おかやどかりの飼育

24話
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ヤド六とストレス

↑三代目のガジュマルがやってきたオカヤド舎。
これで少しはリラックスできるのでしょうか?


 探していたガジュマルの鉢を、6月アタマに東急ハンズのグリーン売り場でようやく見つけた。しかし、まだ二鉢しか店頭にない。そのうち一つの鉢植え物はナカナカ立派な根ぶり枝ぶりで、どっしりとした鉢に入って2500円。これなら当分丸坊主にされずに済みそうなのだが、いかんせん大きすぎてウチのヤド舎には収まらない。残る一つはハイドロカルチャー。おしゃれな白い台皿付きの陶器に入ったもので、こちらは夏の終わりまでに丸坊主必至の小さな株。そのくせデスクボーイにゃちと背が高い。これが1900円。もう!どうせ植え替えるのだから、おしゃれな容器など不要なのである。ペラペラのビニール鉢ので十分なのに。高いぞ!

 もうすこし待って、大量入荷時に適当なものを物色する手もあるが、なにせうちのヤド六、ヤモメ生活もう4年である。昨冬一時、郵便局の疎開ヤドたちに色気付きもしたが、すぐにお別れとなり、その後はどうにも淋しそうな風情を漂わせた日々を過してきた。そのうえ二代目ガジュマルも食べつくし、水槽内が砂と流木のみの殺風景になって久しい。心なしか表情も冴えないように見える。こんなときこそ砂に潜って脱皮態勢に入ってくれればありがたいのだが、そうもせずに水槽の隅でしょんぼりしたり、隣の金魚水槽をじっと眺めていることが多い。わたしも一人暮らしが永かったもので、その淋しさは解らなくもない。人間なら、酒に走ったりオーディオに凝ったりして、うさを晴らせるが、ヤドではそうもいかんし、さぞかしストレスも溜まろう。財布淋しきおりだが、ここはせめてガジュマルくらい入れてやり無聊を慰めてもらうことにした。う〜ん優しい飼い主。


 そうはいっても売り場にはふた鉢しかない。さて、どちらにするか。鉢植えの方はハイドロ4株分くらいのボリュームがあり、価格差は僅か600円である。こちらを買って株分けすれば断然オトクなのであるが、それには作業する時間を捻出せねばならないので、即植え替えというわけにもいかない。ここは速やかにヤド舎に入れてやるほうが徳があるということで、貧相なハイドロのほうを、ええいままよと購入した。しかし痛いな1900円。

 梅雨に晴れ間が覗いた日、早速ベランダにオカヤド舎を持ち出し、底砂に日光消毒をさせつつ、この三代目ガジュマルを、さらに小さなハイドロ容器に植え替えヤド舎に設置した。背が高すぎるのだが、どうせモシャモシャ食われてしまうのだ。勿体ないので今回は剪定をせず、強引に斜めに植え込んで収めた。設置してそろそろ二週間が過ぎるが、もはや新芽の半数と大きい葉の2、3枚は姿形も無い。やはり、鉢植えのを買うべきだったか…。

↑購入時の三代目ガジュマル〈ハイドロ)

 こうして飼い主がいろいろ気を遣ってやっていても、当のヤドロク、一向に懐きゃあしない。ま、海水水槽のホンヤドカリやヒライソガニも懐きはしないが、たまには餌のひとつもねだったらどうだ、と思う。ヤド六はいつまでたってもわたしが近づくとあわてて貝殻に引っ込む連れないやつなのである。それにひきかえ、金魚なんかは現金なもので、ほんの少しでもわたしのフォルムが視界に入ると一斉に餌をねだる。ま、これも懐いていると言うより、単に腹が減っているのに過ぎないのだろうけれど、それでも、そういう反応を示されると、こちらだってよしよし餌のひとつも入れてやろうか、という気になる。オカヤドは懐かないうえ、食い物の匂いにも鈍感である。距離があると餌の方向に積極的に向かうようなこともない(海のヤドカリは餌の匂いに敏感に反応するが)。だから鮮度が重要なエサ、つまり時間が経つと萎れてしまうような果物野菜などは、いちいち目〈触角)の前に置いてやらないと賞味時間を逸する可能性が大である。そうして置いてやっても、驚いて一旦は逃げてしまうことが多い。馬鹿なんである。ま、「天然」と言ったほうが正しいのかな。

 金魚はお天道さまの運行にかかわらず、こちらが照明を点け消ししてやると、それに従って眠ったり目覚めたりする。ということは人並みに時差ボケも感じる連中なのだろうか。しかしヤド達は、照明にはあまり反応しない。夜、明かりが点いていようが、昼、暗かろうが、明かりに関係なくマイペースで行動しているように見える。とりたてて夜行性ということでもなさそうだ。要するに危険が少なそうだと感じたときに動いているようである。でも長い間飼育していると、彼らにとって重要なのは、「お天道」さまではなく、「お月」さまのほうらしいということが解ってくる。お月さまの引力。そう、潮の満ち干なのである。満月と新月の日は潮の干満が大きく、魚やイカが釣れたり磯採集に適したりするのだけれど、こんな街中の、砂と水道水のみの飼育ケースの中で暮らしていても、どうやら彼らの生理はそれに従っているような気がする。

 ヤド共が、普段と違う変わった行動をしはじめたとき、新聞の気象情報欄の月齢の表示が●や○〈大潮)になっていないか確かめてみると面白い。わたしもヤド舎の隣に月齢表を貼って観察しようと思いつつ、まだちゃんとデータを取るに至っていないのだが、交尾はともかく、活発に行動するとき、またショボンして動かないとき、脱皮などの行動も、季節と潮位の掛け合わせによって支配されている可能性は高い。うん、今後このあたりの関係に気を配って観察してみることにしよう。病気であるかの判断や、やもめストレス回避のお役に立てるかもしれないし…。しかし本当にそうだとしたら、あのトボケた体のどの部分で天体の動きを感知しているのか。不思議だねえ、生き物は。それこそ文字通り「天然」ということなんだけど。

←突然、非常に熱心に穴掘りをしだして、数日間も続くことがあるけれど、この行動と潮の干満の関係はあるのか?

↓長時間動かずに、となりの水槽をただ眺めるばかり。なに考えてんだ?
2003/06/23 (Mon)

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