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院内のリハビリ施設が立派なのには驚いた。用具や試験装置、ソフトなど、この分野だけで一大市場が形成されているのがよくわかった。脳梗塞の発症から退院までの体験ルポルタージュ6回シリーズのその五。
いざ、リハビリ開始!
入院から一週間ほど経つと、ふらつきはかなり治まってき、もはや日常生活に支障はないようにも思えたが、どうも「今までとは違うぞ」というヘンな感覚が残ってはいた。なんか頭がふわふわ足元もふわふわしているのである。
頭のふわふわ感は、ちょっと言葉や文章で表現しづらいが、なんとなく頼りな~い感じなのだ。たとえばメモをとろうとして「ミルク」と書くつもりで「ミクル」と書いてしまうような、健常なときでもちょいちょいあるような感覚だ。起き抜けで「ぼー」っとしてるというのが一番近いか。
足元のふわふわ感は、ナイキのエアを初めて履いた時みたいでもある。ま、階段の上がり降りや狭いところの通過などはなんともないが、駅のホームの端っこをさっさか歩くとか、ビルの工事現場の鉄骨を鳶のように歩く、なんてえことは危なっかしくって金輪際出来ねえ、というふわふわである。
昼下がりのナースステーション
入院8日目あたりから、あたしのベッドにリハビリ担当の療法士がやってくるようになった。アタマが損傷する病気では、結果、運動機能が麻痺したり、言葉が喋れなくなったり、思考が出来にくくなったりする場合が多いので、治療にはリハビリが付き物になっているのだ。
幸いあたしは、手足指先言葉に問題はなさそうだったが、テストを兼ねて毎日リハビリテーションを受けることになった。病院にはワンフロア全部を使った屋内外のリハビリルームがあり、様々な器具や用具が設置されていて、ちょっとした体育館のよう。
時間になると療法士のおネーサンが病室に迎えに来てくれる。リハビリには理学療法、作業療法、言語療法などがあり、おのおの専門の担当療法士がいる。あたしは言語は問題なかったのでナシ。理学と作業のリハビリを受けたが、それぞれ二十代ナカバの美しいお姉さん療法士の担当にアタったので、おっさん悦んだ。
理学療法、作業療法、言語療法のリハビリテーション
まずは作業療法担当のN嬢がお迎えに。いそいそとリハビリセンターに付いてゆく。卓球台のような大きなテーブルに差し向かいで座り、筆記テストやパズルなどをして、完成タイムをストップウォッチで計測する。たとえば紙にダーツのような的の円が書いてある。これの中心を狙って一定時間内に出来るだけたくさんのペンで点を打つ。これを左右の手で行う。
また迷路が書いてある用紙のスタートからペンですみやかにゴールをめざす。線が迷路の壁にふれないようにする。ま、昔流行ったオモチャの「電撃ビリビリ棒」みたいなもんだ。また花や家などの図形を見本通りに書き写すとか。いろいろな形のパーツがあるプラパズルを見本通りに出来るだけ早く並べるとか。
幸いあたしの脳は、いままで通りに機能しているようだったので、頗る普通に出来た。というか、どっちかというとあたしの得意の範疇のテストであったので、たぶん勝負したらN嬢より成績が良かったと思う。
ほとんどの作業テストを抜群の成績で合格し続けたせいか、N嬢、やや大げさな試験装置を続けさまに出して来た。ひとつはアタッシェケースを開くとテストフィールドになっているような凝った仕様で、ビーカーやら試験管やら塩ビ管やらアルミ板やら針金やらのパーツがあり、それらを正しく装置にセットすると、N嬢、ビーカーを水で満たした。
で、問題は、「与えられたパーツ以外の器具に直接手を触れずに、試験管の底にあるコルク栓を何秒で取り出せるか」というようなもんである。まあ、正解は、水を使ってコルクを浮き上がらせて取り出すのだが、その水を使うためには、針金を使ってアルミの蓋を開けたり、水を掬うためのパイプに底をつけたりと、手先を精密に使いつつ、考えて工夫をしなければならないように仕組まれている。
健常者なら小学校低学年向け科学クイズというところか。「儂をなめとるんかい!」と少しムッとしつつクリアしたが、脳を損傷した患者にとっては、こんなイージーな問題をクリアするのが非常に困難になってしまうのだと思うと、軽度の小脳梗塞ですんだ自分に胸をなでおろすのでありました。
書物があれば何もイラネ
続いて理学療法担当のH嬢がお迎えに。こちらは体のバランス機能などがうまく働いているかを調べて、リハビリを施すのである。体の重心の動きを調べる体重計のような装置に乗ってバランスが取れているかをディスプレイに表示したり、リハビリセンターにしつらえてある、トマソン物件のような階段を上がり降りしたり、ゴムボールを頭上に差し上げたまま一本橋をわたるというようなテストである。
リハビリセンターには畳の和室なども設置されていて、正座から立ち上がったりする練習をしている人もいる。まるでスタジオのセットのようだ。いろいろやるうちに、あたしは目を閉じての片足立ちがうまく出来ないことに気づいた。しかしコレ、果たして発病以前にもちゃんと出来ていたかどうか怪しいぞ。
そして何回目かの理学療法リハビリのとき、H嬢は院外散歩にエスコートしてくれた。病院周辺の歩道橋をふわふわと一巡りして戻って来ただけだが、ひさびさの娑婆の空気に感動した。でも一番感動したのは歩きタバコのおっさんの出す副流煙の美味かったこと美味かったこと!必死で吸い込みましたっす。(2008-03-08 掲載記事を復刻)
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院内のリハビリ施設が立派なのには驚いた。用具や試験装置、ソフトなど、この分野だけで一大市場が形成されているのがよくわかった。脳梗塞の発症から退院までの体験ルポルタージュ6回シリーズのその五。
いざ、リハビリ開始!
入院から一週間ほど経つと、ふらつきはかなり治まってき、もはや日常生活に支障はないようにも思えたが、どうも「今までとは違うぞ」というヘンな感覚が残ってはいた。なんか頭がふわふわ足元もふわふわしているのである。
頭のふわふわ感は、ちょっと言葉や文章で表現しづらいが、なんとなく頼りな~い感じなのだ。たとえばメモをとろうとして「ミルク」と書くつもりで「ミクル」と書いてしまうような、健常なときでもちょいちょいあるような感覚だ。起き抜けで「ぼー」っとしてるというのが一番近いか。
足元のふわふわ感は、ナイキのエアを初めて履いた時みたいでもある。ま、階段の上がり降りや狭いところの通過などはなんともないが、駅のホームの端っこをさっさか歩くとか、ビルの工事現場の鉄骨を鳶のように歩く、なんてえことは危なっかしくって金輪際出来ねえ、というふわふわである。
昼下がりのナースステーション
入院8日目あたりから、あたしのベッドにリハビリ担当の療法士がやってくるようになった。アタマが損傷する病気では、結果、運動機能が麻痺したり、言葉が喋れなくなったり、思考が出来にくくなったりする場合が多いので、治療にはリハビリが付き物になっているのだ。
幸いあたしは、手足指先言葉に問題はなさそうだったが、テストを兼ねて毎日リハビリテーションを受けることになった。病院にはワンフロア全部を使った屋内外のリハビリルームがあり、様々な器具や用具が設置されていて、ちょっとした体育館のよう。
時間になると療法士のおネーサンが病室に迎えに来てくれる。リハビリには理学療法、作業療法、言語療法などがあり、おのおの専門の担当療法士がいる。あたしは言語は問題なかったのでナシ。理学と作業のリハビリを受けたが、それぞれ二十代ナカバの美しいお姉さん療法士の担当にアタったので、おっさん悦んだ。
理学療法、作業療法、言語療法のリハビリテーション
まずは作業療法担当のN嬢がお迎えに。いそいそとリハビリセンターに付いてゆく。卓球台のような大きなテーブルに差し向かいで座り、筆記テストやパズルなどをして、完成タイムをストップウォッチで計測する。たとえば紙にダーツのような的の円が書いてある。これの中心を狙って一定時間内に出来るだけたくさんのペンで点を打つ。これを左右の手で行う。
また迷路が書いてある用紙のスタートからペンですみやかにゴールをめざす。線が迷路の壁にふれないようにする。ま、昔流行ったオモチャの「電撃ビリビリ棒」みたいなもんだ。また花や家などの図形を見本通りに書き写すとか。いろいろな形のパーツがあるプラパズルを見本通りに出来るだけ早く並べるとか。
幸いあたしの脳は、いままで通りに機能しているようだったので、頗る普通に出来た。というか、どっちかというとあたしの得意の範疇のテストであったので、たぶん勝負したらN嬢より成績が良かったと思う。
ほとんどの作業テストを抜群の成績で合格し続けたせいか、N嬢、やや大げさな試験装置を続けさまに出して来た。ひとつはアタッシェケースを開くとテストフィールドになっているような凝った仕様で、ビーカーやら試験管やら塩ビ管やらアルミ板やら針金やらのパーツがあり、それらを正しく装置にセットすると、N嬢、ビーカーを水で満たした。
で、問題は、「与えられたパーツ以外の器具に直接手を触れずに、試験管の底にあるコルク栓を何秒で取り出せるか」というようなもんである。まあ、正解は、水を使ってコルクを浮き上がらせて取り出すのだが、その水を使うためには、針金を使ってアルミの蓋を開けたり、水を掬うためのパイプに底をつけたりと、手先を精密に使いつつ、考えて工夫をしなければならないように仕組まれている。
健常者なら小学校低学年向け科学クイズというところか。「儂をなめとるんかい!」と少しムッとしつつクリアしたが、脳を損傷した患者にとっては、こんなイージーな問題をクリアするのが非常に困難になってしまうのだと思うと、軽度の小脳梗塞ですんだ自分に胸をなでおろすのでありました。
書物があれば何もイラネ
続いて理学療法担当のH嬢がお迎えに。こちらは体のバランス機能などがうまく働いているかを調べて、リハビリを施すのである。体の重心の動きを調べる体重計のような装置に乗ってバランスが取れているかをディスプレイに表示したり、リハビリセンターにしつらえてある、トマソン物件のような階段を上がり降りしたり、ゴムボールを頭上に差し上げたまま一本橋をわたるというようなテストである。
リハビリセンターには畳の和室なども設置されていて、正座から立ち上がったりする練習をしている人もいる。まるでスタジオのセットのようだ。いろいろやるうちに、あたしは目を閉じての片足立ちがうまく出来ないことに気づいた。しかしコレ、果たして発病以前にもちゃんと出来ていたかどうか怪しいぞ。
そして何回目かの理学療法リハビリのとき、H嬢は院外散歩にエスコートしてくれた。病院周辺の歩道橋をふわふわと一巡りして戻って来ただけだが、ひさびさの娑婆の空気に感動した。でも一番感動したのは歩きタバコのおっさんの出す副流煙の美味かったこと美味かったこと!必死で吸い込みましたっす。(2008-03-08 掲載記事を復刻)