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文庫本読書倶楽部
136
マンボウ阪神狂時代

マンボウ阪神狂時代
136 マンボウ阪神狂時代

北 杜夫 著
新潮文庫
エッセイ集

投稿人:cave ☆☆ 08.04.16
コメント:そうだ昔はあんなに狂おしかったのに!


 2008年のプロ野球が開幕した。セントラル・リーグではわが阪神タイガースが抜群のスタートダッシュを決めて、4月15日現在12勝3敗、勝率8割でアタマ一つ抜け出した感じである。ま、長いペナントレース、結末はまだまだわからないが、鉄人金本の2000本安打とFA新加入新井の1000本安打のダブル達成、守護神球児の開幕9連続セーブなど、ペナント奪回そして日本一を目指して今年もますます・・・などと、最近全然更新しなくなった当欄にこのような日時限定的話題を書くのは躊躇われるけれど、この冒頭の文章を見ても全く違和感がなくなった昨今の“強い”阪神タイガースとは一体どうなんだと、そしてあの、長い長い苦渋と忍耐の日々はなんだったんだと、フト思ってしまう時がある。「どれどれ今日はどうかな」と、テレビのスイッチを入れ、中継画面右下の得点表示を見た時、かつては大概「ああやっぱり負けとる。さあ気合いを入れて応援せんとイカン」となったものだが、今年などはいつ点けても「ああ今日も勝ってる」「まだ点取られてない」なのである。これは夢なのではないか。どう考えてもおかしいではないか。ハレの日というものはたまにあるからありがたいのではないか。尻がむずがゆい。どこか頼りない。張合いがない…そうだ!こんなときはあれを読んで、もう一度普通の自分を思い出そう!。つうわけで、本棚から引っ張りだして来て再読したのがこの文庫本、「マンボウ阪神狂時代」であります。

 どくとるマンボウこと北杜夫先生は、藤村富美男withダイナマイト打線当時から半世紀、筋金入りの虎党として有名なお方だが、同じトラキチでも、虎人気に便乗してワイワイ騒いでいる昨今の関西系虎党アナ&タレントや大阪出身お笑い芸人などとは、値打ちが全然違うのであります。なにしろお父様は歌人の斎藤茂吉、お兄さまは精神科医の斎藤茂太、箱根の向こうGの御膝元東京青山のお方でありまして、芥川賞作家、人気エッセイスト、さらに精神科のお医者さまでもあられるわけで、そんな恐れ多い紳士が延々とダメ虎に勝利の念力を送り続けてこられたという事実が、かつての低迷期など、われわれ下々の虎党にいかほどの希望を与えてくださったことか。

 本書は平成16(2004)年、単行本として刊行されたものを平成18(2006)年に一部加筆して文庫化されたものである。2003年は19年ぶり優勝の星野フィーバー、2005年は岡田阪神優勝の年で、内容も北さんの阪神関連既存エッセイや対談を中心に編集したものだから、よくある優勝フィーバー便乗本のひとつと言えばそうなんだけど、先に書いたように著者の阪神ファンとしての「値打ち」が違うもんだから、他の本とはその存在感や重みが違うのだ。先生が、ひとたび阪神ピンチ到来となると「連続してタバコを吹かし続ける」「ヨガのポーズで念力を照射」「逆立ちで失点を阻止」「テレビに向かって絶叫」など、さまざまな狂気的破廉恥行動をされるという事実。もちろんわたしもだが、かつてトラ党はみなテレビの前で験を担いで似たようなことをし、各々喜びのモトみたいなものを勝手に捏造し、それら全てがことごとく裏切られ木っ端微塵に粉砕し続けても、それを密かに愛でながらじっと耐え忍んで来たのではなかったか。星野阪神以降の新しいファンの方々にとやかく言う気はないし、シアワセな時代にファンになられたことを祝いたいくらいであるが、万年2位の巨人V9ジレンマ期、85年の狂い咲き優勝、そしてその後の長い長い超低迷期と92年の土壇場チョンボの苦虫を知るものは、現在の浮ついた境遇に甘んじているばかりではいけない。これでは『阪神を応援するということ』が『プロ野球観戦が趣味』つうのと同義になってしまうではないか。それは違うでしょ。それではイカンでしょ。マンボウ先生の執念に再びふれることで、いまいちど気を取り直そうではないか。


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