おかやどかりの飼育

20話
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オカヤドカリとのつきあい方 ―cave流飼育法その1―


 やあ、やっと暖かくなってきた。ベランダで日光浴をさせて砂を殺菌でき、水槽内を清潔に保てるし、近々ヒーターも不要になる。春はありがたい(夏はまたタイヘンになるのだが)。二世帯化したオカヤド舎だが、郵政1号と逓信2号が無事郵便局に里帰りした後も、名無しちゃんが出てこないので、そのままにしていた。ヒーターなしで越冬させておられる方の記述では、春まで一度も出てこない例もあるようなので触らずに置いていたのだが、そろそろ潜って三カ月になる。そこで先日、暖かい日を選んで発掘してみた。残念ながらやはり脱皮に失敗していたようで、体は砂にかえってしまっていた。甲殻類なので両のハサミや脚などはそのまま分解されずに残っている。名無しちゃんの特徴であった赤みがかった色も確認できて、元気だったときのことが偲ばれた。名無しちゃんの冥福を祈ろう。

 さて、その間二世帯住宅の右側の住人、「宿六」だが、年越し脱皮をしておせちを食べそびれた他は、活発に動き回っている。昼間のうちはガジュマルを齧ったり砂を掘り返したりしているが、夜になり照明が切られると水槽内温度が下がるので砂に潜る。朝になり照明を点けるとまだ出てくる、というパターンの繰り返しである。ごくろうなこった。「♪潜りたくなりゃマンホ〜ル>東京キッド」という感じか。局ヤドスペースと分けていたストレーナーの仕切りは、完全に外してしまうのを止めてハサミで切り、底から7cmくらいの低い仕切りに作り直した。上部は自由に通行できるようにしてあるが、左右の砂などの環境を変えて、どんな環境がお好みなのかの実験をしようと目論んだのだ。目下、目の細かな沖縄の砂を注文中。現在左のスペースには砂を入れずにゴロンと流木を転がしてあるが、日に2、3度はそちらに移動してぼんやりしているので、まんざらでもないようである。実験で解ったことを、またレポートにしたいと考えている。以上がオカヤド舎の近況報告である。



ヤドロクの正月脱皮
↑ヤドは潜っていたのだが、暮れの大掃除にあわせて、オカヤド舎もきれいにしておこうと、水場を持ち上げてみたら…

↑あらあら、水場を屋根にしてきれいに穴を掘り抜き、脱皮でしたか。こりゃどうも失礼。直後のようでハサミはまだ湿っていて柔らかそう。
↑角度を変えて撮ってみた。脱皮殻は乾燥しているが、ちょこちょこ齧った跡がある。これを食べて脱皮後の栄養を補給している。
(2002.12.26)

↑陽だまりで遊ぶ

 オカヤドカリの「宿六」がわが家にやって来てから3度の越冬をし、この夏でまる4年を迎える。あとどれくらい生きるのかはわからないけれど、このあたりで、いままで飼育してきて気がついたことをまとめて中間報告をしておくことにした。「オカヤドカリとのつきあい方・その1」

●オカヤドカリってどうよ?
 わたしは、ペットという呼び方は好きではないし、溺愛する気もさらさらないが、じっくり観察するのは大好きである。しかし生き物を長期にわたって飼育するのはタイヘンで、相手に愛嬌のひとつもなければ世話にも飽きてしまう。その点からいうと、オカヤドカリは比較的飼育が容易だし、観ていて面白いので適当なんじゃないかと思う。餌は何でも食べるし、飼育水の水質に気づかう必要もない。まあ、冬場の保温だけだ。しかしこれもヒトが生活している室内での飼育であれば、ヒーターも特に必要ないのではないかと思うようになってきた。鑑賞するためには照明が必要なわけだし、照明はかなりの熱を発する。ヤドカリも寒いと砂に潜ってしまうし、生息地の沖縄だって冬はそこそこ気温が下がるもの。となると、キリフキでの水分補給とおかずの残りのみでラクに飼えるおトクな生き物と言えないこともない。もっとも水槽内の飼育環境(次項以下を参照)をよく考えてやったうえでの話ではあるが。
 愛嬌については、これは十分愉しめる。ハムスターが多くの子供たちに可愛いと支持される理由のひとつに、手を使って食事をしたり顔をこすったりする仕草があるからだと思うのだが、なんとヤドカリはこれができるのである! 両のハサミを上手く使って餌を千切り何度も口に運ぶ。ヒゲの手入れもする。ま、人が箸でメシを食べるのと同じ動作なわけだ。擬人化、感情移入しやすいのである。これ、犬にも猫にもトカゲにもカメにも金魚にもできない技である(カニはできます)。ただし、ヤドカリは懐かないけどね。腹が減ってもメシを要求しないし苦しいからといって暴れもしない。水槽を覗き込むと即引っ込むし。飼い主にはいつまでも態度が冷たいぞ。

●理想の飼育環境とは?
 わたしが長期観察してきたのはウチの「宿六」(たぶんムラサキオカヤドカリ)一匹のみなので、種や個体差などにより違いがあるのかもしれない。ここは「宿六」に関しての考察だと一応お断りしておく。
(※あくまで「cave流」です。飼育の参考にされる場合は状況に合わせてよく観察しながらにしてください。事故の責任は負えません)

〜砂〜
 前項でも書いたが、注意点は適当な湿度(エラ呼吸している生物である)の維持と、寒冷時の保温。あとは脱皮である。この3つともに大いに関係しているのが「底砂」だ。乱暴に言えば、水槽に砂さえ入れといてやりゃ良し。砂は水分を保持するし、寒いときや脱皮時のねぐらになるので飼育には絶対必要と言える。さて、ではどんな砂がお気に入りなのか。何種類か試してみたところによると、どうやら細かな粒のほうを好むようなので現在は細目のサンゴ砂をメインにしている。上のほうにも書いたように近々砂浜の微粒な砂を左のスペースに入れ、二色アイスにしてヤドのご機嫌を伺う予定。観察ポイントは穴掘りに適しているか。保水の具合とメンテナンスが容易かどうか。微細な砂はヤドは喜びそうだし保温力も高そうだが、飼う方にとっては、湿らせ加減の調節やガラスへの付着問題、砂洗い時の風呂場などが大変になるような気がしている。結果は後日ご報告するつもり。

〜流木〜
 流木もしくは木の枝を入れてやる。最初はオカヤドカリは木登りが好きなので…と何気なく入れていたのだけれど、観察しているうちに重要なパーツだと思うようになった。水槽内の地表面の環境が湿度過多で不潔になっている場合や水槽内の温度にばらつきがでている場合に、流木に登ることによりヤドカリ自身が快適な場所に移動できるので都合が良い。逆に流木から降りてこないようであれば、地表のコンディションに不具合があるのかもと気づくこともできる。また寒冷時は上部照明の近くまで登り暖をとることもできる。なので流木はできるだけ高低差がつくように配置したい。また、設置は水槽の底に直接触れるように置き、その周囲に砂入れをしたほうがよい。頻繁にキリフキをしていると表面の砂は乾いているようでも案外水槽の底に汚水が溜まってしまっているものだ。これを流木の毛管現象で吸い上げて上部より蒸発させる。そして砂はあまり湿らせずにおく。このほうが清潔だし水槽内も美しく見える。流木が完全に渇いてしまわないように気をつけていれば良いので、湿度管理もカンタンだ。

〜飼育ケースと保温〜
 当欄を遡って読んでもらうとわかるように、オカヤド舎には観賞魚おさがりのGEX社(ファイブプラン)のデスクボーイ水槽を使用している。人気商品なのでホームセンターなどでも安く買いやすいのと、設置スペースが少ないのが魅力なのだが、観賞魚を飼うには少ない水量(15L)や貧弱な濾過装置等にやや問題がある。しかしオカヤドカリの飼育に使ってみると非常に都合が良いことに気づいた。断面積が小さいので「二世帯住宅化」や先に書いた「二種類底砂実験」などが容易。さらに工夫すれば水場(池または海水の)と砂場(陸)を左右に作ることも可能だ。また寒冷時の保温も、上部照明からの距離が近いので点灯だけでかなり暖かくなる。容積の大きな水槽ではなかなかこうは行かない。もっともわたしも背面ガラスにシートヒーターを貼り付けてはいるけれど。左右は60cmあるからレイアウトにも変化を付けやすいし、ヤドもあっちこっちと移動できる。ただガジュマルなどの植物を入れてやるときに17cmの高さはちょっと辛い。同シリーズにデスクボーイ・ノビータという高さのみ30cmほどある水槽が販売されているので、こちらが理想かな。中二階を設けるなど上下のスペースをうまく使えば相当広く使えるだろう。ただ上下の距離がでるので照明のみの保温はちょっと心細いのと、狭くて深いのでガラス内側の拭き掃除がやり辛そうだなあ。ま、安売りを発見したときは、買いである。

〜飼育数〜
 うちのオカヤドカリ「宿六」はずっと一匹での単独飼育である。3〜4カ月に一度は脱皮を繰り返し、事故もなく大きくなってきた。複数のヤドカリを同じケースで長期飼育していないので何とも言えないが、ひょっとしたら単独飼育が長生きさせるポイントなのかもしれない。複数のヤドカリの脱皮サイクルにメンテナンスを妨げられることがないし、脱皮時その他の接触事故もありえない。ヤド本人は何となく淋しそうではあるが。

 今回の「オカヤドカリとのつきあい方」はこんなところで。観察を続け、また機会をみて餌や脱皮や習性のことなどもまとめてみたいと思う。生き続けてくれれば、ね。




←名無しちゃんの潜っていた局ヤドスペースのフェンスを低くして、通行を自由にした。こちら側には、うんと細い砂浜の砂を敷いてみて、どちらの砂がお好みかを実験してみる予定。
仕切りが下がったことに気づいたヤド六は「ん?」というような表情である。
←そそくさと、広くなったスペースにやってきた。砂が入手できるまではとりあえず塩水に浸けた流木をころがしてある。
←砂が入っていないにもかかわらず、一日に何回もこちら側にやってきては、また戻ることをくり返している。写真は流木にしみ込んだ水分を夢中で吸っているところ。

名無しちゃんの捜索
↑陽だまりに水槽を出して、三カ月間音沙汰なしの名無しちゃんを捜索することにした。ハケで砂を少しずつ取り除いて行くと…
↑いたいた。水槽のいちばん底まで潜っていた。こうも底に近いとキリフキの汚水が溜まることがあるので脱皮によい環境とはいえない。
↑ああ残念、抜け殻のみ。やはり脱皮に失敗していたようだ。ひょっとしたら底に溜まった水で溺死した可能性もあるが…合掌。
↑初恋の名無しちゃんにお別れをしなさいと、ヤド六を亡骸のそばに置いてみた。しばらくぼんやりしていたが…
↑貝殻に気づくやいなや、生前と同じように急いで「ガバッ!」と抱きつきにゆく。脱皮殻には目もくれない。
↑貝殻をくるくる回し、何度も中を覗き込むヤド。自分に合うサイズではないのにこの熱心さは、やはり激ラブだったのか?…辛いよ、なあ。
(2003.02.15)


はい、また「やもめのオカヤドカリ」の日々が続きます。↓
2003/02/20 (Thu)

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