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38 フラミンゴたちの朝
ジェームズ・リー・バーク 著
角川文庫
海外ミステリ
投稿人:コダーマン ― 01.05.08
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ジェームズ・リー・バークの、刑事デイヴ・ロビショー物を三冊集中して読んだ。この刑事、刑事といっても保安官事務所の私服刑事なのだが、これが日本ではどういう存在の警察官に当てはめればいいのかがわからない。
さて、このシリーズ、第一作が『ネオン・レイン』、二作目が『天国の囚人』、三作目が『ブラック・チェリー・ブルース』、その次が『フラミンゴたちの朝』、ここまではタイトルに一貫性があるというかスタイルがあると言っていいが、今年の一月に出た新刊が『過去が我らを呪う』で、どうも匂いが変わってしまった感じがする。カバーデザインも変わってしまった。それも悪い方に。
シリーズ四作目『フラミンゴたちの朝』が出たあと、『エレクトリック・ミスト』が出てしまった。
しかし、この間に実際は『過去が我らを呪う』(というタイトルになるとは思っていなかった)が挟まっているので、順番が揃うのを待っていた。それが読まないでいた理由の半分、もう半分は、『エレクトリック・ミスト』が少し幻想的なシーンが多いらしいことがわかったので、ややためらっていたというのが理由である。主人公の住んでいる周辺が南北戦争当時の激戦地で、霧の中に当時の将軍が現れるってのが、ついていけない感じがした。読みにくかったらどうするかな、というためらいを生んだわけだ。それでしばらく手を出さないままで過ごしてしまった。
読めば間違いなく面白いシリーズであって、溜めてしまっても読むには違いないが、シリーズ物は追いつけるときに追いついておかないと案外手を着けないままになってしまうことがある。それと、この夏にもシリーズの新作が出るというので今読んでおいた方がいいと思ったものだ。一冊の文庫本を読む前にこうも長々と考えを巡らすというのは、一種、本好きの楽しみである。私の読書感想エッセイのタイトルが「読前読後」なのは、その本を読む前の「感想」と読後感を合わせたものだ。
『フラミンゴたちの朝』は、護送中の囚人に逃げられてしまう話。こいつを再び捕まえない得ればいけないという流れが下敷きになっている。
逃げられたのは、デイヴの責任ではない。繰り返し注意を促していた同僚の間抜けな行為で逃がしてしまうことになる。しかし、同僚が殺され自分も銃で撃たれてしまう。逃げた囚人は二人で、一人は主人公に好意を持っている男、彼は主犯格の男に「奴を殺しておけ」と言われたが、銃を撃ちはしたものの体に当てなかった。銃声は聞こえるように発砲したが、デイヴの体に銃弾を撃ち込まなかったということ。
ただしその前にすでに撃たれていて、命は取り留めたものの長く入院することになってしまう。そうして撃たれたことによって、ヴェトナムでの悪夢が甦ってきてしまう。アジアのじめじめしたジャングルの中で悲惨な目にあったトラウマが睡眠中に襲いかかる。
そんな最悪の状態の時に「囚人を逃がしてしまった責任をとらされて、刑事を馘になったことにして」、麻薬組織に近づく作戦の囮になってくれと依頼される。例によって、作戦を指揮するFBIは、アメリカの警察物の常で地元警察とまるっきり折り合いが悪く、デイヴを利用するだけ利用しようと思っているだけ。田舎の警察官と共に仕事をしようとはしない。しかし、主人公はその作戦に参加するしかないような精神状況に追い込まれている。
ニュー・オーリンズは行ったことがないが犯罪の街として表の顔と裏の顔を持つ、ところらしい。そうした観光客にしか見えない街と、暴力が支配している街を、力量感あふれる文章で描いていく。このシリーズは、文学と娯楽小説という言い方を認めるとして、七割ぐらい文学で三割が娯楽小説といった味わいだ。
さて、麻薬組織のボスがヴェトナムを経験した人間であり、デイヴが本当に刑事を馘になったものと思い込んでかなり信用してくれる。信用してくれるが、主人公をただ者ではないとも思っている。ボスとデイヴは互いに、距離を置いてつきあうと興味深い人間であると認めて、人間的なつきあいを求める。
まだ体から警察官の匂いを発散しているデイヴを、見抜いている組織の男がいる。かつてニュー・オーリンズの警察官だった時代の知り合いが、商売に一口乗せろとやってくる。ある日突然置き去りにしてしまった、青春時代の恋人と陰影に満ちた出会いがあったりもする。事故死寸前に救って自分の養子にした女の子との暮らしも慣れてきている。探偵業を一緒にやろうと誘う元「暴力」刑事。
南部のじめじめする気候の中の、蒸し蒸しする人間関係。そして、問題の発端になったあの逃亡した囚人も、ニュー・オーリンズの街にいると噂が届いてくる。麻薬組織の壊滅にも荷担しつつ、その囚人をどうしても捕まえたい気になっている主人公。
ミステリの主人公では最も暴力的と言っていいかも知れない「爆発的暴力行為」に走ってしまう瞬間があるかと思えば、ナイーヴな少年のような傷つきやすい心を見せてくれることもある。善人から見れば頼りになる男だが、理解できない面がある。悪人どもから見れば、案外同じ平面に生きる人種という感じはするものの、ある線を越えて悪の方には来ない男という存在。文章はまったくハードボイルドではない。叙情的な文章でこうした殺伐とした暴力小説を読むのは、生意気な言い方だが、小説を読み慣れていないと途中で弾き飛ばされてしまう。どのチンピラにもはっきりした表情がある。MWA(アメリカ探偵作家クラブ賞)受賞、それも二回も受賞している作家だ。その力がまざまざと読み取れる。
時には暴力的に打ちのめされながら、正義は常に勝つとも思っていないが負けない側にいる男。その感じがいい。
麻薬組織に近づくために用意した資金を持って行かれてしまったり、逃亡した囚人に迫りつつなかなか再び拘束することもできないが、話は徐々に結末に向かっていく。
デイヴは、南部の沼沢地帯で釣り用の貸しボート屋を営んでいる。餌を売り、ボートで飲む飲料と昼御飯を用意して、あとは沖に出ているボートを眺めて暮らしているし、それであとは保安官の仕事を特に問題もなく過ごしていれば安穏なのだが 、そうも行かないのが面白いわけだ。
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