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118 白い雌ライオン
ヘニング・マンケル 著
創元推理文庫
海外警察ミステリ
投稿人:コダーマン ☆☆☆ 04.10.26
コメント:読み終えたときの満足が大きいぞ!。 |
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一冊目が『殺人者の顔』、二冊目が『リガの犬たち』で、今度が三冊目。
私がよく紹介するスタイルで、シリーズものだから断じてシリーズ順に読むこと。一冊目だけ紹介して、二冊目を紹介しなかったのは、レベルが落ちたのでも、面白くなかったのでもない。一冊目を読んだら、次々に読まないではいられないぐらい面白いから、もう言わなくてもいいなという気持があったから。
さて『白い雌ライオン』。
本文が9から701ページまで続く、ほぼ700ページの及ぶ質の高いミステリ、警察小説。
このシリーズは、著者の国スウェーデンではもう9冊目まで出ているという。それならどんどん訳してくれよ、と、思うぐらい面白いので東京創元社のサイトに「まだ出ないか? いったいいつ出るんだ?」という内容のメールを出してしまったぐらいである。
ページ数が多く、時代を行き来するところがあり、場所も大きく二ヶ所スウェーデンと南アフリカ、細かくはもっと多く。登場人物も割に多い方である。それでも迷うことなく、「私でも」ついていけるというのは書く方に力があり、読ませようとする意志が最後まで持続しているのだろうと感心してしまった。500ページを越すような文庫では、ほぼどこかで誰が誰やらわからなくなったり話がこんがらがったりするのだが、そうさせないで最後まで読ませてくれるのはすごいと思った。
その点では、安心して読める。だからといって話が浅いわけではない。
世界的な重要人物を「どうしても殺してしまわないではいられない」一団がいる。
その一団がどういう風に形成されていったか、この話が読ませる。が、長い。しかし長くても退屈しないし、これがないと殺す理由も理解できない。それどころか、時代と民族抗争、人種差別の背景がわかって興味深い。
その計画殺人は非常に難しくて、射撃手を厳選する必要もあり、訓練もしなければいけない。白人であってはいけない理由もあるので、肌の黒い冷徹な殺し屋を選んで、元KGBの人間がスウェーデンで訓練している。標的が遠くにいる、というか近づいて撃つわけにはいかない情況で殺さなければいけないのだ。
なお、スウェーデンというのは、正式にも違法にも外国人が入りやすい国らしい。
この連中が、主人公の住んでいる街の片隅にひっそりと家を借りて、射殺訓練を続けている。
誰も気づいていない。
その借家に、日常の仕事の一部として、物件を探している途中の地元の不動産屋が迷い込んで行ってしまうのだ。
借家にいる連中は、顔を見られるだけでも「まずい」と判断して、この不動産屋を殺してしまう。殺して、死体を隠してしまうのである。顔を見られた、殺せ、である。
こうして背景になんの理由もなく殺されてしまい、永遠に家に戻らないことになってしまった女性の夫が妻の捜索願を出す。この地元の小さなできごとが発端になる。
北欧の街の、大事にはなりそうにもないような行方不明、あるいは失踪事件を真面目に取り上げて、捜査を積み重ねていく主人公たち、警察署の面々。
しかし、日常生活にも仕事上も何ら「問題」のない人の失踪は、やっかい。
ひたすら丹念に足跡をたどるしかない。どの時点、どの地点で消えたか? 行方不明なのか誘拐なのか、失踪か、殺されたか全然わからない。「恨みを持つ者は? もしかしたら夫以外に男がいたのではないか?」といった基本は全部空振り。
そうして警察が、女性の足取りを探って一本の道をたどっている時に、その道の先の家が大爆発して跡形もなく消えてしまう。彼女が道に迷って向かってしまった家である。
読者には、殺人の訓練をしている者達が借りていた家を爆破して、そこにいたことを示すものを全て消して逃げてしまうための「爆破」だったとわかるのだが、警察には何がなにやらまったく見当がつかない。普通の火事ではなく、空き家だったはずの家が「高性能の爆薬で、跡形もなく」破壊されなければいけない理由は?
とにかくわけのわからないことだらけ。でも、主人公はあきらめない。こんな街で、こんなことが起こるのは普通ではない、ということで、しつこくあきらめないで捜査を続けていく。
北欧の街の失踪事件から、南アフリカの人種差別政策の終焉、「デクラーク大統領と、マンデラ」の登場に繋がっていく大きな大きな物語である。この二人の大物の、どっちを狙うのが目的なのか? なぜ殺さなければいけないか。北欧の警察官以外に阻止しようとする者はいないのか。
700ページの文庫本は、厚切りトーストのような存在感。この厚みの分、ぎっしり面白さが詰まっていると信じて読んで間違いない。
もう少し、短い間隔でシリーズがでてくるといいのだけれどなぁ。
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