◯ 仲秋の兼題は「十六夜」「きつつき」「コスモス」です。
【十六夜】
別れ来ていざよう月に出逢いけり 天天人 小波
十六夜に酒酌み交わし嘘少し 天天 魯斗
十六夜や櫂なき舟の揺れをりて 天地地地 磨角
十六夜や祇園の露地の明かり濡れ 天地地 仲春
十六夜や句友の素性知らぬまま 天地人 仲春
十六夜のしなやかなりし手話の指 天地人 喜の字
書きかけの手紙に向かふ十六夜 天人 小波
十六夜や富士超然のシルエット 天 喜の字
【きつつき】
啄木鳥の止んで飯場は昼休み 天天地人人 芝浜
けらの音に出迎えられし秘境駅 天天 魯斗
啄木鳥や別荘二軒売れ残る 天天 喜の字
啄木鳥や滑舌のよき宿女将 天地地人人人 逆月
棟の木にこげらの穴や古旅館 天地地人 音澄
啄木鳥のあれは小言よまた叩く 天地地 喜の字
啄木鳥の連打もよそに見張る浮子 天 風写
【コスモス】
一花揺れ万花波打つ秋桜 天天天 魯斗
コスモスの花の軽さの昼の月 天地地人 芝浜
コスモスや三輪車追ふ一輪車 天地人人 仲春
群れ咲いて千の風生む秋桜 天地 喜の字
儚げという隠れ蓑秋桜 天地 逆月
愛嬌は器量に勝る秋桜 天人人人 魯斗
コスモスやバックミラーをひた走り 天人 風写
点描のコスモス揺れて印象派 天 雪童
つぶやき再録
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【十六夜】
天 十六夜や櫂なき舟の揺れをりて
地 十六夜や祇園の露地の明かり濡れ
人 十六夜は銀河鉄道遅れ来る
十六夜はあまり面白い句に出合いませんでした。「神輿の路地」はいいんですが神輿は夏の季語です。どうも説明句が多いように思います。
【きつつき】
天 けらの音に出迎えられし秘境駅
地 啄木鳥の止んで飯場は昼休み
人 炭焼きの煙や蒼くケラの声
天地人つけがたし。
【コスモス】
天 一花揺れ万花波打つ秋桜
地 コスモスの花の軽さの昼の月
人 愛嬌は器量に勝る秋桜
感覚的には地の句が好きだなあ。
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
選句は、以下の通り。
【十六夜】
・書きかけの手紙に向かふ十六夜 天
・十六夜や路地奥に立ち燐寸擦る 地
・十六夜や今日繙くは狂風記 人
「十六夜」に関しては、十六日目の月を扱いかねた句が多かったように思いました。満月の次の夜なので「やや欠けて」は当然ですね。金子兜太大先生の言う、説明している句というのにあたるんでしょう。つい、やってしまいがちですが。
私が、具体的にその夜の風景が描けるような句を選びました。
「燐寸擦る」となると、すぐに寺山修司を思い出す世代です。
【きつつき】
・啄木鳥や別荘二軒売れ残る 天
・きつつきに無沙汰の書き出しさえぎられ 地
・啄木鳥の止んで飯場は昼休み 人
初めは、何でもなさすぎると思ったのが「別荘」の句です。でも、売れ残った二軒以外の別荘はちゃんと売れて、その区画の少し向こうには啄木鳥がいる森、というように風景を組み上げていった時に、人が入らないままの別荘二軒と、向こうの森から啄木鳥の音が聞こえてくる情景が、ずいぶんいいと感じました。そっけないけれど、そっけない分のガランとした秋の別荘地が侘びしくていいと感じました。
十六夜でも手紙を選んでしまいましたが、きつつきでも「無沙汰の書きだし」を選んでいて、おやおやと思った私。
飯場の昼休みは、森の縁を巡って新しい道でも造成されているんでしょう。工事の音が止んだら、啄木鳥の音もひと休みになった感じ。森が少しの間静寂を取り戻した、という時間がちょいといい。
【コスモス】
・コスモスや三輪車追ふ一輪車 天
・秋桜駄々をこねてる線路際 地
・コスモスの花の軽さの昼の月 人
歳時記を見るか、この花のことを調べるとおわかりのように、明治期に入って来た花で、江戸時代にこの花を詠んだ句はありません。日本人はわりとこの花が好きなようですが、外来種で、あまり繁茂させるのは在来種を駆逐してしまうので、植物的には歓迎しないんだそうですよ。
選んだ三句は、コスモスの群生ではなく、小さな固まりが秋の空の下に見える感じが巧みで、迷わず選びました。「三輪車一輪車」はうまい! 線路際で「揺れている」のを、駄々をこねてるってことにしたのが、うまい! 花の軽さの昼の月、平成の蕪村ですね、あはは。
ということで、次回は晩秋です。
俳句をひねる時間のある方は是非、投句、選句にご参加ください。
野田んぼの渇きに泥鰌も住みかねて ヤス竹下の泡沫恋しき…なんてね