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文庫本読書倶楽部
57
老人力 全一冊

老人力全一冊 57 老人力 全一冊

赤瀬川原平 著
ちくま文庫
人間学術書?

投稿人:cave ☆☆☆ 01.10.04
コメント:待ちましたもの・・・文庫化を。


 は〜、ついに出ました。ついに。
 文庫版の「老人力」が。・・・三年待ちました。
 このサイト開設時の「文庫本読書倶楽部」インデックスには、わたしが文庫本しか読まない弁解をダラダラと口上のように載せていたのですが、面倒になって改装時に削除してしまいましたので、改めては申しませんが、とにかく、文庫化を三年待っていたわけです。
 しかし、ベストセラーになってしまった本は困りものです。当の書籍以外の他の媒体にもどんどん「老人力」が出現し、特集され、講演され、また使用されました。いわゆる「流行語」であります。
 わたしは、ずいぶん昔から赤瀬川/尾辻文体の信奉者でありますので、その本自体を読まなくても、だいたい狙いは予想できるのでありました。著者のお仲間の顔ぶれと、著者の芸術家としての方向性と足跡、著者の貧乏性と、著者の優柔不断と、著者の病歴など、以前に読んだものを総合判断すると「老人力」というタイトルだけで内容はだいたいピンとくるのであります。
 しかし、「流儀」上、文庫化まで単行本は読むわけに行かない。ベストセラー時は、テレビや雑誌や新聞や酒場での隣の客の会話などから頻繁に耳に飛び込んでくる「老人力」というフレーズの嵐。それが、どうも誤用されている雰囲気を伴っているものだから、糺したくなる。なるがこちらは正本を読んでいない。読んでいないからには口出しするわけにはいかない。また、使用することもはばかられる。・・・ジレンマでした。
 そうしているうちに、続編(2)が発売され、「う〜んこれはもう待ちも限界か・・」と思って「流儀」に対する特別法案をたて、今回限りの時限立法ということで単行本を購入しそうになりましたが、図らずもあいにくの金欠が護憲を後押しし、憲法を遵守する次第となっていたのです。
 するとどうでしょう、あれよあれよとちまたから「老人力」という言葉は薄らいでゆき、いまや例えに使うには「嘲笑」も覚悟しなければならないような風情。本書の中で、著者すらも「老人力(3)」よりは、「別のことの(1)」とおっしゃっていますが、まだしも「トマソン」のほうが「使える」言葉としての鮮度を保っているような気がします。とにかくそんな時期に文庫化されたわけです。これ、タイミングがいまいちなのではないでしょうか?筑摩書房さん。
 ともあれ、読みました。いそいそと。やはり、予想どおりの内容でした。未読時に、ちまたの誤用を指摘していても問題はなかった。わたしが正しかった(たぶん)。今回の文庫化では「老人力」と「老人力(2)」が合体して全一冊です。これが文庫の魅力ですね。あとがきも二つ付いていてお得。しかし、この「老人力」という例えは、ちょっと語感がシンプルすぎたのか、多量の誤使用を出現させることとなったようで、「老人力(2)」の内容はほとんどウエイトが誤解解きに掛かっています。そのうち著者も「ま、いいか」とあまり気にせずに「老人力」にこだわらない文章に移行しているように見受けられます。
 この手の、上質なというか異質なというか不思議系というか、冗談または洒落を面白がろうとする内容のものは、たやすくベストセラーになってはいけません。そりゃ、著者にとっては多額の印税が入り、講演やインタビュー、関連本、企画などと、まあ儲かるわけですから良いことなのでしょうが、「老人力(2)」の後半の諦観にも似た開き直りは、最初の、面白い啓蒙手段の模索の意欲から較べると、ちょっと可哀相に感じてしまったりもします。
 著者も書中でぽろっと出されておりますが、いわゆる「インテリ」しか面白がれないような冗談、てなものが多分に含まれておりますので、ベストセラーになっちゃ元も子もないのです。お年寄りや若者が喜んで気軽に使えるたぐいのものではなかった。レポーターがワイドショーで使える言葉じゃなかった。しかも言葉自体がシンプルで、力がありすぎる語感だったので、もう止まらなくなってしまった。やや残念です。
 しかしこの「力」の概念は、かなり素晴らしい。ちゃんと使えます。上品です。しめたことに、今、やや世間から忘れかけられています。しばらくそっと寝かせておいて、というか、台所の隅っこの鍋で、弱火で煮込み続けるような感じで熟成させたい。ここぞというときに、ふたたび取りだして、上品な皿に美しく盛りつけて盛大に供してみたい。
 わたしは今後、周囲から「死語」などと嘲笑されようとも、ちょこちょこ使い続けてゆく決意です。なにせ、本書を読んでやっと「使える」ようになれたのですから。使い続けていないと、そら、ここだ!という使いどころで、「・・・本駒込!」という羽目になってしまいそうですから。
 腰巻のコピー「ますますパワーダウン。」、来てます。


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