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65 ポップコーン
ベン・エルトン 著
ハヤカワ(ミステリアス・プレス)文庫
海外ミステリ
投稿人:cave ☆☆ 01.12.13
コメント:コンパクトにまとまったバイオレンス小説。 |
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本作は96年CWAゴールドダガー賞、「このミス98」16位の作品。少々古くなってしまったけれど、感想を書くことにした。
主人公のブルースは映画監督。この物語は、彼が、暴力とセックスを過激に描いた映画《オーディナリー・アメリカンズ》でアカデミー最優秀監督賞を手にした日の一昼夜の出来事だ。
彼が授賞式でオスカーを手にしているとき、平行して異常殺人者の若いカップルが「理由なき殺人」をくり返していた。昨今の日本でも立て続けに発生している異常犯罪にホラービデオやバイオレンスものが与えている影響が議論されることも多いが、この物語でも同様で、暴力映画に批判的な人間が、同時に発生しているこの連続殺人事件と彼の映画との関連性を指摘し、彼は批判の矢面に立たされる。それでも、彼の映画は評価され、最優秀監督賞を勝ちとる。
有頂天になった彼は、受賞後のパーティで、プレイボーイ誌にヌードを発表して人気絶頂のセクシーモデルをビヴァリーヒルズの彼の豪邸に「お持ち帰り」することに成功する。ところが邸宅にはすでに、異常殺人者のカップル(彼の作品の大ファン)が警備員を殺害して潜入しており、ブルースとモデルも人質にとられてしまう。邸宅を訪れてきたエージェントや離婚訴訟中の妻や娘も次々と捕らわれ、殺されてゆく。そして殺人者の「意外な要求」にしたがって、マスコミと警察を巻き込んでのラストシーンへと突入してゆくのだが…。
著者は英国のスタンダップ・コメディアンだという。文章自体に、とりたてるほどの冴えは感じられないが、シンプルで無駄のない構成は、なかなかのものだ。要所で文章をシナリオ風の表現にして変化をつけているが、これが効いている。しかし、銃や容姿などの細かな表現が省略されているのが、やや物足りない。単に「マシンガン」や「小さなピストル」というような凶器の表現では、読者が頭の中でリアルに映像化することが困難である。結末には、「だれも責任を取ろうとしない」現代社会のエゴ構造への皮肉が込められているが、作品をシンプルに纏めるあまり、殺人者カップルのキャラクターや彼らが発する言葉に、やや現実味を欠いたところは否めない。
ネットで本作のレビューを少し当たってみたが、「爆笑ホラーコメディ」「報復絶倒ブラックユーモア」などの感想が目に付いた。確かに、ブルースがモデルを口説くシーンや、エージェントが殺人犯と知らずに彼らを不快にする言葉を連発するくだりなどは、笑えるといえば笑えるが、私にとっては、日本でも日常的に存在するようになった「理由不明の狂気」の恐ろしさが、先に頭に焼き付いてしまったので、最後まで「ユーモア」と受け取ることはできなかった。滑稽な部分は、どちらかといえば恐怖を倍加させる「不気味な味付け」と感じた。
わたしは、基本的に原作を読んだら映画化されても観ない、映画を観たら原作を読まない方針だが、作中で主人公が監督した暴力映画がアカデミー賞を得る設定なので、本作品は映画化することが困難だと思われる。その先鋭的なバイオレンス映画をまず表現しなければ、本作の映画は創れないからだ。映画向きの小説だとは思うのだけれど…。私が現在映画から遠ざかっているので、すでに映画化されているのかもしれないけれど、そのあたりのジレンマを抱えていそうなところに、逆にブラックなユーモアを感じてしまった。
巻末の解説のかわりに、筑紫哲也、富野由悠季両氏の対談が収録されているが、これはいらない。
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