おかやどかりの飼育

32話
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海ヤド水槽を散策

↑海ヤド水槽は遊び場が多くていいなあ(05.03.05撮)

 日々温かくなり、今年もオカヤドカリが活発に行動するシーズンがやってきた。というのに、ヤド六はといえば、寝ている…。この2〜3年は長期脱皮潜りは年の暮れに年1度というのが決まりごとのようになっていたのだが、今年はどうしたものか。4月の10日前後に姿を見せなくなってから、ほぼ三週間が過ぎたがいまだに出てこない。ま、いいか。この隙に正月から溜まっている分を更新して現況に追いついてしまおう。

 昨夏、大手玩具屋の「オカヤドカリ飼育セット」販売に伴うキャンペーン等々で、オカヤドカリという生物が強引に世に知らしめられることとなり、超地味に営まれていたヤドカリ愛好家の周囲が一気にあわただしくなったのであったが、どうやら今年の夏も騒動は継続拡大されるような感じで、二匹目の泥鰌を狙った企業の新規参入も見受けられるし、生体通販市場もさらに活性化しそうな雰囲気である。それに伴ってか、気温の上昇とともに拙ページのアクセス数も増えだしているようなので、以前にも書いたことだけれど、当サイトのスタンスについて簡単に述べておくことにすると…

 ここでは、ムラサキオカヤドカリ「ヤド六」一匹の成長に伴うエピソードをコラム風に紹介しており、基本的な飼育の仕方が簡単に理解できるような作りにはしていません。また話を膨らませるためのヤラセ・冗談も含んでいるので、一部だけ読んでまんま鵜呑みにしたりすると、オカヤドカリを死に至らしめる原因となりうる可能性もありです。なので、飼育の参考にされる方は、基本的な飼育法を生体購入先などであらかじめ確認のうえ、当欄のヤド六の暮らしぶりを愉しんでいただきたく思います。つうことで。



↑イソヨコバサミ(下)とご対面。
どデカイ奴がイキナリやって来たので、イソヨコは驚いて引っ込む。

 さて、今年に入ってからのヤド六は、おおむね三日間ほど砂に潜っては姿を現し、三日ほどガサゴソ動いてメシを喰い、また潜ってしまうという繰り返しであった。落ち着かないことこの上ない。サンゴ砂の大部分を微粒のパウダーに変えたことが、砂潜り遊びを熱心にさせているのかもしれないが、年末の道路工事じゃあるまいし、こうもそこらじゅうを掘り返し続けられると、水場は砂だらけ、餌も砂まみれ、リハウス用貝殻も砂コルネ状態。おまけにガラス面に付着した砂粒で中の様子がよく見えずと、飼い主にとってはなかなか厄介なのであった。当然、ヤド六の背負っている貝殻にもパウダー砂がびっしりと付着し見苦しいのである。

 夏ならば、バケツにアクアセイフ水を入れて、ヤド六をドボン!と行水させればオーケーなのだが、1月2月はまだ寒い。こちとらも仕事が忙しく、のんびり付き合っている時間もないので、オカヤド舎の下に設置してある、常にヒーターで適温に保たれている海水水槽を風呂替わりにしてズボラを決め込んだ。で、今回は3月アタマのスナップである。

 砂まみれのヤド六を海ヤド水槽の岩の上に置いてやる。勝手に行水・散策させておき、その間に陸ヤド舎の簡単なメンテをしてしまおうという魂胆である。最初はおっかなびっくりで、触覚で海水をさかんに探ったりしていたが、そのうち意を決したのか、おもむろに岩を降り始めて水槽の底をウロウロ歩く。迷惑なのは海ヤド連中である。同類とはいえ、どでかい奴がいきなり乱入してくるものだから、驚いて岩から転げ落ちるわ、後ろ向き走りで逃げる途中をヤド六に轢かれるわで、散々なのであったが、ヤド六の方は、海の住人やその餌には目もくれず、水槽の底を三周くらい回遊し、岩に進路を阻まれるとそれに登り、水面から少し体を出しては、また潜ってゆく。


←水が苦手なヤド六ではあるが、岩の上でしばし佇んだのち、おもむろに海水中に入ってゆく。(05.03.05撮)
←水槽の底をガサゴソ散策。暢気な表情は変わることがないので、呼吸が苦しいのかどうかは判断できない。
←海ヤドタンク住人は、えらい迷惑である。イソガニの忠治は右の岩陰に、イソヨコバサミ一匹は左の岩の隙間に潜り込んで身を隠しているが、食事に夢中のアンダーテイカー(イボニシ)はヤド六に踏んづけられてしまった(右下)。バカなイソヨコバサミ(中央)はヤド六の進行方向に逃げるものだから、この直後に轢かれてしまった。
←ライブロックにも登ってみる。岩に付いているコケなどを摘むそぶりは、いまのところは見ていない。
←何周か徘徊すると、サンゴ岩に登って海水面から顔をだすこともある。

 一般に「オカヤドカリは溺れる」というのが常識になっているが、飼育下で実験した人はいるのだろうか? 鰓呼吸の生物が果たして溺死するのかというのは単純な疑問である。ま、場合によってはアウシュビッツ的行為となるので、普通飼い主は進んで実験しませんわな。しかし、陸ヤドと海ヤドを勘違いして海水たっぷり水槽で飼ってしまう例は多いし、その場合、陸ヤドは水を嫌って水面から体を出そうとはするのだが…今までに死んだ例があるのだろうか。また、どれくらいの時間なら耐えられるのか? とれもろさんの「オカヤドカリ見聞録」によると、「放仔するメスのオカヤドカリが波にさらわれないようゾエアを放すのは命懸け」とある。小さな生物であるオカヤドカリが自然の海辺で波にさらわれてしまえば、5分や10分で陸に戻るのは難しいだろう。引き波の抵抗を避けて海中から速やかに脱出するため、お得意の後ろ向き歩きで陸を目指すというのは、なるほど頷ける習性だが、さて成体オカヤドカリの溺死カラータイマーは何分に設定されているのやら。

 今回、メンテに掛かった時間はおよそ20分。その間ヤド六は一度だけ水面から顔を出したが、すぐに再び自ら潜っていき、あとは水底を散策していた。水面から出たのが呼吸のためなのか、目の前に岩があったから登ってみたら水面だった、のかはさだかでない。苦しそうに見えたか、と言っても、あいつらの表情から喜怒哀楽を読み取ることは不可能である。まあずっとカサコソ動き回っていて、ヤド舎のガジュマル下で居眠り中の時のような「ぼんやりモード」には見えなかったから、非常事態だったのかもしれないが、必死さは全然感じられなかったなあ。水中で立ち止まり、貝殻をパッコンパッコンして中に海水を取り込んでいたし。




↑お、水面だ。息継ぎでもするか。(05.03.05撮)
←水底で立ち止まり、貝殻をパッコンパッコンする。たぶん内部に海水を満たしているのだろう。海ヤドの場合、この行為はウンチを排出するときに行なうのだが…。(05.03.05撮)
←砂粒が眼や触覚に付いた時には、すぐに落そうとするのに、気泡に関してはあまり気にならないようで、放ったらかし。
←折角、海水行水をして落したパウダーなのに、自分のヤド舎に戻ればすぐに元の木阿弥に。

 ヤド六はメスだった!?

 当欄では、ヤド六の性別については、当初より雄として扱ってきた。「やもめ」「嫁取り」「抱きつき」などの記述は、それに伴うものであったのだけれど、前々回に掲載した、宿替わりの瞬間を捉えた写真の腹部に、雄にしては長いと思われる「腹肢」が写っていたので、実はヤド六は雌ではないのかという疑念が生じた。今まで雄であると判断していた根拠は、飼い始めた頃から何度も調べたのだが、雌にのみある第三脚付け根の二つの「生殖孔」が見あたらなかったからだ。わたしは移動の時以外、ヤドカリに触らないことにしているので、雄の生殖器の有無しは確認しなかったのだが、近眼・乱視のところにもって最近急速に老眼が忍び寄りつつあり、ハッキリ言って、動く生物の複雑な脚にある小さな物件などには肉眼では全くピントが合わないのである。で、ここはデジカメのマクロレンズの眼に頼るしかないと、水槽ガラス越しにヤド六の腹部のアップを闇雲に撮り、一枚一枚パソコンで拡大して見た。水槽の前に跪きローアングルでヤド六の下半身ばかり狙うオッサンの姿というのは、駅の階段で捕まった某U教授のようで情けないことこのうえない。撮っても撮ってもなかなかシャープに捉えられずにいたが、百枚以上撮ったあげく、やっと一枚だけなんとか証拠写真が撮れた。

 ヤド六はメスだったのである。

 一匹しか飼っていないので、飼育者としては別にどちらでも良いのであるが、困るのは、アンタ、32も回を重ねた当欄の記述はどーすんねん! つうことである。まあ、事実は事実なんで、今後の記述は「雌」として書き進むことにするが、今までの分はシカトして修正しませんので、どうぞご理解をいただきますように。しかしメスなのなら、貧相な「宿六」つう名前は無かったなあ。せめて、「ヤド吉」とか「宿太郎」つうような名前にしていたら、深川は「辰巳芸者の小粋な姐さん風」で通ったのに、惜しい。


←前々回に掲載した宿替わり瞬間写真を再録。この写真の「長い(雌が卵を付けるため)腹肢」を見て、「あれ?」と思ったのが、性別疑いのキッカケに。(04.10.01撮)

↑ひやー、散々苦労してやっと一枚撮れたよ、ヤド六の生殖孔。
何度も見たのだが、かつては確かに出て無かったのだがなあ…。
←100枚以上撮った写真は、そのほとんどがピンボケや角度不適。この写真などはまだマシな方であるが、肝腎の生殖孔が写っていない。(04.12.23撮)

←ようやく姐さんだということが確認され、永年にわたる誤解を晴らせたヤド六。今後の展開はいかに。(05.01.19撮)
←ヤド舎の左隣にはメダカ水槽がある。水草が繁茂しているので、そちら側のガラス面は緑に色づく。オカヤドカリは緑色の環境を好むようなので、ヤド六も落ち着くのであろうか、その隅で和んでいることが多い。(05.01.19撮)

↓「ウチの飼い主は、人の意匠がされている製品を嫌うもんで、
ペイント貝殻はおろか、隠れ家さえ買ってはくれない。
まあいいや仕方ない、自分で作るもんね、隠れ家」(05.01.14撮)
2005/05/05 (Thu)

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