタベガイ、レイシガイ、シッタカの面々。
「なんかパーティ会場みたいな風情でんなァ」(06.06.29撮)
2006/10/14 (Sat)

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