偏屈&貧乏な飼い主に囚われ、孤独&不遇な生き様を送っている、やもめのオカヤドカリ「宿六」だが、飼い主の事情によりエアコンもロクに入らなかったこの夏の猛暑をやり過ごし、金魚や海のヤドカリのあおりで放ったらかしにされがちだったにもかかわらず、マイペース。いたって息災な日々を過ごしてきた。 そんなヤド六が、この夏密かな愉しみにしていたのが、飼い主に散々話しかけられていた「嫁取り」の一件だ。この一点を心の支えに、ずっと砂にも潜らずに待ち続けていたのだが、もはや夏も終わり。それでもまだ僅かな望みをいだいていたところ、先日「ヤド六、すまん。また来年な」の連れないヒトコトを通告されてしまった。ショボーン。 しかしまあ、飼い主の言い分を聞いてみると、それなりに嫁探しはしたようなのだ。街へ出るたび、時間があれば百貨店の屋上やペットショップを覗いたようだし、天神橋筋で売られている同類もじっくり見聞してきたらしい。この偏屈オヤジ、「ヤド六の嫁たる雌は、色白で健康で気立てが良いウチナンチューで、たっぷりとした肉置きでならねばならない。またヤド六の大きさよりは少々控えめでなければならず、雄にたて突くようなお転婆娘は我が家の敷居を通さず。一匹のみ購入。しかも五百円以下、貝殻数個オマケ付き」などと、無茶な条件を並べているものだから、そんなお嬢さん、いまどき大阪の町に棲息しているはずがない。 オヤジの探しているのは、テキヤ売り(露天商)のオカヤドカリである。上記の無茶な条件を満たすためには、テキヤと談笑しつつタライの前にしゃがみ込んで一匹ずつ摘みあげ、いじくり回しつつ種別雌雄健康容姿じっくり見定めたうえ、笑顔の値引き&サービス交渉に持ち込まねばならない。京都や神戸の場末商店街や縁日などもうろついたが、結局一軒も出会えなかったようだ。まあ、もはやテキヤ売り自体が存在しているかどうかも怪しいのだが。 ところが偏屈オヤジ、ある時期から突然、嫁探しをピタリと止めてしまった。なんでも近所の雑貨屋で、極めて「不愉快な玩具」を見てしまったという。頗るご立腹で、いまだ思いだすのも虫酸が走るらしく、以来ヤドカリが売っていそうなところにも近づこうとしない。あのパック詰め。まるでオマケみたいなものではないか。ひとたび見てしまえば、かわいそうで買って救済しないわけにはいかないが、法外な価格に、先立つものもなし。あれに比べりゃ、店のエアコン直下で腰まで水に浸かりながら、震えショボクレつつ早く買われるのを待っている某所の娘さんのほうが、まだマシだと言う(それでも嫁にはとらんらしいが)。そんな理不尽な癇癪のとばっちりを受けて、この夏もヤド六の嫁取りの夢は儚く潰えたのだった。しかし、賢明な宿六氏はというと、「このままでは、ついに婚期を逃してしまう!」などと焦ったりはしていないようで…。今日も隣に並んだ水槽のメダカたちが気持ち良さそうに泳ぐさまをぼんやり眺めつつ、午睡を愉しんでいるくらいだから。 さて以前書いた「オカヤドカリとのつきあい方」からはや一年半余りが過ぎ、ヤド六の素行も環境も少しずつ変わってきた。なもんで今回は、「最近のヤド六の飼われ方」つうことで、再びの中間報告をしておこう。