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27 略奪
アーロン・エルキンズ 著
講談社文庫
海外ミステリ
投稿人:コダーマン ― 01.02.14
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この名前、少し前の早川文庫の著者として登場しています。これは、スケルトン探偵とは別シリーズで、美術鑑定家が主人公。
略奪は、第二次大戦末期のヨーロッパで起こった。ヒットラーは、侵略した国々から略奪した美術品、芸術品をある山中の洞窟、岩塩を採取している場所に、まとめて秘蔵しておくことにしていた。この洞窟の責任者が非常に密度の高い整理法をとって、克明に記録して、どの美術品がどこにあるかすぐにわかるようにしていた。ところが、戦争末期の混乱の中で、美術品を運ぶトラックを略奪して、隠しておいて戦争が終わるのを待とうとする奴が出る。そのトラックは先の責任者がいくら待っていても洞窟に着かないことを記録しておくことになる。
さてトラックを略奪した男は、アメリカの捕虜になってしまえば都合がいいと考えて夜の道を走って、迷い、最悪の事態、ソ連軍に捕まってしまう。もちろん、ソ連兵士は馬鹿で、寒さしのぎに絵画の額縁を燃やそうとするが、将校が捕まえたトラックに積まれているものが何か理解した。この将校とその上官がこれを自分たちのものにしてしまったのはいうまでもない。
こうして、ヒットラーが略奪した美術品のごく一部、一台のトラックに積まれた分だけが二重三重の「略奪」の末に、ソ連人の手に渡って半世紀、ボストンの質屋に持ち込まれた絵が略奪事件を明るみに出すことになる。
話が、この半世紀の世界の動きをよく教えてくれるし、ナチスが盗んだ絵画、美術品を、ソ連や、その絵画がのちに見つかった場所であるオーストリア、スイスなどが元の持ち主に返さないで国の持ち物としてしまって、オークションにかけたり、国立美術館蔵にしている事実をこの本でしっかり書いている。
洞窟の管理人の記録を当たると、確かにトラックが一台到着しなかった事実が判明し、質屋に持ち込まれた驚くべき一枚の絵画がそのトラックに乗せられていたとすれば、その絵の出所を探ればそのトラックに乗っていた分の美術品がごっそり出てくることが想像できる。こうして、美術鑑定家の主人公がアメリカからヨーロッパに渡り、いろいろな目に遭ったあげく解決にたどり着くといった話。
ヒットラーによる美術品の略奪の事実とその後のことを非常によく調べ、絵画についても著者自身非常に興味を持っているようで、美術鑑定家のありようがなかなかいい。真実味あふれるものがある。また、世界の裏の美術界には偽物があふれ、本物であればそれが盗品であっても平気で買おうとする人々がわんさといることもわかる。美術品の価値がおおよそわかっていて、質屋に持ってきて、オークションの何十分の一という金でおいていくということは、絶対裏に何かあるわけで、質屋に絵画を持ってきた奴を追わないわけにはいかない。お馴染み、ロシア・マフィア、元々絵画を持っていた貴族、裏の美術界を牛耳っている人間たち、あちこちにいる美術評論家、鑑定家、怪しいのやら、正しいのやら入り乱れて実に楽しく、全く飽きさせないミステリである。
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