◯ 初夏の兼題は「麦秋」「初鰹」「かみなり」です。
【麦秋】
古書棚にまだ陽は射して麦の秋 天天天人人 風写
麦秋や岬の果てはずっと青 天天地地地人 酒倒
乗り継いで乗り継いで麦秋の駅 天地地人 喜の字
麦の秋いよよ色深む雨重ね 天地 山女
山脈の影濃く落ちて麦の秋 天地 逆月
どこまでも道どこまでも麦の秋 天人人 魯斗
日食の育ちゆく宙麦の秋 天人 駒吉
金色の慎太郎刈り麦の秋 天人 音澄
麦秋といえど麦なき干拓地 天 音澄
麦秋の下に腕ぶす蟲の精 天 酒倒
【初鰹】
枡の縁まろき居酒屋初鰹 天天天天地地人人 豆蛙
初鰹これが最後と言ふ母と 天天天地 魯斗
鉄の香をかすかに秘める初鰹 天地人 音澄
ただ一艘錦の舟出や初かつお 天地人 風写
初鰹まだ伸ばす気の寿命かな 天人 豆蛙
哀れなりカルパッチョだと初鰹 天 音澄
初鰹黄緑の木々目に染みる 天 駒吉
所帯など持とうとするな初鰹 天 呑暮
【かみなり(雷)】
雷の掴みかかるや黒き海 天天地人 音澄
迅雷や街はキリコの絵となりて 天天人 磨角
遠雷や脱藩の道急ぐ声 天天 駒吉
山門の雷神雲に駆け上がり 天地地 音澄
雷来たる宙に電気は山とあり 天地人 酒倒
遠雷や大工は煙草を一服す 天地 喜の字
いかずちや殺し文句を探しをり 天 逆月
雷や頬のうぶ毛の濡れ光り 天 呑暮
雷鳴に風なまぐさく膨れくる 天 魯斗
落雷に一新したき我が身かな 天 風写
つぶやき再録
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
金環食とスカイツリー、騒ぎに乗じて大儲けをする輩がいる。虚しいのはその儲けが、世の中をほんとに元気にはしないからだ。そのことをみんなわかっていて、みんなが乗っかっている。元気のふりから元気が生まれることもあることを知っているからだ。
しかし、わずか数分のために「今後300年は役に立たない」眼鏡を千円、二千円で買わされて・・・。テレビでも「専用眼鏡で」を連呼する。集団詐欺ですな。でもまあ、こちらはロマンがあると言えばある。こどもたちにとっては忘れられない思い出にもなろう。
でも、入るだけで3500円、450メートル展望台まで行けば5000円もかかるという「空樹」にはあきれる。眺めただけで帰る人はいないだろう。飲食して記念に何か買って、例えば家族4人で行ったらえらい出費である。せめて中学生以下は、むこう1年間ぐらい無料にしたらどうだ。肝心のお天道様がご機嫌を損ねたか、両方から期待された「晴天」はどこかへ飛んで行ってしまった。好奇心を外されたよき人たちが気の毒ではないか!
と、フンガイしている逆月であります。さて初夏の選句。季節感としてなら麦秋,光景としてなら麦の秋。やはりどちらかに分かれましたね。
【麦秋】
天 古書棚にまだ陽は射して麦の秋
地 古里の道は直線麦の秋
人 麦秋の野に炭焼きの匂ひかな
天。古書の詰まった本棚に西日が射している。物憂い、しかし、どこか懐かしくもある静止画像のような切り取り。
地と人は光景です。両方とも音読すると情景が浮かびます。両方とも中七の切れがよくて、調べがいいなあ。エントリーは野球部と岬の果て。
【初鰹】
天 枡の淵縁まろき居酒屋初鰹
地 鉄の香をかすかに秘める初鰹
人 初かつお見て見ぬふりの眠り猫
この季語、難しくありませんでした? 逆月は苦労しました。
天の「まろき」はこの道のベテランでないと出てきませんよね。
地は味覚、人は視覚の細やかさに感服。エントリーは画廊めぐり、飾り皿、板長、懐石教室。
【かみなり】
天 雷の摑みかかるや黒き海
地 雷鳴に話の腰を折られけり
人 晴天の雷鳴とほき立ち呑み屋
天は、琳派にでもありそうな迫力、てのは褒めすぎか。
誰にも経験がありそうな地の句の情景。人。あ、いかん、また、飲み屋に入ってしまった!
エントリーは大工、脱藩、山門の、雷神のタイコ、といったところでした。逆月もおいしい海苔に挑戦しました。どうなりますか。では。
★魯斗さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
■麦秋
天・古書棚にまだ陽は射して麦の秋
地・麦秋や遥か懐かしサリンジャー
人・三畳ほど麦秋もあって散歩道
■初鰹
天・枡の縁まろき居酒屋初鰹
地・飾り皿どれも大振り初鰹
人・噺家の余韻に浸る初鰹
■かみなり(雷)
天・雷や頬のうぶ毛の濡れ光り
地・遠雷に迷ひつ纏ふ着物かな
人・雷の駆けて空には大三角
薄ら寒い日が続いておりました十勝ですが、今日は一転夏日の勢い。
ややこしく、進捗状況も亀の歩みのような仕事に嫌気がさして現実逃避の果て、
選句しているうちに妄想世界に堕ちたようです(笑
以下、妄想戯れ話
暑すぎず、風の心地良い午後おそく、ふらっと散歩に出てみる。
・三畳ほど麦秋もあって散歩道
いつもは通らない駅近くの路地に迷い込んでみると潰れそうな古本屋。
・古書棚にまだ陽は射して麦の秋
黴臭い棚に半世紀近く前に読んだ気恥ずかしくなりそうな一冊を発見。
・麦秋や遥か懐かしサリンジャー
これを買うのはちょっと恥ずかしすぎるだろう、と足を伸ばして寄席にブラリ。
やはり初老の身には米国文学より渋めの江戸噺の方がすわりが良い。
・噺家の余韻に浸る初鰹
粋な噺を堪能し寄席を出ると赤提灯が誘惑してくる。
さっき見つけた古本屋と同じくらい際どそうな店だ。
・枡の縁まろき居酒屋初鰹
年季の入った油光りした一枚板のカウンター。もちろん渋面の親爺一人が(無愛想に)もてなしてくれる。出てくる枡も年季が入りすぎていて渋すぎ。
おまかせで頼んだ肴は旬の鰹。
・飾り皿どれも大振り初鰹
浅葱に生姜がきれいだが一人じゃ食べ切れなさそうな大盤振る舞い。
これであの値段とは・・・本気で潰れないかと心配になってくる。
おや、暖簾越しに遠雷がかすかに聞こえる。
雨? 狭い路地を忙しなく通り過ぎる人が増えてきた。
そんな中に、わが娘くらいの着物姿のお嬢さんが見えた。
お茶かお花の稽古にでも行くのだろうか? それともデート?
・遠雷に迷ひつ纏ふ着物かな
洋服でも良かったのに何か特別な想いで着物にしたんだろうな。
着慣れない装いに走りだすことも出来ず、ちょっと戸惑い顔で空を見ている。
ピカッ ストロボのような稲妻が瞬く。
・雷や頬のうぶ毛の濡れ光り
数千分の一秒の艶っぽい時間が網膜に焼き付いた。
雷鳴が遠ざかるのを待って居酒屋を出ると
・雷の駆けて空には大三角
困りものの老眼にもこの三つの星だけはよく見える。都会の空も棄てたもんじゃない。
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※投句できなかった雨不埒さんの、参考選句です。
麦秋
天)帽子取る富士見峠や麦の秋
地)沖眺め髪遊ばせる麦の秋
人)麦秋の野に炭焼きの匂ひかな
初鰹
天)初がつを何も知らない若女将
地)初鰹血合いの闇の深さかな
人)噺家の余韻に浸る初鰹
かみなり(雷)
天)山門の雷神雲に駆け上がり
地)迅雷や街はキリコの絵となりて
人)晴天の雷鳴とほき立ち呑み屋
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以上です。
初鰹は、有名な句があって、気分的にそっちに引っ張られるか、それを避けて遠ざかるかという気持ちになるもので、これまで「当然出ていていい」のに出していませんでした。
※小間使いからお知らせ。「非常勤」ではあるのですが、出社の機会が減ることになるので、自宅からの出題、自宅への投句、ということにします。近々、皆さまにもれなくお届けできるように、アドレスの確認メールを送ることがあると思います。お手数でしょうが、対応をお願いしておきます。句会は延々続けるつもりでいます。
酒倒さま
コメント欄の復旧、ありがとうございます。
そして、おつかれさまでした。
で、三題噺ならぬ九題噺的妄想戯れ話まで再録いただき・・・恥ずかしいかぎりであります。
リラ冷えだった初夏の句会から半月ほど過ぎましたが
私の暮らす北海道・十勝にも、ようやく夏っぽさが訪れました。
散歩道には綿毛が飛び去った大量のタンポポと色とりどりのツツジが同居しています。
道路の両脇に植えられた白樺並木は淡い緑のグラデーション。
つい1ヵ月半ほど前まで除雪の山に覆い尽くされていたのが嘘のようです。
本州では梅雨入りが報じられているようですが
唯一自慢できるのが「梅雨のない北海道」かな?
と、言い切ってしまえるのも今月いっぱいくらいで
今年も「蝦夷梅雨」と呼ばれるジメジメした季節がやってくるはずです。
・・・と、北海道通信のようなことを復旧したばかりのコメント欄に
グダグダと書き込んでしまいました。m(_ _)m
では、次回 仲夏の句会を楽しみにしております。
魯斗さま
再開に手間取ってしまいすみませんでした。
勝手に「つぶやきの再録」をさせていただいていますが、
メールのほうは非公開がいいというご意見があれば止しにしますよ。
以前のつぶやきにときどき句意の質問があったりしたので
双方向のほうがいいかな?と載せてみたんですが…