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35 殺人者の顔
ヘニング・マンケル 著
創元推理文庫
海外ミステリ
投稿人:コダーマン ― 01.03.26
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これは、当てました。大当たりです。読み終えたとき、ミステリ好きの仲間全員に読め読めと言うことに決めた。
スェーデンの作家による警察小説である。スェーデンの警察小説といえば、かつて名作の誉れ高かった「マルティン・ベック」シリーズがある。これはいまでも全10巻角川文庫で手にはいる。それはそれで間違いなく面白いので、その月まるで面白い本を見つけることができないときに順に買って読んでいる。去年、2冊読んだがいまでも古びていない。
さて、その国でまた新しい警察小説が生まれた、と大声で言っていいんだろう。都合のいいことに、これが第1作目、全9冊を書いてシリーズを終了したと「訳者あとがき」に書いてある。これから8冊、角川文庫で出してくれれば、全部読むつもりになった。
さて。スェーデンの、雪の降り出しそうな遅く暗い朝。老人夫婦が殺される。発見したのは、ずいぶん離れた隣家の老夫婦で、いつもの朝の様子が見えないないので、ゆるゆると見に行ってみたら、むごい殺され方をしている。
連絡を受けた主人公とその同僚たちが、動き始める。この男たちはそれぞれに、病いを抱え、家庭に問題を抱え、捜査方針に疑問を持ち、連続勤務で疲労困憊。しかし時にユーモアを交え、鋭い推理を披露し、ひっそりと友人を助け、振り出しに戻る捜査に愚痴も言わず、捜査を積み重ねていく。この、大人の集団が、なんとも滋味豊かだ。
主人公のカミさんは最近子供を連れて出ていってしまい、主人公は心の傷が癒えていない。娘には会いたいがなかなか会えない。そればかりか、アフリカ系の恋人と同棲しているという連絡をよこし、これも心配の元。カミさんへの未練が断てないで電話しては冷たくあしらわれる。
小説全体に、奇を衒ったことがひとつも出てこない。証拠を調べて、コツコツ実証を重ねて行くだけである。うまくいかないで苦況に追い込まれ、事件は未解決かというところまで行ってしまう。しかし、それまでに積み上げていった捜査と推理とが背景として役に立って解決にたどり着く。
小説を読んでいて、こういう本に出会いたくて本を読んでいるんだよ、と思うような一冊である。年に何冊も出会えるようなミステリではない。翻訳の質も高く、大人の文章を楽しんだという余韻がなんとも心地よい。前にも書いたが、このところいい小説に出会えて楽しい。特に、この洞窟では文庫、新書に限っているが、これが波に乗っているといっていい。
警察小説の良質ものは、この小説に描かれているように、警察官たちのそれぞれに個性があり、それが十分に描かれていることが素晴らしい。主人公から遠い関係になるに従って細かい書き込みは少なくなるが、それでも張り込みの時の言葉のやりとり、捜査会議の場での質問や疑問や、揶揄などによって姿が見えるようになってくる。かなりたくさんの人物が出てきても、読者を混乱させることがないのは、見事。
あとの8冊が期待できる。
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