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30 天空の劫罰[上下]
ビル・ネイピア 著
新潮文庫
海外ミステリ
投稿人:コダーマン ― 01.02.19
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SF風なカバーなので、SF嫌いの人は手を出さないかも知れない。近未来政治パニック物、と呼ぶか。
ロシアでは、あのジリノフスキーが大統領になってアメリカを叩け、という動きが明確な政治状況になっている。アメリカはそのことを非常に警戒している。
さて、ロシアも火星に向けて有人宇宙船を飛ばすようになっていて、その中の一機が小惑星に細工して、地球に向かうようにしたらしいことがわかる。ロシアは、その小惑星をアメリカ大陸に落ちるように軌道を変えていて、それが落下した時を狙って全軍で攻め込むつもりになっているらしいと分析結果が出る。アメリカの軍部の首脳は、もし落下する前に小惑星を破壊か、軌道を修正するかできないとすれば、ロシアを先制攻撃しないと世界はジリノフスキーのものになってしまうと、大騒ぎしている。
小惑星の専門家、惑星軌道の研究第一人者、核攻撃の専門家など、対抗策に必要な学識経験者を、アメリカ政府はまるで誘拐でもするかのように集める。これは映画などによくあるスタイルで、休暇で釣りをしている博士の横に黒いスーツの連中が現れて無理矢理車に乗せ、ヘリコプターに乗せ、軍用機に乗せ、再びヘリコプターに乗せてホワイトハウスの横に降りる、といったやり方そのもので、ある場所に専門家が集められる。学問的には敵対している者同士もいて、あいつがいるなんて! と悪口雑言の飛ばし合いになったりもするが、とにかく、ロシアの攻撃を抑制しつつ、自分たちの方に向かっている小惑星を見つけなければいけない羽目になる。
大統領は、戦争状態に持ち込みたくはない。軍は、今すぐにロシアを叩いて、あとはできるだけ避難しようという。博士たちは、小惑星を見つけてその軌道をほんの少し変えれば地球落下の軌道から外すことができると結論を出す。
主人公は、集められた博士たちの中の一人で、天文学の古典古書を調べ、文献の中から今でも役に立つ観察結果を探したりしている人物である。太陽と同じ方角から小惑星が飛んでくるとほとんど観察はできないことや、小惑星でも大きなものはその軌道が把握できているので、これまでにはっきり認識できていない小惑星にロシアの宇宙飛行士が少し細工したのだと推理する。遙か彼方で、ほんの一、二度角度を変えるだけで地球に向かう軌道に乗せることができ、アメリカ大陸に落ちるようにできることはできるということがわかる。だから、逆にアメリカの飛行士が小惑星まで行って、地球に落下しない軌道に変えることも理論的には可能なのだ。
こうして、小惑星落下小説でお馴染みの、落ちるまでの時間と地上の政治的駆け引きの勝負ということになる。
主人公は、自分が研究していた古典の中に、小惑星発見のヒントがあったような気がして、その本を探すと盗まれていることがわかる。すぐに写本を探すがそれも消えてしまっているとわかる。では、ヨーロッパに行って原本に当たるしかないと、限られた時間の中で旅に発つ。行く先々で妨害が入るのはもちろん、誰が敵で誰が味方がわからないような動きも見えてくる。
こうして持ち時間は減る。ロシアは北極越えでアメリカ攻撃の態勢を整える。アメリカ軍の首脳は、もう先制攻撃しないと間に合わないと大統領をせき立てる。いや、小惑星を破壊か、軌道を変える方法はあるはずと頑張る専門家たち。このそれぞれの思いを秘めた人たちの行為が、頂点に向かう。
という話。映画にすれば場面転換のタイミングの面白さでかなり見せるだろう。本で読むと、下巻の半ばあたりからどんどん深まり、表面には出てこなかった企みも少しずつ覗いてきて、楽しめる。SF的匂いがあるだけでも嫌いという人にはおすすめできないが、近未来小説としてはまぁまぁのできだと思う。
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