cave's books
文庫本読書倶楽部
66
アトランティスを発見せよ

アトランティスを発見せよ(上)アトランティスを発見せよ(下) 66 アトランティスを発見せよ[上・下]

クライブ・カッスラー 著
新潮文庫
海外冒険小説・海洋系

投稿人:cave ☆☆☆ 02.01.11
コメント:海洋冒険小説の大看板。


 海洋冒険小説の大看板、ダーク・ピット・シリーズのしばらくぶりの登場だ。本書が15作目。

 当コーナー1回目に感想を掲載した『コロンブスの呪縛を解け』は、舞台設定は同じだが、主人公はカート・オースチンという別キャラクターなので、ダーク・ピット・シリーズではない。というわけで、お馴染みのピットとアルが活躍するのは『暴虐の奔流を止めろ』以来。ちょっと待たされすぎた気分で手に取った。
 このシリーズ、新刊が書店に並べば必ずベストセラー上位になる人気シリーズなので、あらすじは他(文末に新潮文庫立ち読みコーナーをリンク)を参照していただくことにして、さっそく感想を書くことにする。

 さすがに定評の人気シリーズ、期待を裏切られることはなく十分楽しめた。
 話はシリーズが進むたびにスケールアップしてきていて、プロット作りは本作も意趣にとんでいる。
 やや気になるのは、エンターティメント度がますます強くなり、登場人物の人間性を描く部分が希薄になってきていることだ。レギュラーキャラクターがスター化したので、もはや彼らの心の葛藤描写などは必要なくなってしまっている。映画的にポンポンと歯切れよくストーリーが進行し、展開の意外さをストレートに楽しめるのは良いのだが、半面、深みがなくなってしまい物足りない感じも覚える。
 初期の作品での主人公ピットは、絶体絶命のピンチにしばしば陥り、読者はその痛い思いに感情移入できたのだが、最近作では全くそういうことにはならないスーパーマンになってしまった。痛みに耐えるより、痛みから逃れる方法をスマートにこなすヒーロー像が求められるようになったからであろう。
 私が当シリーズ魅かれるいちばんの理由は、舞台設定や素材の多彩さにある。
 冒頭は紀元前7000年頃に地球に激突する彗星とそれにより滅亡する古代文明のシーンから始まる。その彗星の片割れが2001年に地球に再び激突するというのだ。
 いきなりここで、「宇宙の謎」という興味を刺激され、また「地球の歴史」「古代文明」への好奇心をくすぐられるのである。そして、碑文が発見される「洞窟」。サイト名にして当然ながらこれは私のスジ。「南極」の厳しい気象とサバイバル。まさに冒険小説重要ネタのオンパレードである。
 古代ばかりかと思いきや、そこに「ナチス・ドイツ」「第四帝国」いわゆる「前大戦モノ」が加わる。これもハマリ。追い討ちをかけるようにメカ的なもの、「1700年代の南極での難破船」「Uボート・U-2015」などが登場し、おなじみピットコレクションのクラシックカー「1936年型フォードガブリオレ・ホットロッド」もチェイスする。また完全コンピュータ制御の「モラ-M400スカイカー」で敵陣をめざし、「水中スクーター」で敵地潜入。いわゆる、「中年の少年」は魅かれます。
 碑文の解読にNUMAの「対話型スーパーコンピュータ(マックス)」が活躍し、敵の「秘密基地」は南極の氷の下の遺跡を利用した巨大施設ばかりか、アルゼンチンに現代の「ノアの方舟」ともいえる全長1800メートルの巨大船上都市(船内を5両編成のトラムが走る)を4隻出現させる。さらに敵役はヒトラーの精子から抽出したDNAにより「遺伝子操作」された「完全無欠」の人間達で百数十年生きる美貌の超人一族。
 おまけにカッスラー自身も「南極に遺棄された巨大雪上車を修復する好事家」という、粋な役どころでまたぞろ登場している。
 まあよくこれだけのネタを一本の話に纏められるものだと感心する。それでもってピットとアルは、それら多数のエピソードを紡ぐ「司会進行役」に大忙しで、人間の「深み」など出している余裕はない、と言うことになるか。
 それらの素材の全部が全部、私にとってすこぶる興味の対象になるネタなので、夢中にならないわけにはいかない。

 巻末の訳者解説に、シリーズの映画化に関するニュースが記述されている。超不評だったB級顰蹙映画『レイズ・ザ・タイタニック』の出来に激怒し、以来著作の映画化に同意しなかった著者が、どうやらご機嫌をお直しらしい。映画化第一作(正確には二作目だが)は『死のサハラを脱出せよ』。続いて三作の映画化が決定している模様。この情報は「読んだら観ない」流儀のわたしにとって、たいへん困ったものである。やはり本シリーズだけは、どうしても観ないわけにはいかないもの。

 新潮文庫HP『アトランティスを発見せよ』立ち読みコーナー(2002.1.11現在)へ


文庫本読書倶楽部 (c)Copyright "cave" All right reserved.(著作の権利は各投稿者に帰属します)