おかやどかりの飼育

40話
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長生きの秘訣

↑姐さん、なんかノンビリしてはって宜しおまんな〜 で、あんた何考えてんの?
「ん〜、定年後の暮らしのこととか…」 アホ!
(07.06.22撮)


 さて、ことしの夏もそろそろ終わりだ。ということは、ヤド六がわが家にやって来てからまる9年目のトシに入ったということになる。

 狭いデスクボーイ水槽のヤド舎は、あいかわらずカビ臭を放ち、羽虫が飛び回っているありさまだが、姐さんはマイペースに日々を過ごしている。ここ数年、オカヤドカリの飼育が、世間の、というか、一部の商売人に注目されたおかげで、以前よりずいぶんポピュラーな飼育生物になってきた感があり、飼育に関する情報も、ネット上を主に、カンタンにそして大量に得られるようになった。中には「へえ、そうなんや!」という新知識などもあり、ありがたい世の中になったもんだと感謝しているが、そういうありがたい情報というのは、主に自然界におけるオカヤドカリの生態情報や近隣種の甲殻類や海棲生物の飼育情報がほとんどで、そういうものが得られるたびに、できる範囲で陸ヤド舎に応用して環境を整えてきたつもりだ。

 しかし、ことオカヤドカリの「飼い方」となると、こうしなさい、こうしてはいけない、などの記述が氾濫してきたものの、なんだか煩雑になっただけで、9年前に得られた情報からたいして進歩しているとは思えない。最近得られる詳細な「飼い方情報」は、飼育者の質問に対する回答の積み重ねから、なんとなく予定調和を得てきたようなところがあり、生体の本質から逸脱して、飼育者の都合優先に作り上げられてきた感が強い。この成り立ち方がクセものだと思うのだ。わたしも質問を受ける立場になることがあるけれど、問題の個体に関する状況が十分に把握できないまま回答することになるので、どうしても当たり障りのない返事をすることになる。こういう、あいまいな情報の積み重ねがマニュアル化されて広まってきたのが現状なので、真に受けてそのまま自分ちのヤドカリに適用するのは危険だと思う。

 そんな状況に加担して、ますます煩雑化に拍車をかけてもなんなので、わたしはあまり親切に回答しないようにしているのだけれど、質問そのものが、「ヤドカリが○○になりました!どうしたら良いでしょう?」なんて漠然としたものがほとんどなのも大きな問題で、「アンタ、生き物のことなのにパソコンのサポセンと同じようにはいきまへんで」という…(笑)。まあ、パソコンのサポセンでも、「ちょっと待ってくださいよ、まずあなたのPCのOSとバージョンは?」てなところから始めて、この先の延々膨大なやりとりの覚悟を決めてかかるのだろうけど。そんでもって情報不足でよくわからないけれど大まかなところはメモリ不足が原因なのであろう、と判断すれば、「とりあえずDRAMを増設してみましょう」てなところで時間の節約をはかる。質問者が自分の抱えている問題に関して詳細な情報を開示しないから、答えるほうもアバウトな回答でお茶を濁すことになるのだが、これでは問題の本質は解決できない場合が多いのだ。

 そして困ったことに、問題に関して「詳細な情報を開示できる」人つうのは、実は質問などしなくても自分で解決できてしまう人なのですな。ヤドカリも同様で、情報不足にもかかわらず回答してあげようとすると、「とりあえずメモリ増設」のような答え方をせざるを得ない。そういう回答で納得してしまう人もヘンなのだけど、現在ちまたに流れている飼育情報というのは、こういうのが何となく纏まったものがほとんどなので、あまり有用とは思えないのだ。生き物というのは、個々の飼育環境の違いもさることながら、個体自体が抱えている病気や遺伝的な素質なども加味されて問題を生じることが多いから、パソコンのようにトラブルシューティングをマニュアル化できない。上記のような質問を平気で投げかけてくる人は、その点でまず大いなる勘違いをしていると思う。自分の飼っている個体をよく見て、自分で考えられる対策をとってみるのが一番だ。それでよしんば殺してしまっても、その経験を他の個体の飼育に生かせばよい。だって、サポセンが知りえないその人特有の、同じ飼育環境で生き死にしているヤドカリたちなのだから。大きな声では言えないけれど、わたしは『ヤドカリはオモチャじゃない!』とはよう言わん。正直どこかにちょっとオモチャだと思っているフシがあるからだ(;´Д`)。でも、こちらはハッキリ言える。『ヤドカリは機械じゃない!』ヽ(`Д´)ノ とはね。



↑5月30日、46日間の潜りを終えて地表に出てきたヤド六。
今回もまた白浜ケイ砂の小ロフトを選択した。
(07.05.30撮)


 さて、長生きさせる秘訣とは。ぶっちゃけ、「それを言っちゃアお終いだよ」と、寅さんなら言うかもしれないが、たぶん、「長生きする素質を持った個体」を飼う、に尽きると思う。ヤド六は今のところまだ生きているが、飼育者のわたしが特別にケアしてきたことなど無い。エサをやり、水を与え、冬季にヒーターをオンにするだけだ。それでも毎年一回か二回の脱皮をソツなくこなし、今まで一度も弱ったことはなく、裸で歩いたことも、砂上脱皮も一度もない。脱皮期間に長短はあるが、一度たりとも不完全な状態で砂から出てきたことがない。全回、脚先や触角の先まで完璧な脱皮である。ズボラな飼い主ゆえ、大概、砂もカビとフンだらけなのだが、そんなことはたいして問題にしていないように思える。
 
 エサにしても、基本はわたしのオカズのお裾分けだから、食品添加物や保存料含有食品など、てんこ盛りに喰っている。カップヌードルに入っているエビやタマゴ、コンビニ弁当の残り、漬け物、腐りかけの魚や肉、激辛のスナック菓子なども餌場に入る。また、アルカロイドを含む植物も結構与えている。ホウレンソウの茎やジャガイモの芽、ヤマイモの皮、水草のドラセナなども入れたことがある。旨そうに喰うものもあれば見向きもしないものもあるが、基本的に食べる食べないはヤド六まかせにしている。でも、いまだ死んではいない。

 ヤド六がちっぽけだった最初の頃、脱皮の床材はサンゴ砂(粗目)だった。当時の自分の貝殻の経ほどもある大きな砂粒だったけれど、それでも砂上脱皮を良しとしない性分のようで、さんざん苦労してなんとか潜っては健気に脱皮していた。海水容器の必要性に関してもギモンに思う。最近何年かこそ、週一くらいの割合で海ヤド水槽に通うようになったけれど、始めの数年は一度も海水に触れさせたことがなかった。塩土やイカ甲を与えてはいたが、海水ナシで元気に生きてきた。

 そして「ストレス」。これ、便利なので、わたしも質問の回答によく使う言葉なのだけれど、実のところ、ヒト様じゃあるまいし「たかが甲殻類のヤドカリが抱くストレスっていったいなんなんじゃい?」と思っているのが本音だ。ヤドカリが臆病なのは、身を守るために遺伝子にプログラムされている行動なのであって、しっかりポジティブな性質なのだと思う。だから脅かしたりしても、死につながるストレスにはなり得ないのではないか(ただ脱皮中に刺激を与えるのは、脱皮停止命令のスイッチを入れることになるようなので別)。ぶっちゃけ、殻から離脱してしまったのはストレスのせい、ハンドリングのし過ぎによるストレス死、なんて言うのはサポセン(笑)の方便で、本当のところは具体的な要因による、虚弱、栄養失調、外傷、病気、てなところでしょうよ。

 複数匹を同じケースで飼育していると、互いの干渉や感染などで、これらの災難に遭遇する可能性はウンと増えると思う。これらをストレスと呼んでしまうのなら、単独飼育しているヤド六に関してはあまり気にする必要がない。しかし心配なのは、種の保存のプログラムに反して、繁殖の機会を完全に奪ってしまっていることで、これこそ「生物として最大のストレス」を与えているに違いないのだ。大潮の夜のヤド六の大暴れは、単独飼育に対しての無言の抵抗メッセージに聞こえてくる。でもこのストレスは、死につながるものではないようだ。現にヤド六はメゲずにまだ生きている。



↑今回は長潜りだったので十分元気だ。
出現当日だがさっそく海ヤド銭湯行きで砂落とし。
(07.05.30撮)


 つまるところ、ヤド六は、病気に対する抵抗力と生存し続けるための生命力を素質としてたまたま備えている個体だった、と言うに過ぎないと思う。飼い方がどうこうという問題じゃないのだ。だから、購入した個体すべてを長く生かそうなどと思わないこと。採取からキープ、配送されて店頭にお目見えし、飼い主の家にやってくるまでの流通経路で、さまざま困難を経てきているわけだから、虚弱、栄養失調、外傷、病気などの問題を抱えた個体がほとんどだと思ったほうが良い。一度にたくさん買ったら、どんどん脱落して行く個体のさまをよく観察しつつ、それらの死は、最後まで残る強い個体の長期飼育のための経験を得ているのだ、と割りきったほうが吉である。ポイントは、数が減ったからといって同じ水槽に安易に追加しないこと。追加個体が別種の細菌や病原を運んでくる可能性があるからだ。そうして時間をかけ、1グループに一匹〜ニ匹の「鉄ヤド」を選別するのがよろし。

 個々の飼育者が提供できるヤド舎環境というのも千差万別なので、単に生命力のある個体を、というのではなく、「あなたのヤド舎での飼い方」に適応できる個体を、飼いながら篩にかけてゆく、ということだ。そうしてたまたま阪神タイガースのカネモトのような「鉄ヤド」個体を得られれば万万歳だけど、10匹も飼えば、カネモトは無理でもトリ谷やクボタくらいの丈夫な若手には十分遭遇できると思うよ。

 で、ここからはわたしの勝手な理想なんだけれど、そうして選別した1グループに一匹の「鉄ヤド」を、おのおの単独飼育する。ちゃんとした脱皮床などの環境が整っていればケースは狭くても構わない。そして別に、海水浴場や遊び場をたんまり備えた広くてゴージャスな「テーマパーク水槽」をしつらえておいて、飼い主がぼんやり眺めていられるときや、大潮の日には、そちらに短期全員集合させ、その間に個室をメンテしてしまう。ハレの一日をワイワイと十分堪能させたら、またおのおのの個室に戻って日常生活や脱皮にいそしんでいただく。この飼い方が長生きにはいちばんだと思うなあ。
 
 今は無事息災なヤド六も、何度目かの脱皮で、たまたまチョンボして死ぬこともあるだろうし、新種のヤドカニインフルエンザなんてものに見舞われないとも限らないし、突然出たゴキブリに家人が逆上しヤド舎方向へのゴキジェット噴射で一巻の終わり、てなことになるかもしれない。今後どれだけ生きられるかは、ま、当人の運しだいでしょう。


↑本水槽の金魚たちが玉砕して、60cm水槽が空いた。
新たな住人が決定するまで、ヤド六の仮設お遊びスペースに。
(07.08.27撮)


↑なんつうか、“硬い・やわらか戦車”といふやうな風情だなあ…
(07.07.05撮)

本年度第一回目の脱皮完了
↑今年初回の脱皮潜りは4月15日〜5月30日の46日間。
近年のヤド六の場合、年1〜2回、40〜50日というペースですな。
(07.05.30撮)

←春のお目覚め。出て来てイキナリ砂だらけのカラダでウロウロされると、せっかく静かできれいだったヤド舎がイッキにドロドロになる。でもまあ、無事でなによりだ。しかしウチに来てから通算何度目の脱皮になるんだろう。昔からの手帳を全部調べりゃ確かな回数がわかるんだが、それは面倒な。だいたいのところで17回目くらいかなあ。
(07.05.30撮・以下撮影日同じ)
←超狭いスペースにもかかわらず、またも小ロフトでの脱皮を選んだ。やはりヤド六はサンゴ砂よりも、こちらの海砂がお気に入りのようだ。しかしこの白浜ケイ砂はもう交換用ストックがない。毎回たくさん溢すもんだから量も減り、潜っても貝殻が見えそうなくらいしか入っていないのだが…それでもこちらに器用に潜って、ちゃんと長期の脱皮を終えてくる。サポセン要員としては「砂が少なすぎます!」なんて答えているくせに、自分ちはこのありさまだ(笑)。
←水槽を汚されるのがイヤなんで、砂出当日にもかかわらず、早速海ヤド銭湯に浸かってもらう。サポセン要員としては「脱皮直後に刺激をあたえることは避けましょう!」なんて答えているくせに、自分ちはこのありさまだ(笑)。でも、46日間も潜っていたことと、当日の生体の状態を見れば、即海水ドボン!でも問題ないことがわかるんですよ。実物の状況が不明な、文章での質問にはそう答えておくのが無難ということなのであります。

↑海ヤド水槽の海底を散歩する。
「ちょっと潜ってる間にここ、住人が減ったなあ…」
(07.05.30撮)
↑銭湯にて。宿貝パッコン!パッコン!で海水を取り込む。
「肉体疲労時のミネラル補給に、ファイト一発、人工海水M!」
(07.05.30撮)

←るんるん調子に乗って散歩してると、アンタもお吟婆さんに捕まりまっせ。
(07.05.30撮・以下撮影日同じ)
←ほら、言わんこっちゃない捕まった。

お吟婆:「第二触角、ゲ〜ット!!」
ヤド六:「う、なんやこいつ、こら離さんか婆あ!」
お吟婆:「お前さんはイソヨコより力が強いね、もっと触手を動員しよう」
ヤド六:「こりゃイカン。バックバック、ひとまず退却〜」
←で、銭湯終わり。結局は、また砂まみれになるんだよなあ。


↑大潮の日。狭い水槽をウロウロと何往復もする。
(07.06.30撮)

もう大概、見飽きたようなスナップばっかりですが(^_^;)
↑「今回が40話だって?、あたし一匹で一体どこまで引っ張るんや」
あんたがしぶといもんやさかい…もうこっちはとっくにネタ切れでんがな。
(07.06.30撮)

←「いくらネタ切れや言うたかて、ウンコ風景なんか撮影してどないするねん!」
いや、チラチラ見えてた第5脚を撮りたいんだけど、あんた、カメラ向けたら引っ込めてしもたさかい…。
(07.06.09撮)
←流木陰のお気に入りの場所にてしばしの休憩。
(07.06.21撮)
←ヤド六の顔、いま何かと話題になっとる朝青龍関に似てるような気がするのだが、どうか。
(07.06.30撮)
←ベリ、バリ、ボリ、と流木をひっぺがしては、旨そうに喰ってます。
(07.06.30撮)

↑「何年か前に書いとった“連れあい”の件はいったいどうなったんや?」
ん〜、訴状を見ていないのでコメントできません。
(07.06.30撮)

←水を飲みに来たのだが、プラケに脚を滑らし、はまりかけて焦るヤド六。どんくさ。
(07.06.30撮)
←ハサミもずいぶん立派になったもんだ。ちょっとしたニッパである。もはや掌に載せて遊ぶのはヤバイなあ。ブチッ!→血ドバドバ、といかれそう。
(07.06.30撮)
←「ん?これは忍びの気配、曲者ぞ……伴の者、手槍を持てい!」
(07.06.30撮)
←陸ヤドの「遠い目」って、好きだなあ…(飼い主)
(07.07.18撮)
←新しいサザエが入荷。どーせ替わらんくせに、検査だけは入念にするんだよなあ。
(07.07.21撮)
←カトルボーンは吸湿するのでヤド舎では結構扱いにくい。なので試しに、塩土コーナーにインコ用「ボレー粉」(カキガラ)を入れてみた。少しは喰っているようだが、カトルボーンの代用になるかどうかは、まだわからない。
(07.07.05撮)
←今日は「土用の丑」。なもんで、オッサンの鰻蒲焼をお裾分けしてやる。ウメー!
(07.07.31撮)


↑もう一度訊く。あんた、ぼお〜っとして何考えてんの?
「満月や 宿借どもの 夢の宴…」宿六
(07.06.22撮)

ヤド六専用仮設運動場オープン!
↑「広いのはええけんど、殺風景なだけで全然落ち着かんのう」
いや、あくまで「仮」ですから…コインパーキングみたいなもんで。
(07.08.27撮)

←おひろい(金魚)が本水槽に引っ越して行き、空家となった旧海軍兵学校跡地(60cm水槽)の掃除が完了したので、日に一度くらい、わたしが見ていられるときにヤド六を移してここで遊ばせることにした。
(07.08.27撮・以下撮影日同じ)
←「住み慣れたわが家デスクボーイは落ち着くけど、天井が低くていかんわ。ここは高くていいなあ。オッサン、もっと高さのある流木を入れてんか!」
←「さて、ちょっくら水槽の隅々までチェックしてみようかな」
←水槽底には淡水が深さ1cmほど残っている。ひさしぶりに広い場所に来たので、ヤド六は流木の上から降りて目一杯探索(というか脱走の可能性を探る)したいようなのだが、何度、脚を浸けてみても躊躇して決して流木から降りない。これが海水ならどんどん入って行くのだが…。
←「う〜ん、ヨソも見に行きたいが、回りは水や。アカン。あたしのダーイ嫌いな水やがな!」
あのう、深さ1cmくらいしか入ってないんですけど…
←流木から降りられないのは、水槽底がガラスなので滑るせいかもしれない。底砂などの足がかりがあれば降りるのかも。全部の陸ヤドには適用できないだろうけど、ことヤド六に関しては、水堀さえ巡らせておけば深い水槽やフタはいらんなあ。それにしても、えらい真水嫌いのヤドカリである。


↑「仮設遊び場もええけど、懸案の母屋のリニューアルはどないなっとるねん!」
訴状を見ていないのでコメントはさし控えさせていただきます。
(07.08.27撮)

↓「オッサン、今回の題、“長生きの秘訣”やて? まあ偉そうなタイトル勝手に付けくさって…
いったい、誰のおかげやと思うてるねん!」 す、すんません…
(07.08.27撮)
2007/08/31 (Fri)

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