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137 吉村昭の平家物語
吉村 昭 著
講談社文庫
古典(現代語訳)
投稿人:cave ☆☆ 08.04.30
コメント:そろそろ読み残してきた本の落ち穂拾いを始めよう。 |
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私事恐縮ながら、まもなく齢五十。おまけに今年は正月早々から病を得たりして、世の中のためになるようなこともロクにできないままトシばかり喰って来たことをあらためて痛感させられている。でもま、ため息ばかりついていても仕方ないんで、ここは読書でもして取り繕ったふりをしておくべえか、と開き直っているのだが。
身の回りに活字がないと落ち着けない中毒者のわたしではあるけれど、世の中に出回っている書物のなかで既読のものの割合なんて、それこそナノ単位以下の微々たるものだろうし、そのうえ毎日どんどん書籍は出版され続け、その数字は小さくなり続けているのである。いくら乱読しても追いつけるわけはなし。もとより世間で話題になっている著作を追うことはせず、そのとき読みたい本をマイペースで拾って来た方なのだけれど、年齢の節目でもあるし、今まで横目で素通りして来たものを振り返る頃合いが来ているのではと感じるようになった。
そんなせいか、最近は書店で文庫本を眺めていても、やけに「岩波文庫」の棚が気になる。若い頃には目もくれなかった棚だけれど、自分の年齢のことなどを考えると、そろそろココをおさらいしだしておかないと、ついぞ読む機会がなくなるのではないか、という後ろめたい気持ちが強くなって来ているのだ。書名と著者名は勿論良く知っているけれど、実際中身に触れたのは教科書や副読本に載った抜粋部分だけ、それでなんとか「日本人の常識」をクリアしているような気でいるという、そんな名作・古典タイトルの数々である。
しかし棚の本を抜いて手元に開いてみると、老眼の目に飛び込んでくるのは、細かくてぎっしりねっとりした感じの古い書体の活字。また思わず眉間にスジが立ってくる古語文語。価格も新刊文庫にくらべると結構割高で、こちらの弱い意思を見透かしたように頁が、「別に今お前さんに読んでもらわなくてもイイヨ」と嘲笑している。そうなるとこちらももともと逃げ腰なものだから、「お言葉に甘えさせていただき、ま、もうちょっとトシとってからに…」と、書き下ろし時代小説の棚に逃げ戻ったりしてしまうのだ。
そんな最近のわたしにスパーン!っと嵌まったのが、この文庫本、『吉村昭の平家物語』である。まさしく「渡りに船」。著者がこの和漢混淆文の現代語訳に取り組もうとしたいきさつについては、本書の解説に詳しいのでここには書かないが、吉村昭が手がける限り、たとえ少年少女向けではあっても、国文学者の訳文とはまた違う「歴史世界」「吉村昭ワールド」を醸してくれるに違いない。おかげさまでわたし、この不学なおっさんもようやく、古典『平家物語』の全貌に触れる機会を得たというわけだ。
いまさら平家物語の内容については書く必要はないだろう。ただ解説によると、著者はこの現代語訳作業の途中、「盗作をしているような後ろめたさを感じ」たと言う。そして「今回限りで二度と現代語訳はしない」と言い切った。徹底した史実の取材(資料蒐集と現地調査)が身上の著者にとって、古典とは言え他人の著作をなぞるという翻訳作業には物足りないものを感じたようだ。ともあれ、著者が「吉村昭」であることが読書の重要な動機付けになるわたしにとって、本書は、帯コピーにあるように「いつか読みたかった…」という望みをかなえ、また躊躇する背中をポンと突いてくれるありがたい存在となったのでありました。
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