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128 笑う男
ヘニング・マンケル 著
創元推理文庫
海外警察ミステリ
投稿人:コダーマン ☆☆☆ 06.01.30
コメント:読み応え満点。そうそう味わえない深い楽しみ |
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文庫本でも500頁を越えてしかも内容が濃いと、私のような遅読者には1週間もの時間が必要になってしまう。それでも休むことなく読み進んでしまう面白い本である。
主人公の警部が、前の事件(前作)で「正当防衛の殺人」をしてしまったことから、心の平衡を保てない状態になってしまい、休職しているところから今回は始まった。休養、治療、保養を過ごして、警察官であることを辞めようと決意して、戻ってくる。
その時点では彼しか知らないことなのだが、休養中に訪ねてきた知人がいた。
職場に戻るのは退職を告げるため、と決意していた彼は、そのことを告げる寸前「休養中に訪ねてきた知人」が殺されたことを知る。訪ねてきたとき救いを求めていたのに、それほど深刻なことと思わなかったことへの悔い、またその死の周囲に納得できないことがあり、刑事魂が急に頭をもたげて、辞職の決意を翻意して、現場復帰ということになる。
警察小説の主人公がそう簡単に辞職はしないと「読者として」わかってはいても、さて、どう戻るのか、職場の人間たちの反応は? というあたりから引き込まれていく。
相変わらずうまい。500頁を飽きさせない腕はみごとだ。
復帰によって、出世がはばまれる者、仕事に意欲が出る者、休養中に職場に来た新人との新たな人間関係があり、明らかに辞めて欲しがった者のいやみもある。その間に、事件の解決への道を模索しなければいけない。
事故死とされた事件、自殺とされた件の現場を丹念に調べ直してみるとあまりにも不自然なことが多く、殺されたに違いない、と確信。ではなぜ、どうやって、誰に?
休養中に訪ねてきた知人は、父の死が不審で調べて欲しいといったのであり、自分にも何か危険が迫っているので助けて欲しいという内容だった。
この、父が事故死とされていたのであり、その息子が殺され、父の知人が自殺とされたがそれがひどく不自然。さらに、主人公が復帰して捜査を始めて聞き込み行くと、親子の秘書をしていた女性が殺されかけて、主人公も殺されかける。この人々に共通することは何か?
主人公ヴァランダーは、まだ前の事件のトラウマを抱えなから、本調子が戻ってこないながら、精力的に捜査を続ける。結果、国の経済界に多大な影響を持ち、多額の寄附を寄せて善行をなすことで知られる人物に行き着く。しかし、その人間はあまりにも完璧で手の付けようがないように見えた。
しかし、こつこつと捜査を積み重ね、全方向からその人物の仕事ぶり、世界に広がる組織の裏側を調べてみると「怪しい」。大いに怪しいが、警察上部の者さえ、あの人に疑わしいことがあるわけがないと信じ切っているし、捜査、聞き込みをしてまったく無実だとした場合自分たちに及ぶ影響が大きすぎるので、「調べろ!」と命ずるのは二の足を踏む。
そんな状況の中、手の届かないところにいる人物に少しずつ迫っていく。
500頁もの文庫を読むのは、少しミステリ慣れ、読書慣れが必要だろうけれど、これが面白警察小説だと自信を持ってお薦めする。
「殺人者の顔」、「リガの犬たち」、「白い雌ライオン」という三作のあとの四冊目、登場人物たちの人間性を知って読みたいなら、やはりシリーズ1から。
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