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51 ギャング・オブ・ニューヨーク
ハーバート・アズベリー 著/富永和子 訳
ハヤカワ・ノンフィクション文庫
海外ノンフィクション
投稿人:コダーマン ― 01.08.06
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最近は本を読み終えてすぐに書かないと、内容から印象から、すっかり忘れてしまうようになってしまった。それでも本を読んでいる間はこの上なく楽しいので、満足ではある。
さて、著者自身による序文の日付けが「1928年2月」というこの本は、その時点でいう「この100年間」のニューヨークのギャング行状をおおよそ年代順に書き連ねてある。この本の中で書いているギャングこそがギャングであって、この本に書いてある群像だけが本当にギャングと言えるギャングなのだと、やや力説している。で、今、1928年にはもう、そういう本当のギャングはいなくなってしまったのだ、だからこうして本を書けるという次第。
ニューヨークが商業都市として大きくなり始める時期。また、街が街として形を整えていく時期で、ニューヨークはまだかなり地方都市である。
街に通りができるとそこに酒場ができて、酒場ができると朝からそこにたむろして一日何もしない連中がやってくる。これがギャングの始まりである。ほとんどが若く、カッコつけてはただ毎日を面白がっているだけである。そうなると、それに女がまとわりつく。仕事を何もしないでいながら酒場に入り浸っているのだから、金が必要になる。遊ぶ金は、当然犯罪行為で手に入れる。正真正銘のギャングができあがる。
別の店にも、同じような連中が同じような態度で集合し、いよいよその通りではどっちが主導権を握るかの争いが起きる。これがニューヨークの津々浦々で始まるといって過言ではない。
なにしろ、拳銃を持っている国民だから、簡単に相手を殺してしまう。銃を持つ、ナイフで刺し、メリケンジャックで殴って半殺しにする、また警棒のような物でめった打ちする。結果的に殺してしまった場合には、街や、マンハッタン島周辺の川に死体を捨てる。警察組織がまだ整っていないので、ほとんど無法地帯といった気配の街である。
市長が選挙の時にギャングを使って自分に投票させる。対立候補側についている人間を投票所に入れない。配下のギャングを使って二重投票もさせる。こういう風になっているので、ギャング達がちょっとした事件を起こして逮捕されたって、次の朝には釈放になってしまう。警察署長を任命するのが市長で、「お前にするから金を出せ」といって署長にする。その金を取り戻すために、署長が部下の警察官に向かって上の役につきたいならそれなりに金を出せという。警察官達は、ギャングどもに、この店でやっていることを見逃すから金を出せ。という風だから、全然「正義が機能しない」。まったくひどい街である。
昨今の日本もここまではひどくない。似たようなものか。
1928年から見て、この100年というと、1860年代には南北戦争があり、その後1900年代に入れば世界大戦もある。国内が騒乱状態であり、その間の非常に多くの外国人が移民してきて、市民生活も落ち着かない。ニューヨークには大量の移民が入ってくる上に、黒人も沢山いる。人種差別が様々な形を取る。アイルランド、ドイツ、中国、その後にイタリア系が入ってくる。
ニューヨークに入ってきて、落ち着いて小さな商売を始める。何とかやっていけるようになると、ギャングがやってきて、いわゆる用心棒代をせびるようになる。拒否すれば、店を壊される。そうすると、同胞同士で結束して、というのが手っ取り早く、結果的に人種、民族同士の対決が簡単に形成されていってしまう。これも殺しあいである。
まだマンハッタン島の水路がよく利用されている時代には「川盗賊」が跋扈する。そして、リンカーンが大統領になって、南北戦争が始まると徴兵制度がしかれて、徴兵事務所がそこここにできる。この徴兵制度だが、300ドルを支払うことができれば、戦争に行かなくて済むという特別規則があり、金持ちはさっそく支払って徴兵を免れる。
さて、300ドルを払えない人間達は暴動だ!
徴兵事務所の破壊が始まる。これを鎮めるために警察官が動き出す。このころには多少警察も浄化されているが数が少ない。警官隊がまとめて殺されてしまったり、警察署が襲われて全員逃げてしまうという目にも遭う。こうしたときに、とうとう州が市長を任命して街を正しく機能させようとするのだが、元々いる市長がこれに反対して自分で集めた警察官と州が送り込んでくる警察官とが町中で闘争を繰り広げるという、ワイルド・アメリカといった気分も見物だった。
しかしこの暴動の時は、「普通の」市民も街を浄化したかったのだろう、新しい市長側に市民がつき、良心の残っていた警察官も良い市長側について徴兵制度反対暴動は収まっていく。それにしても、騒ぎを利用して略奪の限りを尽くすギャング達を制圧するのに、急いで集めたり応援で駆けつけた警察官では足りずに、南北戦争のために近郊に集まっていた軍隊までこの暴動のために派遣しなけれればいけなかった。そのせいで、北軍の作戦が何日間分か遅れたというのも凄い。
この暴動も、一部はリンカーンの奴隷解放に反対する政治家が裏で扇動していて、ギャングを中心とした暴徒は自分たちの前方に黒人がいたり、黒人の家があったりすると殺し、壊して行進してしまうのである。金持ちの家、大きな酒屋、リンカーン派の議員の家などなど、日頃の鬱憤をはらすべくひたすら破壊である。武器・弾薬庫に暴徒が向かったという事態まで発生して、とにかく大変なのである。
そういう流れと、毎日のようにギャング同士の抗争が並行している。
街の中では、何番ストリートから何番までは誰の縄張り、ということが決まって、小競り合いはあっても大きな争いはなくなっていく。
やがて、世紀が変わって20世紀を迎える頃には、市長も政治家もこの街をある程度ちゃんとさせないことにはどうにもならないと考えるようになり、警察組織も「正義の」組織になっていく。組織の浄化作用が機能するようになって、ギャングの上がりをかすめる警察官の方が少なくなっていく。
いい警察官ばかり、ということにはならないが、正義の通用する時代になっていく。さらに徹底したギャング狩りも繰り返されて、あの通りのあの店にいるアイツというような名のあるギャングが消えて、約10年。今なら、ギャングの話を書いても大丈夫、といった感じで書き上げた本だった。
日本でいうと、幕末、明治維新、西南戦争、日清日露戦争、という時代。ああ、ニューヨークも荒れていたのか、という感じがよくわかった。
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