◯ 仲春の兼題は「花便り」「春の月」「土匂う」です。
【花便り】
うたた寝に聴くラジオより花便り 天天天地地人人人 芝浜
伝うべき言葉はありや花便り 天天地 出船
撮影に行きませんかと花便り 天天 仲春
発表の日に鳴る電話花だより 天地人人 愚多楽
逢いたくて逢えば別れの花便り 天地人人 雨不埒
風吹きて北へ北へと花だより 天地人 愚多楽
花便り末尾に添えて見舞う状 天地 風写
魚たちも浮かびて知るや春便り 天 見燗
幼子が背伸びして待つ花便り 天 青羽
花便り今年も迷う宴会日 天 雪童
美しき人の足あと花だより 天 青羽
【春の月】
春の月ひかりが溜まる山の上 天天天天地 山女
ひとり湯にとけ春の月空にとけ 天天天 出船
やはらかきことばぬる燗春の月 天天地 出船
春月やむかし渋谷に恋文屋 天天人 仲春
穏やかに過ぎし一週春の月 天地地 酒倒
春の月影は仲良き夫婦かな 天地人 好喜
春の月かかる三春の滝桜 天 風写
覚めやらず二度寝を誘う春の月 天 風写
【土匂う】
土匂う鳥を引き連れ耕うん機 天天天地 風写
土匂ふ明かき夕べに菜を刻む 天天天 凛語
爪の中野菜の種や土匂う 天天 雪童
口喧嘩苦き静寂に土匂う 天地地 好喜
くちびるをつい盗まれり土匂う 天地人 呑暮
五百機の音の間に間に土匂う 天人 青羽
軽トラの荷台を越えて土匂う 天人 音澄
木の洞に籠りて密か土匂う 天人 見燗
地野菜の規格外れや土匂う 天 音澄
土匂ふひとり遊びの洟たれ子 天 凛語
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
音澄選
【花便り】
・撮影に行きませんかと花便り 天
・出羽からの短き文の花便り 地
・予報士も鼻声で読む花便り 人
【春の月】
・春月やむかし渋谷に恋文屋 天
・蟲塚の文字真新し春の月 地
・春の月厠の隅を照らしおり 人
【土匂う】
・土匂ふひとり遊びの洟たれ子 天
・定型化されど青春土匂う 地
・地を叩くモグラ威しや土匂う 人
私の選句は以上でした。
「渋谷の恋文屋」は、昭和だなぁ。実感のない人には、春月との取り合わせがわからないかもしれないけれど、しっとりした空気感が漂って、私には間違いなく天の句でした。
春の月の句に、以下の句がありました。
・影ふたつ公園のブランコ春の月(ブランコは春の季語なので、季重り)
・春の月影は仲良き夫婦かな
・日が暮れてベンチの二人春の月
実は、この三句に関して「これはメモで、そこから俳句にするんじゃないのかな」と思いました。 その風景に物語があるのなら、その物語を句にするのが俳句なんだと考えているので、そのままではどうしても「俳趣」に欠ける気がしました。
月といえば、俳句では澄んだ秋空の月、名月ということになっていて、わざわざ「春の月」という場合は、大気中に水分が多くて朧に見える月です。ぼんやり暖かく、月は朧、もう「春の月」といえばそういう風景はこの季語が包括しているわけで、そこにハッとする物や情景をあわせるのが俳句の面白いところだと思っている。出てくる場面に「お!」という物語が見えませんでした。上下の句には、切れ字もありません。
だから、ハッとする、心に引っかかる
・春満月老父の跳ねるトランポリン
この句が私にはすごく面白かった。老父とトランポリンがいい。でも、自分の頭の中に景を描ききれなかった。取り合わせとしては、やられた!でしたが、詠んだ方には申しわけない。音澄の選句は、ときにへそ曲がりでしてね。
土匂うの句は、土から離れた日常を感じさせる句が多くて、都市生活者の句だなぁと感じました。私は偶然ですが、芋畑の近く、プロの農家のいる界隈に住んでいるので土の匂いは日常の範囲ですが、「本当の土と、土匂う」が俳句として付き過ぎないように詠めないままになってしまいました。
ではでは 次回は 晩春の句会
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