本書は1999年夏に刊行され話題になった絵本だが、文庫化にあたって新しい情報を追加加筆してあるので、「文庫しか」読まない私にとって、かなり嬉しいパターンの新刊だ。
テーマはバブル期の不良債権や債務の「とんでもない」金額を、身近なものに置き換えて実感を得、現実を知ろうという試みだが、99年から01年までの2年間にも日本の経済事情はどんどん変化し続けて、いわゆるデフレスパイラルの傾向までが出現するに至ってしまった。したがって本書が刊行された時とは、経済政策も受け手の感性にも差異がでてきている。また、大型倒産や企業・銀行の合併も加速化したので、あたらしい事例も追加されている。ハードカバーがでたとき、かなり興味があったのに我慢した甲斐があった。これは買いだ。
本書は「絵本」のコンセプトで構成されている。そのキャプションの形でコメントがつけられていることと、経済関連だけに金額などの数字が頻繁に出現することもあり、文庫にしては珍しいヨコ組、ゴシック体の体裁だ。最近はホームページをはじめヨコ組の文章に接する機会が急激に増加したが、文庫本ではなんとなく落ち着かない。やはり8ポイントのタテ組明朝体のほうがしっくりくる。
本文では数千億から兆のケタの公的資金投入額、債権放棄額、債務超過額などが、その各事例とともに明示され、その金額を他の解りやすいものに置き換えたら、いったい何が買えるのか?を、はまのゆかさんの絵とともに解説してある。
それを「ほほう」などとつぶやきながら読み進むわけだが、私には、負債の○○○○億円なんていう数字を見るにつけ、まじめな企業の一世代分が総力をあげて必死の努力を続けたとしても、とても返済できる金額とは思えない。まあ、経済評論めいたことを私が語っても仕方がないので、本書前後にある竹中平蔵氏(なんと小泉内閣の経済財政担当相!に就任)らとの対談や著者のエッセイをご覧いただくことにして、事例の中から印象に残ったものを拾い上げて、感想を述べることにする。
◎金額のめやすを4つ。
●そごうグループ倒産…負債総額 1兆8700億円
●整備新幹線(北陸/上越〜金沢、九州/博多〜西鹿児島)…総事業費 2兆5000億円
●大和銀行…公的資金投入額 4080億円(不良債権残額 6600億円)
●銀行を救済するための公的資金投入額…20兆円(全体では60兆円)
【水質汚濁対策:9000億円】*経済企画庁が試算した、日本の河川・湖沼汚染防止の対策費
―デパートひとつほっとけば、倍の手当てができるのか。
【光ファイバー通信網の整備:8300億円】*小中高校・病院・公共施設を結ぶ
―たった2本の田舎新幹線。どちらにメリットがあるかは明白。しかも新幹線はこの3倍だから止めてこちらに回せば、あなたの部屋まで来るかも。
【癌治療薬研究開発:2兆1000億円】*米国での投資額
―完成する保障はないが、このぐらいはつぎ込まんとねえ。
【電線地中化:3500億円】*都市部1000kmで
―銀行一軒救うより、こっちやって欲しいなあ。
【すべての地雷除去:3兆9600億円】*1億1000万個の対人地雷除去
―まあ、バブル時の金額その物が、幽霊みたいなものでしたからね。でも公的資金は「現金」投入額ですからややこしい。
【アフリカ象保護プロジェクト:24億円】*100年分
―やれよ!もう。
バブル時には、東京都の地価の総額でアメリカが、ン個買えてしまう、なんてたとえ話が酒場でも出ていたし、オレが死んだらカンオケに、ン億円の「名画」を入れて焼いてくれ。なんて言って顰蹙を買った社長もいたっけ…。結構実際に、この絵本みたいな買い物も、やりまくっていたのだった。
「構造改革」を旗印に好スタートを切った小泉新内閣だが、その公約を実現するためには、かなりの「血」を流さねばならない。どこまで踏み込めることやら。しかし、今やらないと「史上最大のむだづかい」は、今後もどんどん膨らみ、取り返しのつかないことになってしまう(もうなっているように思うが)。いったいどうなる?この日本。
追:イラスト担当の、はまのゆか さんとは仕事場でいちどお会いしましたが、お元気でいられますでしょうか?さらなるご活躍を期待いたしております。
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