◯ 晩秋の兼題は「ななかまど」「古酒」「赤い羽根」です。
【ななかまど】
ままごとの夕餉華やぐななかまど 天天天天天地人 蝸牛
捨て鐘や余韻枯れゆくななかまど 天天地地人人 即馳
ななかまど熟れて空き家の主を待つ 天天地 好喜
山裾の蕎麦屋の卓のななかまど 天地地地人人 音澄
過疎村に燃へななかまど眩しかり 天人 仲春
あの赤は纏ふてみたしナナカマド 天 菫女
ななかまど曲がれば祖母の丸太小屋 天 小波
布団干す嫁いで幾年七竃 天 雪童
ななかまど谷に竦みて九十九折り 天 雪童
【古酒】
馴れし屋に一人で生きん古酒の酔 天天天地地 菫女
生きすぎし誤算もうれし古酒を酌む 天天地人 喜の字
燗で揉め肴で揉める古酒の会 天天 酒倒
雨上がり古酒と待ちたり山の宿 天地人 見燗
飴色に光るや古酒のやはらかき 天地人 逆月
牛を売るいつもせつない古酒の酔 天地人 喜の字
胃を切って飲めぬ地酒の古酒となり 天地 音澄
ふる酒で祝われし人笑ひ皺 天地 菫女
古酒や白磁に琥珀の時を酌む 天人 風写
喜寿となる理系文系古酒を汲む 天 仲春
古酒辞して午後は薪割り屋根修理 天 青羽
【夜光虫】
赤い羽根はずしてくぐる縄暖簾 天天天地地地地人人 仲春
一番の幼の箱へ赤い羽根 天天天 磨角
赤い羽根通過電車の風に揺る 天天地 酒倒
赤い羽根戸籍係の無愛想 天天地 音澄
赤い羽根善人らしくなれぬ朝 天天人 菫女
針刺しに残る去年の赤い羽根 天地人人 音澄
不似合いな議員バッジと赤い羽根 天人人 喜の字
散歩する家族5人の赤い羽根 天 小波
★呑暮さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【ななかまど】
天 ななかまど熟れて空き家の主を待つ
地 故郷の訛る暖簾やななかまど
人 日本髪版画の隅のななかまど
〈マイ懺悔〉拙句は「ななかまど年に一度の散髪屋」なのですが、わたくし、ななかまどをプラタナスと勘違いしていました。秋から冬にかけて道路わきの木が丸坊主にされるさまを詠んだのですが、選句用リストを見て「あっ」と。もしかして、そうとは知らず点を入れてくださる人がいたら、と思うと夜も寝られません。
【古酒】
天 ふる酒で祝われし人笑ひ皺
地 姑には内緒しまい湯古酒注ぐ
人 亡き人の盃につぐ古酒光り
〈マイ懺悔〉拙句は「下戸の家笑顔で古酒を勧めらる」なのですが、わたくし、古酒を新酒に比べて劣るもの、という前提でのみ、詠んでおりました。確かに最近は2年、3年と寝かして熟成させるお酒もありますし、そもそも自分に新酒と古酒の違いが分かるか、というと分かりません。気にするのは100円あたりの純アルコール量の多寡であり、酒屋に行って「酒にするか、焼酎にするか」と悩むのは、そもそも違うんじゃないかと我ながら思います。
【赤い羽根】
天 赤い羽根はずしてくぐる縄暖簾
地 赤い羽根ばあちゃん去年の持ちだして
人 赤い羽根似合いますよと言はれけり
〈マイ懺悔〉拙句は「朝ラッシュ狸寝入りの赤い羽根」なのですが、わたくし、そういう人を揶揄する資格はありません。赤い羽根、いつも無視していますから。電車で年寄りに席を譲らず寝たふりをしている人でも、赤い羽根への寄付という善行を確かに施したのであり、その点でわたくしよりは善人です。善き行いをした人が、それゆえに、他のことにおいてことさら善行に欠けると見なされるのは不公平です。善行を施した人にさらなる善行を強いる、そういう間違った観点で、わたくしは一句ひねってしまいました。
★小間使いさんから--------------------------------------------------
よく読むと、季重りが相変わらず多い滅入る句会です。
歳時記、季寄せをきちんと見れば、確認できます。
季節を表す日本語は実に多彩なので、それを使い分けることも
俳句熟達の一部ですから、ご注意。
ではでは 次回はもう初冬です。