ヤドカリと磯の生き物の飼育

12話
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ヤドが来た巻貝が来たカニも来た


 時間が経過してしまったが、3月末、子供たちが春休みに南紀白浜温泉に遊びに行った。昨夏の明石への海水浴時、わたしを欺いての大量採集の狼藉に懲りたので、くれぐれも無闇に持ち帰らないように言い聞かせておいたのだけれど……

 ところが、子供たちが家に帰ってくる日は、わたしはあいにく徹夜仕事が入り帰宅することができなかった。それで翌日の夜、家に帰り、睡眠不足でボケた頭で海水水槽の惨状に一抹の不安を覚えながら、おそるおそる覗き込んでみた。
 いるいる。新顔のホンヤドカリが5匹。明石のホンヤドカリ「チビ」も健在。あわせて6匹である。訓示が効いたのか、一番小さなヤドカリでも「チビ」より大きい。そしてどの個体もすこぶる元気で、狭いデスクボーイ水槽の中を活発に動き回っていた。はや脱皮を行っているものもあり、もともと入れてあった空き家の貝殻をさかんに品定めしたり、すかさず引越ししてしまった気の早いのもいる。
 仕事の忙しい日が続いていることもあって、これを見越して4日前に海水の水換えを済ませておいたので、その日は一瞥したのみで爆睡してしまった。

 その週末、愚息に採集内容を問いただしたところ、ヤドカリ5匹のほかに、カニと小さな巻貝もいるという。しかし、巻貝と言われてもどんな種類か解らないし、宿替え用の貝殻も多数散在しているので、どこにいるのやら確認できない。カニのほうも、砂に潜っているらしく姿が見当たらない。イソガニなら図体がデカイので、すぐに見つかりそうなものだが、どんなカニかと訊ねても「小さなカニ」という返事しか返ってこない。仕方なく「貝と水の生物」のポケット図鑑やホームページを見せて特定を試みたが、載っていないという。巻貝などは飼育が難しいと聞いているので、さてほんとに生きているのやらと思ったが、まあ出て来たときに確認すればいいか、とあえて捜すことはしなかった。

 さて、今度のヤドカリ「白浜組」は、最初にわが家にやって来た「丹後組」に近い体つきをしている。全体に体の色が黒っぽい。「明石」産のチビのみが「色白」である。そして「白浜組」はとても活発。エサに対する反応も素早い。私が顆粒の熱帯魚のエサをパラパラと入れると、匂いでわかるのだろうか、岩の上でのんびりしたり底砂で居眠りしているように見えた連中がいきなり反応する。あるものは岩からピョンと飛び降りて底を走り、またあるものはすばやく岩に駆け登り水面近くでハサミを振り回し、浮いて流れてくるエサをつかみ取ろうとする。まあ賑やかなこと。
 喧嘩も頻繁に起こす。背中に飛び乗って威嚇する。強さは体の大小に依存しないようだ。大きい個体が一目散に後ずさって逃げ回ったりしている。
 そんな賑やかな水槽だが、先住者の「チビ」がのんびり屋なのはあいかわらずで、いままで通りのマイペースで過ごしているようだ。「白浜組」の闖入に対しても、我関せずを決め込んでいる。同時に持ち込まれた貝殻で家の選択肢が増えたのにはご満悦のようだけれど。

 この元気な白浜のヤドカリたちを眺めていたとき、変わった行為の瞬間を目撃した。岩の上を歩いていたヤドカリが立ち止まったかと思ったら、ふいに脱皮して抜け殻をポイと岩の下に投げ捨てたのだ。まさに一瞬の出来事。芝居で早変わりというのがあるが、あんなものじゃない。忍者の「身代わりの術」と言ったほうが近いか。実際わたしは脱ぎ捨てられた皮の方に視線がゆき、ヤドカリが岩から跳び降りたのだと錯覚してしまった。底に落ちているのは皮のみ。岩の上を見ると何事もなかったかのようにヤドカリが貝殻を背負い、エサを追って歩いている。脱皮直後は皮が柔らかくなって危険ではなかったのか? 不思議。オカヤドカリの慎重な脱皮とは、どえらい違いである。この大胆さには驚いた。

 数日後、ようやくカニの姿を眼にすることができた。小さいくせに堂々と横歩きしている。ヤドカリとの出会いもあったが、カニの貫録勝ちのようで、ヤドカリが逃げに入る。あわてて写真を撮ったが、すぐに岩のしたに潜り込んでしまった。覗き込んでみるとキチンと自分の周りの砂をどかして、住居スペースを造っている。茶褐色の甲羅の両側に白い部分がある。甲長8ミリにも満たないが、白い模様が和菓子の砂糖のようでなかなか姿がよい。さて、なんという種類のカニなのだろう。改めてウエブであたってみたが、いまのところ不詳だ。幼生なので生体と姿が違うのだろうか。


 巻貝もようやく見つけた。しかし小さい。直径4ミリというところだろうか。ゆっくり移動していたので、なんとか気がついた。しかし、その後は未確認になっている。もはやひと月半経過したから、死んでヤドカリやカニに食べられてしまったのかもしれない。

←南紀白浜からやって来た元気者。この貝殻、銀色とツヤ消しの黒が渦を巻いており、創作陶器のようでカッコイイ。本人も気に入っているのか、なかなか宿替えしない。(02.3.30撮影)
←こちらは頻繁に宿替えをくり返している輩。岩上瞬間脱皮したのは、たぶんこいつ。(02.4.16撮影)

●管理人が新しいデジカメを購入したので、ソニーの初代デジカメ(DFC-F1=故障しているのを騙し騙し撮っていた)での撮影写真は今回が最後。次回からはオリンパスCAMEDIA C-4040ZOOMでの撮影となる予定。しかしこの新カメラ、410万画素だが、マクロが20cmまでしか寄れない!。ソニーは35万画素でも5cmくらいに寄れた。果たして今後は上手く撮れるのだろうか?
←南紀白浜組。最初にいた日本海・丹後琴引浜産と同じく、体色が黒っぽい。イボニシの貝殻がお気に入りのようである。(02.3.30撮影)
←ついに姿をあらわしたカニ。小さいくせにふてぶてしく、ヤドカリを自分より弱いと信じ込んでいる風情。岩の下に穴を掘って住まっている。現在は撮影時からひと月過ぎたのでもうすこし大きくなっている。種類不明。(02.4.16撮影)
←ようやく見つけた巻貝。移動してくれなければ全くどこにいるのか分からなかった。現在ふたたび消息不明。(02.3.30撮影)

↓接近してくるヤドカリ(画面右上)に、ガンをとばす、カニ。
「オメエサンがたぁ、なにカニ、オレ様と勝負するってのカニ?」
2002/05/17 (Fri)

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