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08 日本語練習帳
大野 晋 著
岩波新書
投稿人:コダーマン ― 00.07.11
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これは1999年の1月に出た本で、出た日に買っている。大野晋という国語学者を私は尊敬していて、著書の多くを読んでいる。もちろん国語学の専門書ではなく、この本のように一般向けに書かれた本だが、私自身が生きて使っている母国の言葉についての知識を深めることができて、教えられることが多かった。
一年半もの時間をおいて読んだにはわけがある。買って少し経って、そろそろこの本を読む順番だなという頃に、この本がベストセラーになってしまったのだ。大体、世の中の人がこれが面白いと沢山売れるような本は、私には面白くないのが相場である。仕事で2年間ぐらいその時一番売れている本を読むということを経験したが、私にとって興味深い本が皆無だった。皆無は、すごいよ。特にノンフィクションでベストセラーになるのは「口当たり」が良すぎて、ナマイキな言い方だが「易しすぎて」つまらない。
そういうことがあったので、この本が評判になったことから急に興味を失ってしまった。一年半過ぎて、やっとほとぼりがさめ、今ならこの本を読んでもいいという気持になったので手にとった。なかなか上手に作ってある本で、その点では感心した。
練習帳としたところがツボで、軽い問題を出して、答えさせ、それについて日本人なら感覚的にわかっている言葉の使い分けについて国語学の方から分析をしてみせる。
ところが、私はこの方面に興味を持っているので、昭和51年といえば1976年か、その時に出た『ことばの意味』という本を読んでいて、それとこの練習帳は似ている部分が多いことを発見した。『ことばの意味』という本は、「上がるとのぼる」の使い分けはどうなっているかというような内容で、若かった私は非常に深く興味を持ったことを今でも覚えている。階段をあがる、階段をのぼる、これは両方言えるが、木にあがる、木にのぼるでは、木にあがるは言えない。さてそれはどういうことかという本だったのである。そういう例が並んで、そこから単語の語源や日本語の使われ方の変遷にまで「軽く」及ぶものだった。
『日本語練習帳』は、最初に「思うと、考える」の使いわけから始まる本だった。こういうのは自分の言葉の感覚を磨き、日本語について考えるいい機会になるので楽しんで読んだけれど、これは昔あったぞ、という感じは否めなかった。
だからといって、この本の価値が下がるわけではない。日本語という言葉の認識が深くなり、自分自身の使う日本語を磨き直そうという気持にしてくれる本である。よい文章を書く心得も書かれていた。非常に参考になったが、こうしてこの本の紹介を書いている段階ではその心得が全く身についていない。私は、小説を書いたり随筆を書いたりする望みを持っているが、基本は、よい文章を書くこと、文章家になりたいというのが本来の目的なのである。語彙を増やし、質の良い、読みやすい日本語を書くことができたらどんなにいいだろう、そう思う。そう思う人間に必要な本は読んでおきたい。
ということで、何かの折りに日本語の文章心得を読み返すために、蔵書にしてもいい一冊だと思う。
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