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09 ペリー艦隊大航海記
大江志乃夫 著
朝日文庫
歴史ノンフィクション
投稿人:cave ― 00.07.14
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この本は、1853年に黒船を率いて浦賀に来航したペリーの公式報告書を、黒船来航の社会史として読みなおしたものだ。鎖国の日本と近代文明のアメリカの違いといってしまえば「勉強」させられているようで面白くないが、読んでみるとペリー提督は、初めて接する「日本人」と「日本の文化」に対して細かな観察のうえ、かなりの賞賛を与えている。それはすでに欧米の植民地化していた中国や東南アジアの国々と比較してのことだが、我々日本人がもういちど自分たちをかえりみ、反省すべきを反省し誇るべき資質には自信をもって世界に発言してゆくためのヒントとなる「客観的考察」がある。わたしは「江戸の日本人」に非常に親しみを覚えるタチだが、最近の日本のありさまを観ていると幻滅を覚えるばっかりなので、ペリーの賞賛を知り、ますます「江戸帰り」したくなってしまった。できることなら江戸時代に戻っていちから近代をやり直したいものだ。
彼の数ある賞賛のなかから、わたしの印象に残ったものを挙げると、まずは総論として「日本の前途は非常に有望であり、将来アジア地域のリーダーになりえる国民性と文化を有している」と予測していることだ。
当時の日本人をよく観察して高い評価を与えているが、そのひとつは技術力だ。手先の器用さプラス好奇心、敏速さを考慮すると、「鎖国を脱して文明世界にエントリーしたなら強力な競争者になるだろう」と予測している。だって欧米は、そのへんが不器用でルーズなもんで奴隷を使ったり機械工業化をいそがなければ先に進めなかったんだもんね。
次に女性の地位に対する賞賛がある。日本女性が他の東洋諸国のように奴隷でも家畜でも売春婦でもないことに驚き、そしてそれは「高い道徳観念を有し洗練された国民だということを示すものだ」と述べている。ただ既婚女性の「おはぐろ」には露骨に「いとわしい」と嫌がっているのには、提督の好みが垣間見えて面白い。まああれは確かに気持ち悪いものではある。時代劇でもあんまり考証しないことにしてるぐらいだもの。女優が鬼婆みたいに見えてしまう。あれが結構当時の「不倫」防止に一役買ってたかもしれない。
もう一つあげておくと、絵画のことがある。日本の子供向きの絵本を見て、「ユーモラスな感覚をもって滑稽なものを描けかつそれを見て心地よく笑うことのできる人民は進歩した人民である」と結論している。その点を現代に当てはめてみると、かなり後退しているに違いない。江戸時代の市民の「ゆとり」が産みだしたこれらの戯画は、いまのマンガにはない、おおらかな感性が含まれていたと思う。
この「遠征記」を開国や通商条約のほうから捉えるより、ひとりのアメリカの偉いオッサンには当時の日本はどう見えたのか、こちらから見たほうが断然面白い。文明の国から近代的な蒸気船でえばってやってきたんだが、こうも江戸の日本を評価する羽目になってしまったのは「やっぱりうっとこは田舎モノ」ですと、かっての某大臣の放言じゃないが、表明してしまっているような気がする。
本の冒頭は、コロンブスとその時代背景から始まっているのだが、結局、探検の歴史とは列強の開拓の名のもとの侵略の歴史で、その身勝手たるや酷いものだ。マヤやアステカは滅ぼし、アフリカじゃ奴隷を収穫し開拓に使い、中国では麻薬で商売する。いまでもサミットじゃつんとおすましなさっているが、スペイン、ポルトガル、イギリス、フランス、……しらんぷりしててもいいのか?もう時効にしたのか?そちらの都合で。ウチんとこは謝っても謝っても、もっと謝れ、誠意が足らん、金出せといわれ続けてますんやけど…。
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