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45 アリはなぜ、ちゃんと働くのか
デボラ・ゴードン 著
新潮OH!文庫
生物学・昆虫
投稿人:コダーマン ― 01.06.18
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面白くはあっても、どんどん読み進むという本ではない。
ということで、読みかけては電車の中で眠るということを繰り返した。それでも私には読まなければいけない本だった。世の中に「読まなければいけない本」などというものはないのだが、私には、という条件が付くとどうしても読まなければいけない本があって、この本などはそういった一冊である。
私には、という条件は、単に虫好きを越えて虫の生存の理屈を知りたいとか、その昆虫が生きるために選んだ戦略がどういう進化の末なのか、あるいは、どういう風に合理的な生き方なのかを学者に教えて欲しいのだ。少なくとも専門家の意見には耳を傾ける価値があるというのが私の基本的な立場で、昆虫を研究している人の話がこうした文庫で一般の人を相手にして翻訳されることが少ないので、どうしても読みたかった。
17年間も夏のアリゾナの砂漠に出かけてアリのコロニーを研究し続ける根性がすごい。
女性で虫が好きというのもなかなかいい。ハーバードとオックスフォードで学んで現在スタンフォード大学で教えているというんだから、頭が猛烈にいい感じがする。
それはそれとして、なんというか、アメリカの科学者の「科学のためなら」この程度のことは許されるという感覚がもろに出ている本で、ひとつの巣にアリは何匹いるのか?の結論を出すためにユンボを使いいくつもの巣を徹底的に暴いてしまうやり方には、かなり嫌悪感を抱いてしまう。巣ができてから何年経つと、その中のアリの数はどう変化するかも確認したいものだから、何十という数の巣を完全破壊してしまう。
いくら研究対象がアリでも、そこまでして犠牲を出していいのかという感覚が私にはあるのだ。それぐらいのことはわかってやっているし、自分が研究対象にしているフィールドにいるアリの巣の数からして、10や20壊してその巣のアリが死んでしまってにしても大したことはない、という感覚でいるのだろう。また、この本は論文そのものではないが、エピソードとか失敗談だとか、仲間の学者の笑い話などが全くひとつもなくて、徹底した実験報告であるというのが、面白くもあり、つまらなくもあった。
餌を探しに行くアリ、巣を守るアリ、入り口付近で巣の掃除をするアリ、巣の奥で子供の世話をするアリ、アリゾナの砂漠のアリのこうした仕事の違いは生まれたときから決まっているのか、その役割は全然変化しないのか、という疑問に対して答えを探していくのが面白い。
研究で知り得たことは書いてあるし、なるほどそのアリはそういう風になるわけだね、とは思うが。それだけである。その、それだけ、が実に私には面白い。
こういう本を読むと、科学は解説するだけで、何事も解明できないという言葉がよくわかる。それでも私自身は科学を信じてはいる。
先の四つの働きに別れて生存しているアリが、例えば、餌が少なくなった時期に巣を守っていたアリまで食糧探しに巣から遠く離れるという経験をしてしまうと、元のガードマンに戻ることがなく、食糧班になりきってしまうという。食糧探しという仕事が一番高い地位にあるということもないのに、とにかくそうなってしまうというのである。こういうことになぜか、という説明ができないのが科学である。
誰も命ずる者がいないのに、巣全体として間違いなく機能している見事さ、これにひかれてそれはなぜかを研究し続けているわけだが、どうも、ただ数で統計を取っていくような方法が正しいとは思えない節がある。その辺も、単純にアメリカ的なのかも知れない。私には面白いが、誰にも薦めることのできない面白さ、そんな気がしている。
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