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京 唄子
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たかが金魚のコラムに、こんな表題を付けてしまうのは気が引ける。のだが、わたしにとって、「大口」といえばすかさず、あの方の顔が浮かんでくるのだから仕方がない・・・
という訳で、今回は金魚の「口」の話なのだけれど、今までの経験から、こんな表題を付けてしまうと「鳳啓介・京唄子」でサーチされた方が、たくさん来訪されることが予想されるので、一応冒頭にてお断りしておこうと思う。
これは「金魚」の話ですので悪しからず。
さて。我が家の本水槽の「雌」金魚たちは、おおむねかなりの「大口」であることに気付いた。なぜ気付いたかというと、60cm水槽「海軍兵学校」の雄金魚どもは、口の大きさが普通だからだ。両者の口元をよく観察してみると、本水槽の雌は、アゴの関節の部分のつくりがひと回り大きい。よく図鑑などに、蛇が卵を丸呑みできる仕組みを説明した骨格の図解が載っている。当然、金魚の口の構造は蛇とは全く違うので、適切な説明とはいえないが、ああいうふうに、提灯の骨組みの直径が大きくて、しかも良く伸びるような、とでもいえばいいのか。
とにかくあからさまに、大口、なのである。
その理由はハッキリしている。稚魚のころから常に自分のサイズには大きすぎる餌を与え続けられてきたからである。
当欄を御精読くださった方々は、ご存知でしょうが、現在の水槽の主力金魚たちは、魚齢の離れた一匹の雌と二匹の雄をうっかり混泳させた結果、大量に孵化してしまった二代目。いうなれば「団塊」の世代なのである。
ま。それというのも飼い主の思慮の浅さが生んだアクシデントなので、酬いを享受し、せっせと飼育を続けているわけだが、なにぶん予定外の出来事なので環境の準備ができていなかったのは、かつての日本政府と同じである。
結果、幼魚たちは全長30cmの母金魚と同じ水槽で同様の食生活をすることを余儀なくされたのである。雄たちは、再び「団塊世代」到来の失策を恐れた飼い主が、別の水槽に分けたので成長に見合ったサイズの餌を与え続けられて来た。
昨年暮れに死んでしまったその母金魚は、異常といえるほどの急成長の結果、普通の「金魚のエサ」では、その食欲に対応できず、というか、ひと袋などすぐに底を付いてしまうので、米袋のようなパッケージに入ったレギュラーサイズの「錦鯉のエサ」を主食としていた。
このレギュラーサイズというのは、ひと粒の直径がおよそ7〜8mmはある。水を含むと1cm近くにも膨れ上がる。母金魚はこれを一度に3〜4粒も頬張って食べてしまうのであった。ところがこの母金魚、度重なる病気のせいか視力が極端に衰えてしまっていて、浮上性のその餌のありかがよく判らなかった。それでやみくもに水面の水を吸い込み、偶然餌が口に入ると、「ほ!あった。よかった。やれやれ」と、底の方に帰って咀嚼するという食べ方をしていた。なので、短時間では、その餌を全て食べ切ることができなかったのだ。その隙に娘たちに自分用の餌をさらわれてしまう。
「団塊」の娘金魚たちが多数混泳していたので、給餌のときには、この「錦鯉のエサ」と普通サイズの「金魚のエサ」(直径2mm程度のもの)を同時に与えていた。味のせいなのか、大きさが目立つせいかは知らないけれど、チビどもは、一目散に母金魚用の「錦鯉のエサ」に飛びつく。当の母金魚は、餌の気配は感じているものの、メガネを飛ばされた横山やすしのように、なにもない水面をパクパクしているので、錦鯉のエサになかなかありつけない。
さて、チビどもがいくら果敢に突っ込んでいっても投入直後の硬く大きなエサには全く歯が立たない。かわるがわる突つきまわしているうちに餌はだんだん水を含んでふやけてくる。この餌の一部を強く吸い込むようにくわえて左右に振り回すと、そのうち砕けてしまう。砕けたとはいっても、小さい幼魚たちにとってはまだまだ大きな塊なのだが、これを争うように頬張る。うかうかしていると他の金魚に奪われてしまうからだ。この争奪戦は成長と共に激しくなり、口に入りきらない餌が覘いていると、その端をさっと摘んで奪い取る輩もでてくる始末。
そんな日常の食生活を繰り返して一年。この餌御用達の母金魚は、大量の「在庫」を残したまま死んでしまったのだが、あとに残った「団塊」たちの食欲は旺盛も旺盛。エサをどんどん消費するので、こちらの経済力の衰退もあいまって、この「錦鯉のエサ・在庫」という不良債権を処理してしまおうと、以前同様与え続けることにした。
幼魚たちも成長し、現在は体長10cmを超えたが、それでも、直径7mm超の「錦鯉のエサ」は、その口にはとてつもなく大きい。
ところが、食い意地とは凄まじい。最近は小さな体でこのエサをたやすく丸呑みできるようになってしまった。練習の成果、といえばよいのか。
隣の「海軍兵学校」にいる、二匹の父金魚は体長17cm以上あるのだが、この餌を丸呑みできることは稀である。また、偶然すっぽり口に入ってしまった時には、苦しいと見え大慌てで吐き出そうと暴れる始末である。
それなのに、本水槽の雌金魚たちはたいした苦労もなく、パクリ!と一口にくわえこんでしまうのだ。なかには、口一杯に頬張っているにもかかわらず、次の餌を突つこうとするものさえいる。
その様子を眺めていて、わたしは「たしかに、こんなに口の大きな金魚たちにはショップでもお目にかかったことはないなあ」とあらためて思ったのである。
そして思い浮かんだ絵ヅラが、往年の「鳳啓介・京唄子」の高座。怒った唄子が大口を開け、啓介が吸い込まれそうになるというネタのシーンなのだ。・・・懐かしや。それで表題にしてしまった。
我が水槽の金魚たち。雌はみんな大口で、雄は普通口。習慣というものはカラダのつくりも変えてゆく、か。なるほどねえ。
もう少し観察して、最も口の大きな雌金魚を選出し、彼女に「唄子」と命名してやろうと密かに考えているところなのである。
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←生後、わずか1年2ヶ月のくせして、錦鯉用のエサを丸呑みして咀嚼中の「大口」金魚。口の中はひと粒のエサでもはや満杯。この状態になると動くことも忘れ、パクパクと5分間くらいは咀嚼に専念せねばならなくなる。全部の金魚が一斉にその状態になるので、とってもマヌケ。しかし、大口! 京 唄子! |
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←錦鯉のエサに吸い付く瞬間。「チュッ!」という大きな音をたてる。ゆっくり突つこうとすると、エサが逃げていってしまう(ドリブル状態になる)ので、底部からイキオイをつけて突入し、一気の勝負をかけるのが、丸呑みのコツのようだ。 |
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←丸呑みできればよいが、このように口の入口につかえてしまうこともしばしば。この状態になると。急激に顔を左右に振るようにして衝撃を与えて、吐き出すか飲み込むかを待つ。吐き出せばその餌は他の金魚に奪われてしまうのだ。かなり必死。 |
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↓錦鯉用の餌、「ひかり」。
東王(あずまおう)の遺した忘れ形見、と云うか、不良債権というか。
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2002/01/27 (Sun)
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