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16 もっとウソを!男と女と科学の悦楽
日高敏隆・竹内久美子 共著
文春文庫
科学雑談
投稿人:コダーマン ― 00.08.29
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日高敏隆さんは、私が私の動物行動学の先生と決めた人である。もちろん直接教わったことはないが、この人の本を読み続け、動物行動学そのものや、科学全体をどう認識すべきかなどこの人の意見を信頼している。生物、特にこの先生の専門のチョウチョやその他の昆虫、生物学全般、そうした学問を基礎にして人間について日高さんが書いた本は全て面白い。非常に情熱的に科学を語る人だが、科学に熱狂しているわけではない。そうしたこともこの本によく表れている。
竹内は、日高さんの本当の教え子で話題になった何冊も本を書いている人。『浮気人類進化論』という本なども大きな話題になった。
雄(男)は浮気するようにできている生き物だという、都合のいいところだけ抜き出して自分の浮気を正当化した男が沢山出たといういわくつきの本である。かつては、生物は「種の遺伝子を残すために」生殖し、そのために争うというのが生存競争の元のように考えられていたが、最近の生物学では「種」ではなく、「自分の遺伝子」をできるだけ残すことが生き物の目的であるということになっている。そこで、人間の男の浮気は自分の遺伝子を残す機会をできるだけふやす行為と考えられる、というわけだ。そういうことになれば、生き物として人間の浮気は止まないのが当たり前、という風に話は進む。女にしても、選択できる条件があるなら、より良いと思われる遺伝子をもらって自分の遺伝子とともに残していくというのが生物として当然の行為だから、女も浮気を助長するはずである。となるわけだよ。
そういうような本を書き始めたのは、日高先生がそういう仕事があるけれどやらないかと竹内に言ったので、断ることもできずに書き始めた結果であると話す。日高さんにいわれて文章を書こうとは思ったものの、一度もエッセイなんか書いたことがないから、週刊誌の林真理子のエッセイを見ながらそうか文章を書くということはこういうことか、と、起承転結をまねて書き始めたといっている。
そんな風に師弟が対談というより雑談して、それをまとめたのがこの文庫。
日本では、科学は「技術」に結びつかないと評価されないという歴史が長く、何か科学的に面白い発見や理論がでて来てもそれは何に役立つんですか、と、すぐに現実的な実利を求める方向にしか考えない傾向が「異常に強い」。それが今でもそのまま消えずにいる状況で、子供達が科学に興味を持つように教育しようということ自体が、馬鹿馬鹿しいというわけだ。ほら、科学は面白いだろう! という教育で科学に興味を持つようになるわけがないと笑う。そういう辺りが本当に愉快である。
だから、西欧の科学分野では、新しい研究を始めた人をその発想で評価したり、そう考えるに至った思いつきの良さで評価したりするけれど、日本では、で・どうなったんですか結果は? というばかりである。
日本で、科学者の研究の発想の面白さやユニークさを認めるのは、京都、京都大学であって、東京にいて、東京大学なんかで研究しているようでは碌なもんじゃないというわけだ。これが、大笑い。日高さんは東大をでた人なんだけれど、教授として京都大学にいったら、色々な人に「君もこれで(京都に来たことで)、もう大丈夫だ」と言われたと書いている。
また、現在の科学で確立した理論として決定的なことのように思われている多くのことも、その理論が今のところ最も理屈にあっているように見え、他に有効な異論がないからだけで、科学なんて決定的なことなど何もない、という。新しい理論が出て、そっちの方が目の前の現象をより良く説明して、理屈にあっているように見えればそっちが正しいことになってしまうというのが科学である。だから、科学が万能だの、あらゆる事象は科学的に説明できるなんて思うのは、科学的に間違っているので危ない、と話す。
科学という、先を開いていく学問、理論の分野を柔軟に理解していくためにとても役に立つ対談集である。科学に対して力むところがないので、ごくお気楽に読めるし、それでいて語り合っていることがおかしくて面白いのでお薦めの本。
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