◯ 晩夏の兼題は「白玉」「風死す」「夜光虫」です。
【白玉】
白玉やつるんと平和を噛みしめる 天天天天天地 好喜
白玉や雨は止みたり下駄の音 天天天天 見燗
白玉のほの青きかな江戸切子 天天天地地人人 呑暮
白玉や迷いも棘も喉の奥 天天人 好喜
ひたひたと白玉団子桶の底 天地地人人 風写
白玉や少年七十五歳なり 天地地 喜の字
白玉を指でへこます母の真似 天地人 蝸牛
白玉や長寿姉妹のあど語り 天地人 磨角
白玉に匙もつ幼きえくぼかな 天人 凛語
【風死す】
風死して重くなりたる腕時計 天天天地地人 仲春
風死して羽ばたき重き海の鳥 天天地地人 音澄
灼熱の廃炉を襲う土用凪 天天人 風写
風死して蚊遣りの外の虫の声 天天 愚多楽
風死する瓦礫の上で風を待つ 天天 凛語
風死すや持て余したる象の鼻 天地地地人 喜の字
風死して行商ひとり峠道 天地地地人 芝浜
風死すや手持ち無沙汰の縄暖簾 天人人 駒吉
風死せり遅れ補欠はもう一周 天人 酒倒
風死すやシャツ干したまま独身寮 天人 喜の字
風死して家に居るもの死に絶へり 天 菫女
風死して羽落ちるよに独りかな 天 蝸牛
海神(わだつみ)も休まれ給ふ土用凪 天 風写
【夜光虫】
すくう手を夢すり抜けて夜光虫 天天天天天地 芝浜
夜光虫彼岸の国の宴かな 天天地地地人人 愚多楽
放浪の芙美子が憩う夜光虫 天天 喜の字
約束が波に砕けて夜光虫 天地地地人人 好喜
夜光虫無言電話の向こう側 天地地人 逆月
夜光虫レイテの沖の墓標かな 天地 愚多楽
あの辺りあれは人魂夜光虫 天地 仲春
迷い来て立ち尽くす恋夜光虫 天人 好喜
空に星海にも星や夜光虫 天人 駒吉
戯れに灼けて散りたる夜光虫 天 磨角
海見れば星がゆらゆら夜光虫 天 陽光
ほつほつと運河の町の夜光虫 天 喜の字
民の声兜太の揮毫夜光虫 天 魯斗
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【白玉】
・白玉のほの青きかな江戸切子 天
・白玉や莫迦なおとこが好きな莫迦 地
・白玉や女の愚痴を聞いてゐる 人
【風死す】
・風死すやシャツ干したまま独身寮 天
・風死すや満室表示のラブホテル 地
・風死せり猫島の猫動かざる 人
【夜光虫】
・放浪の芙美子が憩う夜光虫 天
・夜光虫母なる海も女なり 地
・抗ひて嵐に消えし夜光虫 人
以上です。
音澄の選句は見ての通りですが、夜光虫と星をつないで詠むのは付き過ぎの上、平凡な連想なので、星を詠み込んだ句は選びませんでした。というのが、音澄の俳句観です。それと、夜光虫のいる海を見たことの無い人もいたかもしれませんが、どうも「蛍」を詠んでいるような句も多かった気がします。俳句は、ファンタジーではないので心して。
歳時記を三冊調べたのですが、夜光虫と星を結んだ句は採っていなかった。
白玉の句、自分で白玉を作ったことが無いな、という句が多数あり。男性は、まぁ作らないか。そこで、母が出てくる。それを選ばないのも、音澄の俳句観。講談社学術文庫の俳句の本に「母を安易に出すものではない」という教えがありました。なるほどなぁ、と思ったもので、私はそのことを心しています。「母の手に」「老いた母」「小さき母の」などなどです。
・白玉や君の指先見つめてた
この句は、言葉遣いからして「ほぼ散文」ですね。俳句は韻文なのでもう一工夫。
・白玉を母娘でつくる夏休み
これは、季重りになってしまいました。
暑くて、緩んでしまいましたかね。
「汗」は季語なのです。だから、
・汗落ちる体育館や風死せり
・風死して球児の顔に汗光る
この二句は季重り。
また、
・風死して蚊遣りの外の虫の声
「風死す」、「蚊遣り」、「虫の声」が季語で、
その上、夏と秋が雑じっていますね。
・赤潮の悲運を秘めをり夜光虫
この句は、夜光虫が海に被害をもたらす赤潮のモトであると知っての句でしたが、赤潮そのものがやはり季語なので、季重りではあります。
私以上に季重りに敏感な人がいるのですが、つぶやきが来ませんでした。
かの「目には青葉」の句のように、時に名句もありますが、できれば季重りは避けたいと思っています。俳句は「五七五で、季語をひとつ」というのが大前提です。自分の句にも、他の人が詠んだ句にも、もう少しご注意。
そのうち、「つぶやき」ではありませんが、
この句を天に選んだ気持ちなどを寄せてもらう回も悪くないな、と思っています。
★小間使いさんから--------------------------------------------------
木曜日は出社日で、暑さに押しつぶされて帰宅。気力が出なくて集計が遅れてしまいました。
ではでは 次回はもう「秋」ですね。