◯ 晩秋の兼題は「秋寒」「新米」「木犀」です。
【秋寒】
車座の漁師の背(せな)の秋寒し 天天天地 喜の字
秋寒や今さらながら親不孝 天地地 音澄
もなか待つ行列静か秋小寒 天地地 逆月
秋寒の日暮れて豆腐を買い走る 天地人 風写
盃二つ満たして暮れむ秋小寒 天地 逆月
秋寒やつり革の黙並びをり 天地 菫女
秋寒や細く長くの影法師 天人 魯斗
秋寒や踵のささくれ撫でる縁 天人 酒倒
うそ寒に追い打ち掛ける灯油の値 天 風写
秋寒や消化試合のネット裏 天 呑暮
【新米】
新米の喜び分かつ人は去り 天天天天地人 即馳
神に穂を仏に飯を今年米 天天天地地 魯斗
新米や玉子一個といふ天国 天地人 逆月
新米のどんぶり飯や相撲部屋 天人 喜の字
新米の湯気もいっしょに祖に供え 天人 魯斗
淅すほどに新米窯に深く澄み 天 風写
鼻孔から炊きつけられる今年米 天 即馳
【木犀】
木犀が闇を圧する屋敷町 天天地人 音澄
あの時も木犀の香が匂ひをり 天天地 菫女
闇の底木犀の香の沈殿す 天天人人 音澄
木犀の金銀ありて京の寺 天地地地人 喜の字
水門に木犀の花溜まりけり 天地地 酒倒
金木犀拒絶を知らぬ女ゐて 天地人 仲春
木犀の香や筆鋒にいのち噴く 天人 逆月
来客のかほり連れ来し金木犀 天人 雪童
うたた寝を窓辺に覚ます金木犀 天 風写
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
凶暴な台風が暴れまわっています。みなさま被害などありませんか。
さて選句。今回ほど選に迷ったのは初めてです。
三題とも、初めに抜いたのと最終的に選んだものが、天地人、ほとんど入れ替わりました。つまり大逆転の連続でした。
【秋寒】
天 車座の漁師の背の秋寒し
地 秋寒や目覚めて熱きミルクティー
人 秋寒やカヌー一隻多摩渓流
天。背中には秋冷すさまじく、しかし車座の中心には燃え盛る炎があって、実は、頬も火照る熱き人間句。
地。この一杯の、しみいるあたたかさ!人。一隻の孤影が凛々しい。 この天地人、一次選は次の通りでした。
天 秋寒や消化試合のネット裏
地 同じ
人 生干しの薪燃え渋りそぞろ寒
【新米】
天 鼻孔から炊きつけられる今年米
地 新米の湯気が噴き出す合宿所
人 新米や高き笑いは受話器から
天。理屈でなく、五感で知る新米の迫力。地。噴き出すがエネルギーを象徴していますね。
これも理屈抜きの上きげん句です。
一次選考は、
天 新米の湯気が噴き出す合宿所
地 神に穂を仏に飯を今年米
人 淅すほどに新米窯に深く澄み
「淅」は、「しゃく」と読むのですか。逆月、不勉強にて辞書を引くも、釈然とした答えに行きつかず。お教えを乞います。意味は研ぐことですよね。
【木犀】
天 木犀が闇を圧する屋敷町
地 水門に木犀の花溜まりけり
人 金木犀拒絶を知らぬ女ゐて
3句とも、悩ましいのに、頑としてゆずらない、この植物の大きな精神性がビリビリきます。
ちなみに一次選は、
天 木犀の金銀ありて京の寺
地 うたた寝を窓辺に覚ます金木犀
人 同じ
ことほどさように、悩み、かつ楽しんだ晩秋でした。
▼逆月さんの疑問、小間使いも困って、句を作った人に聞きました。
「淅す」=米を研ぐと同じで意で、「かす」です。中部地方では使われていました。
との回答でした。
★音澄さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【秋寒】
・秋寒や消化試合のネット裏 天
・長入院見舞いも絶えて秋寒や 地
・秋寒やカセットコンロのガス乏し 人
神宮球場の消化試合などを見に行けば、「天」の通りなんです。実際にゾワゾワ寒いし、その消化試合自体が実にお寒い。どっちが勝っても順位に関係がなく、記録に変化が出る選手もいない。監督もクビにならないと決まっていてね。下手に「来年」期待の新人を出してケガでもしたら、と、悲惨なものです。むろん、もらった入場券でいきました。
「どうもねぇ、こうも長い入院になってしまうと...」私がいない日常が、みんなの日常になってしまうわけだ、と、思う。疲れるばかりのお見舞いが来なくなったのはせいせいするけれど、寒いね、となる。病院にいれば冬は越せるだろうけれど、春になって退院してからがまた「重いなぁ」となれば、もう、断然、秋寒でありますよ。
一人で鍋を食うかと思ったものの、鍋を食い終わるまでガスが持つのかい。という、無精ひげが伸びてきたジジイなりかけの侘びしい気分が、とてもいい。うまい。蕪村の句に「埋火ややがては煮えるかたきもの」ってのがあったはず。「かたき」は漢字だったかなぁ、好きな句をきちんと覚えていないのが、不勉強の最たるもの、実に、けしからん。
【新米】
・新米のどんぶり飯や相撲部屋 天
・新米や一汁一菜ぬかりなく 地
・新米に草の実雑じり我が家印 人
新米はおいしいですね、などと言っているのは部屋頭の大関あたりと、訪ねてきた「たにまち」さんだけで、それ以下になると、もう米は量で食うモノであってウゴフゴと丼飯を掻き込むだけ。ちゃんこをすまして、昼寝する。巡業で知り合った各地の後援者から届いた新米も、さすがに相撲部屋で、あっという間に何kg単位で消えて行くわけだ。新米の量と、香りと、食べる勢いが、合宿所より相撲部屋だなと。
一汁一菜ぬかりなく、これ、何でもない句でしょ。この何でもなさが、なかなか詠めない。詠めると思って捨てる情景でもあるけれど、一汁一菜の横に、長い間使い慣れている自分の茶碗と箸。そして、茶碗のご飯は、ああ、今年も秋が来たなぁ、という輝きと香り。昔のちゃぶ台であって欲しい気がしましたよ。一人の情景か、二人の情景かが私にはわからなかった。ぬかりなくなので、誰かが用意してくれたとすれば、老いた二人か。
「印」は「じるし」でしょうから、下五が下六、もしかしていつも字余りの人か、と思ったのですが、これは許容。でも、今時の田んぼ、よほどのことがないと草の実は混じらない。段々の田んぼで米作りをするような我が家かな。
【木犀】
・金木犀拒絶を知らぬ女ゐて 天
・木犀の蔭でひそかに放屁する 地
・あの馬鹿を恋し恋しと金木犀 人
どうにも「拒絶を知らぬ女」が、なんとも怪しい。滅入る句会の女性俳人にこういう句を詠む人がいるとはわかっているんですが、これは男性だろうと思いました。いつもは、この句は誰だろうとあまり考えない方ですが、誰だろうなぁ、とは思いました。木犀の香り、いい香りだと思いますかね。私は、余韻というより「縁取りのない香り」でだらしないから嫌いなんですが、そこに拒絶しない女だもの、全体果てしなくだらしなく、なまめかしく、参ったなぁ、でありました。
放屁は、やってくださいましたね、です。木犀の下だもの、こうでなきゃ。一茶あたりが詠んでいそうな気がするぐらいに、笑いと皮肉と、へへ、やりたくなるよねで選びました。もう、こういう句を詠むのは関西のあの人だとは思う、でした。
私のいう「縁取りのない香り」の木犀と、あの馬鹿ね、これ「バカバカバカ」と惚れた女が言う馬鹿でしょ? それなのに、どうもはっきりしない。で、何かの加減で木犀の香りから「あの馬鹿」が連想で来てしまって、またバカバカバカと思うわけだ。
★小間使いさんからのお知らせ----------------------------------------
句ができていたのに送れなかったから、せめて選句と
これは参考で、集計に入れていません。
芝浜選
【秋寒】
天・秋寒や今さらながら親不孝
地・盃二つ満たして暮れむ秋小寒
人・生干しの薪燃え渋りそぞろ寒
【新米】
天・神に穂を仏に飯を今年米
地・新米に上機嫌なる箸茶碗
人・淅すほどに新米窯に深く澄み
【木犀】
天・水門に木犀の花溜まりけり
地・木犀の金銀ありて京の寺
人・木犀の蚊帳筆法に命服
句を詠んで選句も遅れず忘れずに(と、五七五、標語ですね)
ではでは 次はもう冬です 小間使い
★管理人よりお知らせ----------------------------------------
スパム回避でコメント投稿を休止していますので
今回より「つぶやき」は本編に載せることにしました。