cave's books
文庫本読書倶楽部
75
健康食品ノート

 健康食品ノート 75 健康食品ノート

瀬川至朗 著
岩波新書
科学エッセイ

投稿人:コダーマン ☆☆ 02.05.31
コメント:なんとかでカントカが治った!を科学的に疑った本。


 元々健康にいい食べ物、という物に不信感を持っている。科学的に言って、これを食べれば健康になるという食品はないはずである。人体が一種の食品の偏食を歓迎するとは思えない。大体、一つの食品を極端に多く食べたりしたらかえって体に悪いのではないか。そんな風に思っている私には、怪しげな健康食品の広告や「私はこれで健康になった」式の科学的・医学的根拠のない宣伝が腹立たしい。
 そういう人間に、小粒でどっち方向にも偏らない本はないかと思っているところで、この本に当たった。本当に当たった。
 健康補助食品、特定保健用食品、栄養機能食品、特別用途食品、日本の役所が名前を考えて食品を分類するとこうなる、馬鹿の見本。この本の著者もほとんど呆れ顔で書いている。一応、何らかの効果が確かめられているとか、ある目的には合致しているなどが確認されている食品が上の四つに分けられるそうだ。どれがどんな風に…というのは本を読んで欲しい。
 さて、健康にいいだの、ガンの治療に効果があるの、なんとかに効くのという食品を一つ一つ検証していく。それほど難しいことではなく、科学的根拠があるかないか、医学的に証明されているかを明確にしてくれるだけである。しかしこれが重要。
 医学的効果というのは、まず試験管の中での実験で効果があるとわかったものを、次の段階で動物実験する。動物実験のあと、人間で効果を試してみて有効な数値が確認され、しかもいわゆる副作用が非常に少ないか、無いかなども検査しなければいけない。それが確認されて初めて「効果のある食品」といいうると書いている。
 健康についての効果も、人がある期間食べ続けて、食べない人との差違がはっきり出たものだけが血圧を下げる効果があるの、コレステロールを減らすだのいっていいという。当たり前だが、そういう風に、今の医学・科学で根拠を確認されたものだけが「効果がある」と表示していい、というわけだ。
 そういうことで今健康食品といわれているものを冷静に判断して行くんです、この本は。気持ちいいんだなぁ、あれもこれもしっかりした検査を受けていないので、効くとは言えないし、健康に効果があるとも言えない、そういったことの連続。
 キノコでガンが治った! という広告がある。そういうこともあるかも知れないが、キノコのエキスで試験管実験をすると結構ガン細胞を殺す力があるが、動物実験までやってみると、やや効果が落ちる。さて、そのキノコを人間で実験したかどうかというと、やっていない。やっていないと公的には効くとは言えないのだ、ということになる。哺乳類でも、ネズミと人間では単に「大小」で違うとはいえないそうだ。人間に効果があるかどうかは、人間で「実験」するしかなくて、やっていないものの方が多いそうだ。
 このところ流行している、はっきり効果が認められる食品については、例えば100人の人に毎日これを飲んで下さいといい、50人には実験対象のもの、残り50人にはそっくりだけれど別のものを配って一定期間をおいてから検査して、有効かどうかを調べるというようなことを済まし、確認されたものだから「効果がある」と書いている。
 文章が明解、本の目的がはっきりしていて迷いがない。自分で、ちょっと気になるものは試して見たりするところもなかなか面白い著者である。
 多くの食品を、バランス良く口にするという、基本中の基本が結局はいいということであった。気持のおさまる本である。


文庫本読書倶楽部 (c)Copyright "cave" All right reserved.(著作の権利は各投稿者に帰属します)