おかやどかりの飼育
37話
猛暑のお散歩
↑カメラ目線なのか、ガン飛ばしなのか真意不明。
(06.08.14撮)
いやいや今年の夏も暑い。毎度のことだが大阪はとくに酷い。ふつう、風のある日はいくぶん涼しく感じるはずなのだけど、なんか大汗をかいた運動部員がギッシリいる狭いコンクリの部室で扇風機に吹かれているようなもんで、風が余計に暑苦しく感じるくらいだ。昭和の、夏らしい夏が戻ってきたのは歓迎だが、大阪のこの暑さは昔のそれとはちょっと違う。その不快さたるや異常だ。おかげでこちらは例のごとく、金魚や海ヤド水槽のケアでてんやわんやしている。だいたいが水道の水も30℃近くになるので、無駄な抵抗といえばそうなんだけど。そのあおりを受けて、これも例のごとく、陸ヤド舎は放ったらかしとなる。水槽のフタは春からアルミのパンチ板モードだし、天然海綿に水差しをして乾燥には気をつけてやっているが、それ以上の手は回らない。しかしそこはさすがに元「夏の虫」。毎日、好き勝手に昼寝をしたり、天井にぶら下がったりして、まあまあ快適に過ごしているようだ。
そうこうしているうちに盆も過ぎてしまった。ヤド六は盆の墓参りの時にでていたテキヤから購入したので、これでわが家での暮らしも8年目に突入したということになる。じんわりと大きくなっては来ているが、こいつのこの暢気な生き様、いったい何なんだ。長い時間をかけて成長することが、種の保存にどんなメリットをもたらすというのか。なんか単にムダなだけなような気もするが、どうもわからん。ま、いいか。
今年は春に一か月以上の脱皮潜り(4.15〜5.24)をしたので、このところは時折二日間程度のお遊び潜りをするだけで、日中、おおむねは流木の陰で寝ているか、ぼんやりしている。新顔も招いてないし、水槽のレイアウトもそのままだし、宿替えしたわけでもないし、急にデカクなったわけでもないので、ネタなど見当たらないのだが、そろそろ更新しとかないと次が余計に苦しくなるからと、金魚と海ヤドのメンテの間隙を突いて、陸ヤド舎天日殺菌の名目で、ちょっとチョッカイを出してみることにした。エアコン排気の熱が溜まったベランダは炎熱地獄で、ヤド六にとっちゃ迷惑以外の何物でもないのだが、そこは企画モノの撮影つうことでちと辛抱しておくれ。
↑ガジュマル養生用プランターにヤド六を移しといて、
あたしはセッセとヤド舎のメンテ。
ん?今日はいやに神妙だな。いつも一目散に逃げようとするのに。
(06.08.14撮)
ヤド舎はあいかわらずの小さなデスクボーイ水槽に最小限の砂仕様なのだが、五十肩の痛みが酷いわたしでも、難なく丸ごと移動ができるのはありがたい。まあ、ひとり住まいなんだし、狭いのは我慢してもらうしかない。カラダの比率を拡大してみれば、わがボロ住戸に暑苦しいのが4人住んでいることを思えば、お前さんのヤド舎のほうがよほど環境はエエんだ。
太陽のカーッ!と照り付けるベランダにヤド舎ごと運び出し、砂や流木、貝殻などを天日に干すのだけれど、住人在住のママでは作業の邪魔である。そこで小さなバケツに水をいれて行水タライを作り、とりあえずヤド六はそちらに入って暑さを凌いでいただく。で、わたしは、その間直射日光を浴びながら汗ダラダラで水槽内容物のメンテをし、ひと段落ついたところで、養生ガジュマルプランターでも散策していただこうという段取りだ。
以前から暖かいときには同じことをやってきたけれど、プランターに移してやるとすぐ脱走しようと動き回り、目を離すわけにはいかなかったので、こちらの作業が片付いてからにしていたのだが、ヤド六、今回はいやに落ち着いている。齡を重ねてきて腹が座ってきたということか。厳しい直射日光も、ガジュマルの葉に適度に遮られて木漏れ日を作っており、なかなか快適そうだ。簡単に超えられるフチからも逃げようともせず、プランター内だけをゆっくりウロウロしている。ひとしきり、植物や土をつまんで口に運んでみたり、ガジュマルに登ってみたりしてから、そのうち、まるでヤド舎の「お気に入り」の場所にいるときのように、うたた寝体勢に。おかげで、撮影用にヤラセで木に登らせたりする必要もなく、わたしも目を離して流しへ行き別の作業をすることができた。よしよし、オトナになったのう。ま、単にコイツが優柔不断なだけかもしれないが。
メンテ作業を終え、こちらの禿頭が直射日光に堪えられなくなった頃合いを見て、ヤド舎を室内へ戻す。構いついでだからと、散策の締めくくりに海ヤド銭湯に入っていただいて、ヤド六の慌ただしい夏の一日は終わり。ご苦労さん。夜はのんびりメシでも喰ってくれ。
↑あたりの土壌や植物を摘み食いしながら、ゆっくりと散策。
まったく年寄り臭いヤドカリだ。
(06.08.14撮)
↑なに考えてんだか。何も考えてないってか。
(06.08.14撮)
↑やたら触角だけをせわしく動かすが、カラダは微動だにしない。
ああ、動く気はないんだなと思ったころに、急に動き出したりする。
(06.08.14撮)
↑おい、そっちの植物はヨメの管轄だから、喰うのはマズイぞ。
(06.08.14撮)
こんなに愚鈍で臆病で優柔不断で親の心子不知な生き物もなかなかいないと思うんだが、かといって昆虫の飼育にはない味わいがある。
なんでかというと、ヤドカリとは「目が合う」んだな、こいつが。カブトムシやカミキリや蝶と睨みあっても、ちょっと目が合うという感じはしない。まだいくぶんそれらしき目合いの感触が無きにしもあらずのトンボでも、果たしてこちらの目を真っ直ぐ見ているかどうかは疑わしい。ヤドカリも同じ複眼なんだけれどね。じっと睨んでいると、そのままじんわり後退していったりして。ワシはクマか?
←大阪の夏の南向きベランダはあまりにも過酷である。なんで、散策の前に、真水バケツの行水で水分補給していただく。しかしこのバケツには、今までにさまざまのイヤな思い出が染み付いていると見えて、必死の脱走を試みる。行水の間に、飼い主はヤド舎の流木や砂の天日干しなどを済ませる。もうこっちは汗ダクダク。
(06.08.14撮・以下同)
←毎度のことだが、ひとしきり脱走の可能性をさぐり、こらアカンわ、と納得すると、水に浸からない場所を選んで、ショボーンと佇む。飼い主のベランダと流しを行ったり来たりする作業が終わるまで、しばらく待っとけ、つうの。
←さて、ヤド六から目を離さなければならない作業が終わった。ではガジュマル養生プランターで、ごゆっくりどーぞ。しかし、フチから降りようとしないのは珍しいな。
↑30分ほど地表をウロウロしたあと、自らガジュマルに登りだした。
前のときは、ヤラセで木に掴まらせたんだけれどなあ。偉い!
←「しけたガジュマルやなあ」
って、お前さんが毎日坊主にしてるんやないか!
新芽を出して枝を伸ばすたびに、チョキンと切られてヤド舎の一輪挿しにされてしまう、哀れなガジュマル。
←途中で、登るのを中断し、ガジュマルの葉を摘み食い。
頼むから、こっちのを喰うのはやめてくれ! 食事はヤド舎で。
←そっちに進むと、枝が細いんで、落ちまっせ〜
↑ああ、ちょっと疲れた。休もう。
枝に貝殻を寄りかからせて、5分休憩の図。
↑また動き出した。この枝の先まで進んだところで枝がしなり、そのまま地上にご帰還。
しかし飼い主の方が暑さに堪えられなくなってきたので、このあたりでベランダ散策は終わり。
ふたたびヤド舎を室内に戻しセッテイングする間、ヤド六は銭湯(海ヤド水槽)行きに。
↑「いやはや、今日はあっちゃこっちゃと大変な一日でしてなあ。あんたイソギンはん?ココ、ええ湯でんな〜」
「いんや、わたしらには毎日暑すぎて、もう死にかけでんねん。貧乏な飼い主に捕まったら、かないまへんわ」
(06.08.14撮)
実のところ、当オカヤドカリ欄を継続更新してゆくのが非常に気が重いことになって来とるんです。当欄開始時、すでにとれもろさんの「見聞録」、yamさんの「やど研」(閉鎖)など、飼い方を記したサイトが存在していたので、重複は不要と、わたしは「観察記」というスタンスで勝手気壗に遊ばせていただくことにしたんですが、昨今の商業化状況に及ぶにいたり、もはやテキトーにふざけながら面白おかしくは書けなくなってしまいました。愉しい読み物にしようと思えば、そりゃ冗談も交えたいところなんすが、当欄も結構永らく続けているもんで、検索エンジンのアタマの方に登場してくる場合も多く、イキナリ記事のド真ん中に跳んでこられてマジメに捉えて貰っても拙い。冗談を真に受けて殺してしまう飼い主の哀しみなどはともかくも、その仕打ちに直面する当のオカヤドカリ生体たちが哀れで。わたしとしましては、こないだ娘の本棚でみかけた『カッパの飼い方』つうマンガのような、ふざけた『ヤド六劇場』にしたいんですが、今の混沌とした状況ではもはやできまへん。
最初のうちは、生体入手の機会も少なく、非常に地味なイキモノだったので、オカヤド飼育のお仲間が増えないかなあ、増えたら良いなあとも思い、飼い方の提案やオカヤド飼育の啓蒙に近いようなノリで作った時期もあったんすが、もはやあーた。だいたいがわたしの記述は当初から、「わしゃ、こうやっとるよ」で、「あなた、こうやりなさいね」と言うものでは無いのでありまして。まあオカヤドなんぞを飼う、もの好きなどそんなにいなかったからいい加減でも済んでたんですな。しかし現在ではビギナー飼育者への影響と誤解の発生などを考慮すると、マンネリ打破のためのアホが書きにくくなったのであります。んだば、もう止めるのか。う〜ん、止めまへん。なぜなら、まだ「ヤド六はウチに居る」からであります。
だからして、うだうだとぼやいているわけでありますが、ここであらためてお願いです。「飼い方」については、ここにはすべて正しいことが書いてあると思わないように。まずは疑ってかかってください。記事中たとえヤド六が温泉に浸かっていても、日焼けサロンで焼いていても、サウナに入っていても、フグ肝をを美味そうに食していても、かき氷に潜って脱皮していても、通勤電車に乗っていても、あなたの常識に照らされまして、決して相手にされませんように。また、オカヤドカリのような生き物が、気持ち良くうたた寝したり、偏屈だったり、優柔不断であったりするような馬鹿な記述に対しても、スルーしてください。そのあたりに関しては決して質問などされないようにお願いします。ちゃんとした飼育の仕方に関しては、拙サイト
「LINKS」
欄にて紹介させていただいている素晴らしいサイトで、まずしっかりとお勉強ください。
最近は、大勢の飼育者の皆さんが、ブログてなお気楽ツールでどんどん「飼い方」「観察記」のページなどを公開なさっているワケですが、拝見していますと、おおむねの方々は当初の物凄いイキオイはどこへやら、徐々にフェードアウトなさっているご様子で。それ、よくわかります。だってたかがヤドカリ、書くことなんてそうそう無いんですわ。まったくわたしも同じなんですが、されど、とにもかくにもヤド六がくたばるまでは、ひねくれつつ強引に『ヤド六劇場』を続けます。なんで、上記のような危険な記述にはくれぐれもご注意を。ま、こんなこと書いてるとヤド六、案外明日コロッと逝ったりして終わってしまいそうですけどね。なにせ偏屈だし。
今年の初脱皮も無事終了
←昨年11月にひと月潜ったというに、4月15日にも脱皮潜り。で、5月24日に出て来たところを撮影。
砂だらけのまま塩土を食べる。脱皮はここ2,3年はずっと年一ペースだったのに、いったいどうした。特にエエもんを食べさせた憶えはないんだが。
(06.05.24撮)
←塩土の次はニボシの頭、と。砂ん中ではテメエの脱皮殻しか喰ってなかったから、腹が減ってたまらん。でも、いつも第二脚のつま先だけ食い残すくせに。
←お。焼豚にワカメか。こっちも喰っとこう。ひたすら喰ってばっかりで、なかなか砂を落とさないので、とうとう飼い主に水場に落とされてしまいましたとさ。
銭湯にて
↑ホンヤドとイソヨコがいるつうのに、アウト・オブ・眼中。
(06.07.12撮)
←人間の世界でもプールへのイキナリ飛び込みは禁止されていますんで、ヤド六にも岩の上から、そろそろと入ってもらいます。
(06.07.12撮・以下同)
←海ヤドたちにとっては災難なんだが、まあ似たような連中なので、どちらもあまり相手にしていないように思われ。
←貝殻をカッポン!カッポン!して、内側に海水を取り込む。
「こいつ、バカか?」と、それを見ているホシゾラホンヤドカリ。
←海底をお散歩する。でかいやつが来たなあ、とヤド六を見上げるホンヤドカリ。あわてて逃げようともしないので、たいがいは踏んづけられてしまう。
←海ヤド銭湯から、陸ヤド舎にご帰還。湯上がりは前甲がしっとり濡れていい感じ。
↑海ヤド水槽から戻ると、さかんに流木から水を吸い上げたり、
水場に降りて真水を貝殻のなかに貯め込んだりする。
先程貝殻に入れた海水と混ぜてPH調節をしているのかもしれない。
(06.07.12撮)
↓「あたしゃ、ストレスとは無縁のヤドカリなんだ」
…ホンマかいな?
2006/08/23 (Wed)
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