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文庫本読書倶楽部
52
フェニモア先生、墓を掘る

フェニモア先生、墓を掘る 52 フェニモア先生、墓を掘る

ロビン・ハサウェイ 著
ハヤカワ文庫
海外ミステリ

投稿人:コダーマン ― 01.08.06
コメント:---


 素直にいって、とても面白かった。
 日本の出版社は、海外ミステリの翻訳本を出すときにどうしてもジャンル分けをしたくなる傾向があって、普通ならこの本は「ユーモア・ミステリ」と紹介するはずの本である。しかし、その文字はない。その文字を見つけていたら買わなかったかも知れない。この本が、海外においてミステリを対象にした賞を2つ受賞していることを知ってもユーモア・ミステリだったら買わないでいた。
 ちょうど、軽い推理物を読んでみたい気持になったこともあって、よし、読んでみようと思ったが、これが案外当たりだった。味付けは軽くても、内容はしっかりしている。外国のユーモア・ミステリというのはたいていそうしたレベルなのだが、時折り悪ふざけが過ぎた、ルパン三世的な物の言い方をする小説があって、それは避けたい。
 フェニモア先生は開業医である。病院勤めもしているが、病院の営業方針とは合わないので、自宅でも患者を診ている。自分の病院では「医は仁術」で、長い間見てきた人をしっかり診てやり、困った人の相談にもしっかり耳を傾ける医師である。この医師が、いささか偏屈な人物で、へそ曲がりなユーモアの精神を持っているというだけで、内容は至極真面目なミステリである。だから読んで良かった。
 夜、少年が町中の空き地に穴を掘っているのを目撃するフェニモア先生。そんなところにどうして穴を掘っているんだ? 死んだ猫を埋めようと思って。そうか、本当はいけないことだけど、埋めてしまおう、一緒に掘ってやろう。
 といって掘り出すと、土の軟らかい部分があって、変だなと思って掘り進むとそこに人が埋められている。こうして、事件発生。
 埋められている死体の「ポーズ」が異様、独特、であって、これには何か意味があると気になって調べると、アメリカ先住民の一部族の埋葬方法で、当然、その部族の者で近隣にいる人物に疑いがかかってしまう。
 殺人課の刑事とは旧友、検察医とも知り合い、街の上流階級とも医者ということで多少面識があり…という小説的条件を作ってあるので、「あ!」と何か思いつくとそうしたコネクションを利用してちょっとした質問をしては推理を積み重ねていく。
 個人的な開業医なので予約の患者が来るし、病院にも行かなければいけない。好きではないが、上流家庭のパーティーにも呼ばれていく。
 そのパーティーで、上流家庭の息子がアメリカ先住民の娘と結婚することになっているという話を耳にして、先生、事件にすっかりはまりこんでいくのである。自分の生活をしっかり持っている医者なので、素人探偵の域を出ないように抑えて話を展開するあたりがうまい。いちおう医師だけれど、行動がすっかり探偵ということになってしまうと、こんなぁ! とうんざりしてしまうのだが、そういう気配を感じさせなところがいい。
 また、偶然のできごとで一気に全ての謎が解けてしまうのではなく、しっかり推理を積み重ねていく展開なので、おちゃらけの感じが一切なく充分大人の読み物である。シリーズで作品が発表されているというので、もしかしたら他の作品も出るかも知れないので、今からこの先生と知り合っておいてもいいと思う。


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