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39 過去が我らを呪う
ジェームズ・リー・バーク 著
角川文庫
海外ミステリ
投稿人:コダーマン ― 01.05.10
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『過去が我らを呪う』というのは、読んでみると、このタイトル以外につけようがない感じはよくわかった。それにしても、あまりスマートな題ではない。石油を掘り当てて巨万の富を得た一族が、主人公の住んでいる街にいる。この一族の兄弟姉妹がそれぞれに奇妙な性格、というより、性格破綻者に近い。それぞれに頭はいいのだが、生活に苦労しなくてもいい分、好き勝手をやって、周囲に鼻つまみの扱いを受けてきたというのが本当のところ。
この一族の長兄が何者かに狙われて、誤って警官が殺害されてしまう。こうして、保安官デイヴは事件解明のためにこの一族と深く関わってしまうことになる。
一族の中には、主人公のデイヴと若い時代に短期間つきあったことのある女がいたり、ヴェトナムに一緒に行った経験のある男もいる。幼なじみである一族の者たちとの奇妙な過去。金だけはあったが、一人一人が異常な育ち方、異常な育てられ方をしてまともな人格を持ち合わせていないかのようにもみえるが、それぞれに心を開いて話をすれば、傷つきやすい善人である。しかし、ひねくれたままここまで生きてしまってからではもう善人として生きる道を選ぶこともできない。
そうした過去が今になって彼らを呪わしいできごとに引っ張り込むということになって、実にタイトル通りなのである。
一族の人間と義理の関係にある元KKKという徹底した悪人がいて、こいつを何とかしないことには事件がおさまらない。
この人間が悪いとわかっていても法の範囲内ではどうにもできない状態、こういうことは物語の中だけではなく、現実の世界でもしばしば起こることではあるが、暴力事件発生の予感が読む者をはらはらさせる。それに、前に書いたように主人公は、いきなり憤怒に駆り立てられて猛烈な暴力に走ってしまったりすることもある男、だから、一瞬の怒りで「表面的には」良心的な一市民に手を出して、私服刑事である人生を投げ捨てなければいけないことになるのではないか、と読む者に思わせる波乱含み。
話をわかりやすく紹介しようとあらすじをたどれば、この小説の場合は面白いところをかいつまんで話してしまうことになる。奥が深く実にやっかいな小説。飲み頃の来たカベルネ・ソーヴィニヨン種のワインのような読み心地。それでいて、最後までタンニンがまろやかになりきっていないと言えばいいか。読む者に緊張を強いるけれど、それに応じて読み切れば素晴らしい満足感が味わえる。
「呪うべき」過去を持った者たちが、嘘を言っているのか本当に主人公を頼ってきているのか、例によって南部の街は寝苦しい日々が続く。
かつてニューオーリンズで愛し合った女性、前作に登場した人と主人公は一緒に暮らし始めている。また、先に書いた、命を救った少女を養女にしている。この三人の、沼沢地での穏やかな日々と、悪意に満ちた人間模様の中に飛び込む主人公の人生が、幅もあり味わい深い。
その、長い時間を超えて共に暮らすことができるようになった女性が、現代の医学では治癒不可能な病を抱えているということで、またも主人公は重荷を背負うことになる。そういう点は、小説の主人公の宿命そのものだが、この小説を読んでいると尋常ではない筆の力で「だからこそ」この男、この女、この子どもが強く生きているのだという、読み応えに変化してしまうのである。
夏に出ると聞いていた、シリーズ7作目『ディキシー・シティ・ジャム』がもう出てしまった。ちょっと間をおいてから読むことにしておく。
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