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文庫本読書倶楽部
14
尼首二十万石

尼首二十万石 14 尼首二十万石

宮本昌孝 著
講談社文庫
時代小説

投稿人:コダーマン ― 00.08.05
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 カタカナ小説や、科学畑の本を読んでいるとどうしても、和物を読みたくなって日頃手にしない作家の本に手を出してしまうことがある。和物と言っても現代小説ではなく、どうしても時代小説になる。
 日本の現代小説は、どんなに良くできていても、私自身が現在の日本を知っているのでその小説の嘘っぽさ、虚構の虚構である部分が見え見えで読み進む気持が萎えてくるのがいつものことである。だから読まない。それを簡単に「面白い小説がない」と言ってしまうのだが、これは正しいのだ。だって知っている街を描いている文章で地理の説明が間違っているともう安心して読めないもの。
 それと不思議なことに、時代小説は年上の作家の作品を選ぶ傾向が非常に強い。自分よりずっと若い時代小説家って、どうも信用できない気がする。といって、池波さん、藤沢さん、その他女性では平岩弓枝などばかり選んでいたら徐々に好みの本が減って来てしまった。というので、ちょっと手を出したら年下だったのだ。
 時代小説の短編集。しかも私よりずいぶん若い作家で、これまで一度も読んだことのない作家であった。やや当りである。江戸時代、戦国時代、鎌倉時代など時代は五目だが、どの一編も充分面白い。
 表題作の「尼首二十万石」は、駆け込み寺、東慶寺を題材にしたもの。「最後の赤備え」は赤備えでわかるように武田関連、その他「袖簾」、「雨の大炊殿橋」、「黒い川」、「はては嵐の」という短編が収録されている。
 歴史の授業では全く語られることのない、歴史上の人物の私生活を覗き見できたり、一族はそこで「あえない最期を迎えた」としか語られない中の子供が個性を与えられていて、その死を迎えるまでのことが嘘としてほどよくできていたり、そこが時代小説の面白いところである。全部フィクションではなく、一部歴史の通りに話が展開し、その時代にいたことになっている歴史上の人物がちゃんと出て来て、動き回って死んでいく。で、架空の人物を作り出して、上手にその時代に嘘をはめ込んであればあるほど面白い。時代小説の多くは、そうした「嵌め物」といっていいが、この短編集の登場人物達は、そうした面白い条件にきっちりはめてある。
 連作物でもない、時代を限っているわけでもない、登場人物も女男、子供、大名ということで先に書いたように「五目」だが、どれも良質の娯楽作品。
 「尼首二十万石」の駆け込み寺、東慶寺は治外法権で、徳川家康がそういう風に決めたのだからその子供たちがどうしたって手を出すことができなかった。そういうこのお寺の特殊性をよくよく調べてあって、私には新しい知識を得るところがあった。


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