◯ 仲夏の兼題は「初なすび」「山開き」「海亀」です。
【初なすび】
初なすの棘に目覚める朝支度 天天天天地地人 風写
植ゑてただ待つ不精にも初なすび 天天天地 菫女
初茄子嫁がさっさと汁にする 天天地 好喜
茄子漬や朝餉に旬の藍あふる 天天 逆月
小言聴く猫のあくびや初茄子 天地地人 磨角
ひと塩でまた一段の初なすび 天地 雨不埒
初茄子や藍を愛でては藍を食ふ 天地 逆月
平仮名のごとき初茄子まだ捥がず 天人 仲春
一つづつ捥ぐたのしさの初なすび 天 魯斗
ぬか漬けやるり色美味し初なすび 天 山女
初茄子や頬ばりてじゅっと甘渋く 天 雪童
【山開き】
山開き靴に脂をくれてやり 天天地地人 酒倒
生き延びて一会できたる山開き 天天地地 仲春
時経ちて父の手を引く山開き 天天地人 雨不埒
仰ぎ見る天地鳴動山開き 天天地 雪童
奥山へ神は越されて山開き 天天人人人 風写
山開き尾根一すじに人の列 天地地人人人 愚多楽
ウエストンといふ響きが好きさ山開く 天 逆月
単独行だったあの日は開山祭 天 逆月
山開き胸いっぱいの森の精 天 愚多楽
山開き土曜の夜も二合まで 天 呑暮
陽を受けて雪渓光る山開き 天 磨角
山開き今年一番空仰ぐ 天 初音
山開きニュースに見入る老母の眼 天 好喜
【海亀】
海亀をそっと抱き上げ還る波 天天天天天天人人 磨角
海亀の声なく泣いていのち継ぐ 天天天地 魯斗
海亀の足跡たどる朝の浜 天天地人人人人 初音
海亀のゆるりと去りし岬かな 天天地人 見燗
海亀のまぶた重たき朝ぼらけ 天天地人 芝浜
海亀は多くを語らずミッドウェー 天地 喜の字
海亀の挿絵に挟む栞かな 天 呑暮
黙思してヒト裁きけり正覚坊 天 逆月
★魯斗さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【初なすび(初茄子)】
天・初なすの棘に目覚める朝支度
地・初茄子に地球の蒼さ満ちてをり
人・富士ながむベランダ育ち初茄子
隣家のばあちゃんが丹精した初茄子をいただいたばかりで、タイムリーでありました。
そして「棘、気~つけいやぁ」と言われたのもすっかり忘れてバンドエイドのお世話になっているのもタイムリー(笑)
せっかくの初茄子ですから、漬物系は避けたいなぁ、が作句と選句の基準になりました。
サッと焼き上げ、生姜醤油をくぐらせた茄子をごはんの上に載せ、搔っ込むのがわが家の流儀。歯触りというのか歯応えというのか、独特のあの感触が堪りません。
【山開き】
天・時経ちて父の手を引く山開き
地・山開き靴に脂をくれてやり
人・神主はなべて痩身山開き
子供のころ、オヤジに手を引かれたり、疲れると背負われたりして、山登りの洗礼を受け、魅了された結果、中学の頃から登山部に籍を置きました。が、高校の山岳部では武闘派的に鍛えられ、その反動か、大人になると山からすっかり遠ざかっていました。オヤジが古希の年、富士山に登りたいと言いだして、天の句どおり。懐かしい記憶を掘り起こしていただいた一句です。
地の「靴に脂をくれてやり」は、命を預ける道具、いや相棒でしょうか。愛情を感じました。いまの登山道具は進化しているのでしょうが、『油』じゃなく『脂』を注すことあるんでしょうか?やはり昔使った道具、あるいはオヤジから受け継いだ道具を手入れしながらいまも使い続けている感覚ですね。
【海亀】
天・海亀をそっと抱き上げ還る波
地・海亀は多くを語らずミッドウェー
人・海亀の足跡たどる朝の浜
やはり産卵シーンが多かった。もちろん私も。
では、産卵シーン以外でどんな光景が詠めるか?と考えて困ってしまったのが正直な話です。
皆さんの句を読むと、いろいろな切り口で詠まれていて勉強になりました。その中でも「ミッドウェー」。
産卵期と『海戦』が同じ頃で、当時の南方の海亀たちはさぞや迷惑をしたろうなぁ。あ!73年前だからあの頃の海亀、生きてるかもしれませんね。会期延長された国会に証人としてお呼びして、ぜひ、戦禍について『多くを語って』いただきたいもんです。『参考』にしてもらえなかった参考人の言葉より強いかもしれません。
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
「わかりやすく、サラリと詠む」
サラリと添えられた宗匠の言葉、これが実はプレッシャー大魔王のオソロシイささやきであったとは!つくり始めて「サラリ」と出ようとしたのですが、「ザラリ」になったり「ゾロリ」になったり、とうとう力尽きて「ゴロリ」。
【初なすび】
茄子って、可愛いと思いませんか?みなさんのは、美味しそうで、愛嬌があって、さすがの茄子です。どれも、終始、チンとおし黙っている女の子の感じでした。人間さまにひとこと言いたいけど、ま、いいや、黙っとこうっと、つぶやいている。
天 植ゑてただ待つ不精にも初なすび
地 小言聴く猫のあくびや初茄子
人 冨士ながむベランダ育ち初茄子
【山開き】
山靴を鳴らして、払暁の街を出てゆく息子を「気をつけてね」と機嫌よく送ってくれた母。天の、多分、このような眼差しを顔には表さず。そのことを知って、ある決心をした記憶が。
天 山開きニュースに見入る老母の眼
地 雲ほどけ気勢のあがる山開き
人 奥山へ神は越されて山開き
【海亀】
この悠揚たる生き物が置かれている窮状、人間が追い込んでしまった天地のありさまを考えるとき、詩には、どんな配慮がなされるべきなのでしょうか。生な政治言葉はちからを発揮しないようにも思えます。
天 海亀のゆるりと去りし岬かな
地 海亀の涙のあとの意味を知る
人 海亀を崇めて祀る村なりき
★小間使いさんから--------------------------------------------------
これから暑くなるという楽しくない予想ですが、
「歳時記の上」では、来月が晩夏です。
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