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文庫本読書倶楽部
63
ワインづくりの思想

ワインづくりの思想 63 ワインづくりの思想

麻井宇介 著
中公新書
ワイン文化論

投稿人:コダーマン ☆☆☆ 01.11.20
コメント:ワインのおいしさが深くなる本。


 2001年のワイン関連本で、文句無しの第一位の本。
 ワインを語るときに、伝統的「銘醸地」というある限られた土地をなんの疑いもなく認めてきた。ボルドーだから、ブルゴーニュだから、あるいはもっと極端に言えばこの畑だから、これだけのワインができるんだ、同じ葡萄を植えても場所(風土)が違えば、そこでできるような優れたようなワインはできない。これが、疑いもなく認められてきてしまったワインの世界の常識である。
 この話を載せたテーブルを、ダッとひっくり返してみせる本である。
 銘醸地というものが不動の地位に見られていたのだが、1970年代(すでにその芽は1960年代に見え始めていたという)からの30年間に、新世界や旧世界のとても銘醸地と呼べるとは思えない場所で、抜群のワインが生まれている。評価も、価格も「銘醸地もの」を越えるようなワインである。その多くが、信念を持った生き方をしているワインの造り手が、目指すワインの最終的なイメージを明確に描いて造り上げたことによって誕生したという。例えば、ボルドーの有名シャトーのワインの「ような」ワインだとか、そうしたワインに「迫る品質のワイン」と、ボルドーを頂上においてそれを目指すというものではなく、私の育てる葡萄で最高のワインを造ってみせようじゃないか、と挑んでみごとそれを果たしているのだ。
 では、ワインにとって重要なのは、場所か? 人か?
 そういう話を、世界レベルの旅と、醸造家への取材に基づいて書いている。
 場所が大切なんだ、場所以外に最終的な決定項がないと言われてきた意味を、解きほぐしていく本である。この約30年間のワインの変貌、造る側の変容、飲み手の要求の変化をみごとに分析、解説している。複雑な事情を平易な文章で、冷静な分析を温かい文体で解く。この本の書き手の本を熱心に読み、著者を敬愛してきたが、日本のワインの世界にこういう人がいてくれた、こういう書き手がいるということを喜んでいい存在である。
 素晴らしいワインに巡り会うことが楽しい、ワインを飲みながら友人と話をするのが面白い、また、ワインを語る新しい話題が欲しいという人は必読。この本を読むことができた喜びは、ほんとうに大きかった。ワインに関する知識の深さ情熱の深さ、新しいことに向かうときの謙虚さと清廉さなど、著者に学ぶことも多い。


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