◯ 初春の兼題は「彼岸」「辛夷」「春の川」です。
【彼岸】
野仏に片手拝みの彼岸かな 天天天人 芝浜
老ひたれば床より参る春彼岸 天天人 菫女
大方はをんな遺りて彼岸講 天地地地 魯斗
駐輪場光の整列彼岸入り 天地地 好喜
彼岸過ぎ旅のあてなく地図を出す 天地人 音澄
半袖を出して仕舞ひて彼岸過ぎ 天地 逆月
和菓子屋の混み合ってる彼岸かな 天人 仲春
集ふ人みな丸顔の彼岸かな 天人 小波
ふるさとの言葉の中にゐる彼岸 天 小波
【辛夷】
ひと雨の静かに去りて辛夷咲く 天天天天人 魯斗
辛夷咲く坂に死にたる馬祀る 天天天地地 仲春
凝らし見て辛夷とぞ知る白き群れ 天地地地 菫女
煙る野に透ける白さや大辛夷 天地人 風写
辛夷咲く遠くで山を削る音 天地人 喜の字
風あそぶ無人の駅や花辛夷 天人人 逆月
祝米寿ことしも会えた花辛夷 天 雪童
【春の川】
陽のかけら乗せし流れの春の川 天天天地 魯斗
ボート部に新人のいる春の川 天地地地 音澄
子らの声そのまま連れて春の川 天地人人 好喜
口笛で古い恋歌春の川 天地人 磨角
喧嘩して春の小川に来てみれば 天地 小波
引退の力士がわたる春の川 天人 喜の字
紅灯を映して清ら春の川 天 芝浜
なつかしき明るさばかりの春の川 天 山女
春の川フランスパンのちぎれ雲 天 喜の字
影を濃く光をつよく春の川 天 仲春
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【彼岸】
天 野仏に片手拝みの彼岸かな
地 駐輪場光の整列彼岸入り
人 彼岸過ぎ旅のあてなく地図を出す
地。駐輪場って静かですよね。あれは異様な静けさです。銀輪たちは、人間がいないことを確認すると、必ずおしゃべりしているはずです。
【辛夷】
天 ひと雨の静かに去りて辛夷咲く
地 原稿ののらずに辛夷ばかり見て
人 何年も門開かぬ家の辛夷咲く
天は、中七がいいですね。ニューギニアの飛行場の滑走路をバイクで走っていたら、後方からゴジラのごとき迫力のスコールに襲われたことがあります。スコールは灰色の壁のようなもので、急速に追いつき、そしてあっという間に追い越して行きました。後はまた限りない静寂。人。開かずの家ありましたねえ、こういうの。今でもあります。
【春の川】
天 影を濃く光をつよく春の川
地 ボート部に新人のいる春の川
人 見下ろせば故郷分かつ春の河
地。なぜ新人と分かるのか。分かります。それは明確に分かります。じっとしていても、動き回っても。
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【彼岸】
・老ひたれば床より参る春彼岸 天
・大方はをんな遺りて彼岸講 地
・彼岸入り競馬新聞買う女 人
【辛夷】
・辛夷咲く坂に死にたる馬祀る 天
・辛夷咲く遠くで山を削る音 地
・ひと雨の静かに去りて辛夷咲く 人
【春の川】
・なつかしき明るさばかりの春の川 天
・口笛で古い恋歌春の川 地
・見下ろせば故郷分かつ春の河 人
私の選句は以上ですが、繰り返し読んでみると、「季節の説明」か「季語の解説」の句が多い気がしました。もっと遊んだ方がいいですよ、川柳にしないようにして。
それと、意表を突く「取り合わせ」の句が、意表を突き過ぎて、取り合わさっていなくて、バラバラになっている句、ありませんか? そう感じませんか? あ、巧いな、そういう取り合わせがあるか、あるいは、ははぁこの季語にそれを持ってきたか! と「やられた感」がないと辛い。
その一方、俳句でいう付き過ぎ。私の感覚では「彼岸」に、隣り合うように墓参や合掌は、その付き過ぎではないでしょうか。
17文字しかないから世界が狭くなりがちですが、もう少しのびのび遊んで話を広げて、ハタと膝を打つような「語りの展開」があると素敵です。
俳句ってこういう風にまとめると「それらしくなるぞ」と、そっちに向かうと、まさに月並み句になってしまいます。これ、極力避けた方がいいですよ、ホント。
またまた、自分のことを棚に上げての、つぶやきでした。
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