金魚と淡水魚の飼育
41話
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カタメの腸まん闘病記

↑カタメの病死で4匹きりになったにもかかわらず、な〜んも考えてない「たかが金魚」ども。
左から、オヤジJR(じゅにあ・雄)ジャンボ(雌)段平(雄)トメ子(雌)(04.05.30撮)


 4月の中頃から、カタメ(雌)の左腹部が膨満しだしてきていた。前回のレポートにもあるように、水カビ対策で立て続けに薬剤を変えて効果を試したりしたので、その薬害が出たのかもしれないとぼんやり思っていた。結局、薬剤投入による水カビ撲滅は断念し、従来の週2回水換え方針に戻したので、薬害が原因ならそのうちに治まってくるだろうと楽観視していた部分もある。それにこの個体、もともと栄養失調気味のうえ、カラダもデコボコだったので、肥りだしたのは良い傾向かな、とも思っていた。ま、多少は泳ぎにくそうであったが、餌食いも良く元気な様子だったので、あまり心配もしていなかったし、そんなことより、わが水槽の疫病神「水カビ」の脅威はいまだ続いているのだから、そちらの水質の具合にほとんどの神経を使い、各個体にまで十分な気が回らなかったというのが本当のところだが。

 最初のうちは体の左側のみが膨らんでいたのだけれど、5月の中頃になると、右側の腹部も膨らみだして、あれよあれよと言う間に巨大なピンポンパールのような体形になってきて、これが、あのガリガリのカタメか?と思うほどの堂々たる体躯に変身した。肛門の直前からプックリと膨れているので、さすがにこれは消化不良による「腸まん」だと思ったが、なにせ水カビは、4日をおくと発生の兆しが出てくる状態なので、そちらの対応で手が一杯。腸まん専用の治療を施している余裕などなかった。「金魚の飼い方」の本を見ると、治療法として0.1%塩水浴と水温25℃以上にして良質のエサを与える、とある。高水温と塩投入は水カビ対策ですでに実施していることであり、まあ、貧乏なもんで割高な「良質」のエサは常食として与えるわけにはいかないが、ウチの連中はみなお徳用の「錦鯉のえさ」でここまで育ってきたわけだし、今更そんな贅沢は許さんし。というわけで、とりあえず餌の量を減らすことのみで対応していた。他の連中にはひどく迷惑だったであろうけれど。

 いままでの経験から言うと、この「腸まん」体形は、失明している金魚に良く見受けられるような気がする。臭いだけに頼って餌を摂るので自然と悪食になってしまい、消化不良を起こしやすいのだろう。カタメも、片方だけとはいえ不自由で、餌の取り方も不器用だったので、食べ残された悪くなった餌や底砂の中の汚物などをたくさん食べざるを得なかったせいだと思う。今回、楽観視した理由の一つは、知り合いの飼育していた腸まんの失明金魚がなんと18年も生き続けていたことがあって、致命傷にまで至るとは考えていなかったからだ。カタメの場合は、その老金魚より若い分、一度に食べる量もずいぶん多く、症状の進行を早くしたのだろう。

 さて、5月下旬になると、カタメの腹は、もはや自由に泳ぐことも出来ないほど膨れあがってきて、水槽の一角にじっとしていることが多くなってきていた。しかしウチのバカオスどもは季節もわきまえず水換えの度に発情する。モテ体質のカタメは、オスに攻め寄られると突かれた紙風船のように、クルクル回転して身を任せている。苦しくてものんびりさせても貰えないのである。それでも、餌をたべる時などは元気に泳いでいる様子だったので、まだ特別な加療の必要はないと判断したのだが、水面近くに浮き上がったような状態でいることが多くなったある日、よく体を観察してみると、膨満した両腹部の頂点のウロコが松かさ病のようにささくれ立ち、その隙間から内出血のような赤黒い色が見えている。そのうちに転覆しだしたので、これはもはや内臓パンク状態かと驚き、慌ててバケツの集中治療室に移し、治療を試みることにした。

 15リットルのバケツに飼育水を移し、エアレーションを施してカタメを移した。細い糞は出しているようなので、とりあえずは糞詰まりを解消して、お腹の張りを解消してやることが先決だ。口はパクパクしているし鰓や鰭は動かしているから、まだ多少は手荒な治療にも耐えるだろうと、水から取りだし、手で腹部を後ろのほうに向かって押してみたが、一向に糞が出る気配がない。間近で見ると、両腹部の内出血がかなり酷くて、すでに内臓は大きなダメージを受けて、体力自体も減退しているようである。この分では、たとえ糞詰まりが解消しても、救命はおぼつかないであろうと判断した。しかしこの際ダメ元でも、できるだけのことをしてやろうと、内出血部分にわが家常備の軟膏(人間用)を擦り込み、いったんバケツに戻して、策を考えた。


←前回更新時に撮影したカタメ(中央)。左側腹部が膨らみだしてきたが、元気さに変わりはなかった。(04.04.30撮)
←上の写真からひと月が経過。その間、水カビの発生は食い止めてきたが、腸まんへの対応は、高水温維持と塩の投入のみだった。次第に左側の腹部はご覧のように膨満。右側も同様に膨れてしまい、辛そうに水槽の底に着底。(04.05.29撮)
←エサを入れてやると、それを食べようと水面まで泳いで上がってくるのだけれど、食べ終えるとすぐに再び沈んでしまう。
←上写真撮影時より数時間後。右側腹部に内出血が広がり始めた。どうやらお腹の中がパンクしてしまったようだ。続いて左側も同様に出血し、徐々にグロッギーに。

 ダメ元と判断したときのシロート療法は恐ろしい。薬箱(人間用)を漁ってみると「イチヂク浣腸」を発見。わたしのバカなアタマに電球が灯った。糞詰まりといえば便秘ではないか。わたしは酒呑みの下痢症だが、たまに詰まったときに使うと、30分でピューと効くことを承知している。しかし成分はグリセリンだ。グリセリンって、何だっけか? ニトログリセリンは「恐怖の報酬」だが。数十年ぶりに化学記号がアタマをよぎるが、ええいままよと、施してみることに。製品の挿入部は金魚の肛門には太すぎるので、ドリンク剤用の細いストローの先端を丸みを付けてカットし、ジョイントする。さて挿入しようとすると、カタメは雌である。前後に2つ肛門と生殖孔が並んでいる。さて、どちらが…とはるか昔のわが青春時代を思い出してる場合じゃない。カタメは新聞の上で暴れている。濡れた手で金魚の本を捲っている時間もない。再び、ええいままよ、と……両方に入れた。(すまん、カタメ)

 無茶な浣腸をされて、バケツに戻されたカタメは底の方でじっとしている。胸鰭でバランスをとろうとするのだが、すぐに転覆してしまう。「腸まん」の治療は始めてだが、瀕死の金魚の手当ては何回も経験してきたので、体力(生命力)の残り具合、快復具合などは、見ればだいたいわかるようになっている。今回はたぶんペケだ。集中治療の時期が遅すぎた。だからこその荒療治なのである。浣腸で糞が出ることをかすかに期待しながら、薬が効くまでの間、薬屋に「ヒマシ油」を買いに出た。これも下剤であるが、こちらのほうは「金魚の飼い方」の本に、「加香ヒマシ油、硫酸マグネシウムで脱糞を促して治った例もあります」という記述があったからで、この際、手を尽くしてみようということである。

 ヒマシ油を買って戻り、バケツを覗いてみたが糞が出た様子はない。やはり魚には効かんのか「イチヂク浣腸」。「溺れるもの藁をも掴む」というが、相手は魚だから溺れないなあ、などと下らないことを考えながら、最後の一手の「ヒマシ油」を施し、今回の延命作業を打ち止めにする。浣腸はわたしの馬鹿な思いつきだが、こちらのほうは一応「金魚の飼い方」に載っている療法であるから、それなりの効果はあるはず。しかし記述は「加香ヒマシ油、硫酸マグネシウムで脱糞を促して治った例もあります」の一行のみで、どう使うのかは全く書かれていない。「ヒマシ油」といえば油である。水と油、というように飼育水にそのまま投入しては生きている金魚も死んでしまう。また水面に浮く油を、どうして飲ませればよいのか…。そこで考えました。もうひとつバケツを用意し飼育水を入れ、そちらに「ヒマシ油」を浮かせる。カタメをヒマシ油バケツに移し、口が水面にでる位置になるように固定して手で支える。金魚はパクパクし続けるので、表面張力で水面付近の水は口に吸い込まれてゆく。したがって浮いているヒマシ油が次々に口に入ってゆくという次第。この方法は上手くいったが、異物と感じるのか「ペッ」と吐きだすんですな、上手にヒマシ油だけ。コノヤロー。しかし何回も繰り返すことにより、多少は体内に入ったであろうという頃合いで投薬終わり。カタメを元のバケツに帰した。あんのじょうヒマシ油バケツはベタベタのヌルヌル。飼育には御法度の「洗剤」で洗ってもなかなか落ちなかった。このやりかたはたぶん正解だろう。

 無茶な荒療治の甲斐もなく、糞がでることもなしに、数時間後にカタメは衰弱して昇天してしまった。浣腸はともかくヒマシ油の治療は、早期から施せばそれなりの効果もあるのだろう。カタメの場合は前回更新時の左腹部が膨れはじめたあたりから行ってやれば治っていたのかもしれない。内出血するまで進み、転覆するようになっては、もはや下剤を与えても、内臓の蠕動を活発化して脱糞させるだけの体力が残っていなかったのだと思う。しかしプロならともかく、シロート飼育者はこうして、ひとつひとつ経験を重ねて知識を増やしてゆくしかない。まさに屍を踏み越えて、であるが、金魚にとっちゃ大迷惑の「犬死に」だな。すまぬ。

 カタメの「腸まん」を治療していて気づいたのが、彼女たちの母親の「東王」の突然死についてである。当時は原因不明であったのだが、どうもカタメと同じ消化不良であった公算が強い。東王の場合は健康時から体がパンパンに肥っていたので、外見の変化はわからなかったが、死に至る経過は今回のカタメと良く似ていた。この病気に慢性と急性があるのなら、東王は徐々に、そしてカタメは急激に症状が進んだのであろう。何れにせよ、治療するには厄介な病気だと言わざるをえない。では、普段から消化のいい高価な餌を与えるか? いんや、ウチはあくまで意固地に安物で行きまっさ。

←ついにバランスを保つことができなくなり、転覆状態に。しかしまだヒレは動かしている。もうオナカはパンパンだ。バケツに移して強制的に便通を促すことにしたが、もはや体力的にも快復はキビシイ。もっと早い時点で決断するべきだった。(04.05.30撮)
←この状態で半日の間、パクパクと生き永らえていたが、体力が尽きると静かに息をひきとった。荒療治でとにかく便を出そうとしたが、結局出ずじまい。イチヂク浣腸とヒマシ油が虚しい。
←死んでしまったカタメちゃん。体の両側ともに内出血が激しい。消化不良が原因の「腸まん」は、殺菌剤や薬で予防することが困難なので、罹ると厄介な病気である。死亡時のサイズ(全長)は21cmであった。母魚「東王」の墓所横に埋葬した。安らかに眠れ。

↑ガリガリだった体がややふっくらとなったカタメ(右下)。病気を楽観視しすぎたか。(04.04.30撮)

段平、急速白化中。

←カタメの腸まんと水カビ対策に気をとられている間に、あれあれ、段平が猛スピードで白色化しているではないか。しかしこの急な脱色については「東王」のときにいちど経験しているので、もはや驚かない。(04.06.08撮)
←上写真が現在(04.06.08撮)。下の写真はひと月半前の「段平」の姿(04.04.30撮)。胸ビレや腹ビレはほとんど真っ白にブリーチされてきている。尾ビレも、古びて色落ちしたコイノボリのようだ。何をきっかけにして、このような急な変化が起こるのだろうか。不思議。
段平、オヤジJRは年中サカル。

←カタメがいなくなったのもお構いなしに、水換え直後は必ず発情しまくるオス2匹。モテ筋のカタメの脱落にもっぱらジャンボが攻撃される羽目に。オヤジJRの強烈頭突き。(04.06.08撮)
←サカリ始めると、折角きちんと植えた水草も、水槽内のなにもかもをグチャグチャにしてしまう。飼い主としては腹の立つことこのうえない。上が雌のジャンボ。下からオヤジJRと段平(右)がツープラトン攻撃中。
←見境なく雌ひとすじに突進して暴れ回るので、金魚たちのカラダは岩や器具などにぶつかって傷だらけになってしまう。しかし、トメ子もメスであり、もはや体長も同じくらいに成長したのに、なぜかほとんど構って貰えない。色気が足りんようである。
←オスどもに「女」として相手にしてもらえない、かわいそうなトメ子だが、それでも騒ぎには巻き込まれて傷だらけに。「ハリー・ポッター」顔になってしまった自分の顔を確認中。
←ビューン!!「盛りだ盛りだ、盛りだワッショイ!」と、張切って水槽内を高速周回中の段平。オスのくせに、いまさら美白してどうするねん。

↓カタメちゃん(右)もかつてはオス連中のアイドルであった。左はオヤジJR(04.04.30撮)
2004/06/10 (Thu)

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