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123 爆魔[上・下]
ブライアン・
フリーマントル 著
新潮文庫
海外ミステリ(国際謀略)
投稿人:コダーマン ☆☆☆ 05.02.12
コメント:文庫2冊が、アッという間 |
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これは、しっかり面白い本です。
「ダニーロフ&カウリー」シリーズの3冊目、フリーマントルの作品といえば、もう一つ別シリーズの、チャーリー・マフィンがある。どちらかといえば、読んでいて「つらいことの多い、チャーリー・マフィン・シリーズ」よりこっちが少し気に入っている。こっちもつらくはあるが、適度な甘味と苦味がある。
まぁどっちも「これ、読まなきゃぁ」という面白いシリーズだと思う。実は、3つめのシリーズもあることはあるこの作家。どれを読んでも面白い人である。
前作を紹介しているような気がしていたのだが、25冊目にシリーズの2『英雄』を紹介している。シリーズは、『猟鬼』、『英雄』、そして『爆魔』と並んだ。もし読んでいないとしたら、ものすごく面白い小説を本屋に預けてあると思って、金を持って取りに行けばいい。「ダニーロフとカウリー」の人間関係の深まりをたどるためには、順番に読むべきです。
さて、「爆魔」というタイトル、新潮文庫お馴染みのひどいタイトル。ひどいときに限って、中身が面白い。というと叱られるだろうが、これは「どうしたって、読まなきゃぁ」です。新潮文庫の海外物を並べてある棚で調べてください。
連作小説の情況を説明しておきます。例によって、長いです。たぶん前にも書いていると思う、私のことだから。
モスクワ民警の刑事ダニーロフと、アメリカの連邦捜査局の捜査官カウリーが「一緒に」事件を捜査しなければいけなくなる。それがこのシリーズの、非常に素晴らしい設定。
初めの事件では当然初対面、ホワイトハウス・クレムリン双方とも、二人に対して「失敗しても、こいつの責任にして首を切ればいいや」というような考えで捜査を担当させる。国際的強調を演出するための、米露協同捜査で出合うことになった。
「二人それぞれ」に上司から、相手を出し抜けと命じられていた。
事件に関して掴んだ情報を「あいつらに教えることはない」、クレムリンだけに報告しろ、FBIの上層部だけに報告しろあるいはホワイトハウスだけに言え、というようなことを負わされてしまう。事件の捜査という面で見れば、半分ずつの証拠や証言しか得られないので、解決にだとりつかない。
上司たちは、情報や事件解決の進展を自分の地位保全や、あるいは国際的・国内的アピールのために使おうとしか考えていない。うまく行かなければ相手国のせい、解決できれば「我々、あるいは私の手柄」である。
さらにアメリカだと味方の側に、大使館がらみでFBIとCIAの確執があったりで、ロシアに出かけて捜査に携わったカウリーは辟易する。ロシアのダニーロフも、クレムリンの中の権力抗争の駆け引きに利用されるばかり、「私だけに報告しろ」と命じる人間が何人もいるといった具合で、事件の解決に向かえないのだ。ロシアの場合、間違った側についてしまうと、勢力争いの結果職場を追われてしまうことになる。田舎の警察に流される!
ダニーロフとカウリー、どちらも主流派の中にはいないが優秀な捜査官で、命じられて仕方なく一緒に仕事をしているうちに、政治権力の汚い争いからは離れた立場で、信頼できる人間だと思い始める。人間的な信頼やふれあいもあるが、初期は「なんとかうまい具合に事件を解決して、生き延びないと自分の人生が大変なことになる」というギリギリの所にいることの共感も分かち合うことになった。置かれている状況が似ている。
二人の捜査がうまく行った暁には、自分の手柄にして「米露、あるいは露米の信頼の絆を作ったのは私である」というつもりの奴ばかりに囲まれている、という全くやりきれない中での仕事を強いられていることがお互いにわかりあえた。
また、二人とも、家庭的な問題を抱えていて、国際的事件を担当する二人の捜査官として注目を浴びながら、自宅に戻れば惨めな状態という、フリーマントル得意の、主人公に猛烈な負担をかけるスタイルの物語でもある。これは、重要なので、ここには書かない。
個人的生活での苦悩、事件解決を負わされている重い責任、成果が自分のものにならず失敗すれば左遷、情報を交換できないせいで解決の道筋が見えないやりきれなさ、長引くだけでも失敗とみなされかねない時間との戦い、事件解決の途中で現れてくる不正、国際的な罠にかまける政治家のせいによる事件解決に役立つはずの証拠の隠滅。
八方ふさがり、そうした中でジリジリと事件を解いていく。
二人の捜査官が、個人的な苦しい情況をお互いに理解し合いながら、情報をすこしずつ交換しつつ、保身と解決をバランスよく成功させていく。そういう、大人同士の信頼ができあがる。
そうして、モスクワ民警の刑事ダニーロフと、アメリカの連邦捜査局の捜査官カウリーがそれぞれの国で優秀な捜査官として現場に残ることができた。だから今度の三作目までこぎつけることができた。
さて今回、すごいんだな。フリーマントルという作家が、9・11が起こる前に、国連ビルにミサイルが撃ち込まれるという設定でこの小説を一旦書き終えていたという。そのことに関する前書きがあって、本物の事件があったことで、少し書き直しているとも書いている。
事件は、サリンと炭疸菌が仕込まれたミサイルが国連本部ビルの中国が使っている部屋に飛び込むという、恐ろしい事件から始まる。幸い、爆発は起こらなかったが部屋にいた中国人が被害者になる。ミサイルと爆弾はロシア製だとわかる。使用している部屋は中国の領域だという主張のために、アメリカの警察が簡単に捜査に入ることができないなど、初めからややこしい事件である。
ミサイルはすぐ近くから発射されたが目撃者がいない。しかしとにかく、ロシア製ということで色々調べると、どこで作られたかもわかる。そうして、捜査をロシアに依頼しなければいけない状況が生まれる。米露双方の首脳部としては、米露一緒の捜査活動ということになれば、ダニーロフとカウリーにやらせるしかない。そうして、また二人が連絡を取り合って仕事を始めることになる。
カウリーがダニーロフに連絡をとって、そっちはそっちでまず捜査して欲しいことがある、という連絡をする。
二人の間には約束があって、英語もロシア語もできる二人が、アメリカにいるのにロシア語で話す場合は周囲の状況がウンヌン、片方が英語で話しかけたときに一方がロシア語で答えた場合はどうだと、なんでも話せる状況か盗聴されている可能性があるか、今話すと秘密が守れないとか色々決めてある。連絡がついて、また一緒に仕事をすることになった喜びと重荷を分かち合う。
今度も周囲の状況は同じようなもの。初期は、ダニーロフの方が苦労する。ミサイルを保管している場所も、保管の責任者も、何もかもロシアン・マフィアの支配下にあり、膨大な数のミサイルやそれで運んで使う弾頭などが「商品」扱い。いくつ作られ、今何個残っているかリストもちゃんとしていない。管理の責任者たちがそれを売っていいスーツを着て、輸入高級車を乗り回しているのだ。ダニーロフがモスクワから捜査に行っても、先方は「賄賂を取りに来た」ぐらいにしか思っていないし、実になんとも始末に負えない。
ロシアでは、ミサイルはどこから出て弾頭はどこから出たもので、どういうルートでアメリカに運ばれたかを調べる。アメリカでは、どこにミサイルが運ばれて来て誰が受け取り、何を目的にどことどこを狙うつもりか? それと同時進行で、テロを仕掛けている連中がその資金をどういう手口で手に入れているかという裏話も進んでいく。
いくら紹介しても紹介しきれない、と同時に、詳しく述べるとミステリ小説の言ってはいけないところに届いてしまう。
フリーマントルという作家は、かつてCIA, KBGなどに関したノンフィクションを書いたこともあって、世界の情報活動に詳しく、世界の政治の裏で何が行われるかよく知っている。その知識が、この小説のような「ロシア、アメリカ」が絡み合う話の場合みごとに信憑性をもたらしてくれる。
ダニーロフの捜査が進んでいくと、我が身が危なくなる高官が圧力をかけてきたり、アメリカではカウリーが、テロ側の策略で危険な目に遭ったりで読み応えあり。ダニーロフ、カウリー双方に「個人的な新しい展開」が起こるとともに、事件の広がりが、国際的になってなかなか面白い。CNNのニュース映像に顔が出てしまうほどの有名人になってしまったり、FBIの組織の中でのし上がって行こうと強烈な上昇志向を抱く女捜査官が出てきたり、筋書きの複雑さがみごと。
非常に良くできた、大人の小説です。
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