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73 絶滅恐竜からのメッセージ/地球大異変と人間圏
松井孝典 著
WAC(ワック)
地球物理学
投稿人:コダーマン ☆☆☆ 02.05.23
コメント:科学的に、面白いです。易しく、怖い本でした |
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この著者は、私の惑星物理学の「先生」である。その方面の本が出ると必ず読むようにしてきた。こうした、直接教えを受けたことはないが、順を追ってその人の専門分野の本を読んで素人レベルの知識をもらっている人が、大人になってからの「先生」だ。そういう先生が沢山いる。
さて、恐竜の絶滅の原因を調べるのはこの人の専門分野ではないが、地球に巨大な隕石が衝突したことが原因になって恐竜が絶滅したのであれば、この先生の学問の範囲に入ってくる。
6500万年前の恐竜絶滅に関しては、巨大隕石の衝突が原因というのが、今ではほとんど定説。ノーベル賞受賞者であるルイス・アルバレスのグループによる研究が発表されてから、広く信じられるようになった。もともとこの人は、隕石原因説に反対していて反論を出すために研究していたら、「いや、どうも隕石が衝突したのが原因らしい」と説が逆になったという人。
6500万年前の地層を世界中で調べてみると、イリジウムが異常に多く含まれた地層がどこでも必ず出てくる。この金属は宇宙由来のものであることが知られているというあたりから、隕石衝突説がにわかに信憑性が増したのである。地球上全部が同じイリジウムに覆われるというのは、どういうことが起きたのかと逆にたどると、どうしても隕石の衝突に行き着く。
その説の唯一の弱点は、様々な計算から割り出された隕石の大きさに匹敵する「クレーター」が地上に見つからないことだった。地球上の視認できるクレーターはほとんど調べ尽くされている。そのどれもが推定される隕石のクレーターとしては、小さい。とすると、海の中か、ということになるのだが、これがどこにあるのかなかなかわからなかった。しかも、海中を探索するとなると膨大な金がかかり、大学の学術調査レベルの予算ではできないことなのだという。国別のいくつかの大学が協力しても予算が足りないらしい。
ところが、大金を持って海中探査をしてくれていたところがあったのだ、石油会社が海底油田を探してあちこち調べた中の一つに、ユカタン半島の先の探査記録があった。地中を調べると、重力異常のある地域があって、それが弧を描いている。地上の半島に一部、あとは海中に続いている。しかし、この結果を学者たちが目にする機会がなくて、長い時間気づかなかったが、とうとう学者によってその結果が分析され、クレーターがそこにあると確信できることになったのである。
そうして、世界中の海を探す必要もなく、まっすぐ6500万年前のクレーターに学術調査隊が向かうことになった。推論していた隕石の大きさに見合うクレーターであり、その大きさ、また調査から導かれた隕石の速度、爆発の規模その他から、衝突以降の地上に何が起きたかを解説してくれる。
爆発で生じた塵が地球を覆い、核の冬の「大規模」なものが起きてしまったのだという。陽光が地上に届かず、植物が枯れ、草食動物が死滅し、肉食動物が死滅、こうして恐竜の絶滅が起きた。
と、いうことをしっかり整理してあって、楽しく読むことができた。
そして、ほとんどそれと同じようなことが「今、人間がやりつつある」と、新たな一章が書かれている。ヒトがどんどん増えていき、地上で生産できる食糧で生きられる数を遙かに越える数が地球にのっかっている。このヒトの営みが、例えば温暖化を進めることになり、省エネなどという実際話にもならないような対策では、生物の絶滅が始まるとともに、餓死するしかないヒトの単位も「国レベル」で、ということになる。それを救う食い物がなくなる。
それが難しい計算も何も必要がなく、このまま行けば、そうなることは実はわかりきっているのだと言ってくれる。
とてもいい本で、最後まで読んで、非常に怖くなった。ヒトは、こういう本をちゃんと読んでおくべきでしょうね。
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