◯ 仲夏の兼題は「夕凪」「山登り」「水鉄砲」です。
【夕凪】
夕凪や徘徊さがす広報車 天天天 喜の字
夕凪に櫂を早めて風を得る 天天地地人 酒倒
夕凪やひとすじの雲動かざる 天天人人 魯斗
夕凪の路地に気だるき豆腐売り 天天 風写
夕凪や漁船は低くいびきかく 天地地地人人 呑暮
夕凪や父の匂いが帰宅せり 天地 即馳
夕凪の夕陽に裂ける潮目かな 天地 風写
夕凪やPeaceの煙黄金雲 天地 即馳
夕凪に踏切のおと殺気立つ 天人人 芝浜
夕凪や島の野良猫よく肥り 天人 仲春
ふるさとは挨拶がはり「夕凪ね」 天 菫女
【山登り】
登山客同じ顔して水を飲む 天天天地地人人 仲春
ひたすらに息と向き合う山登り 天天天地地人 好喜
古稀すぎて生涯初の富士登山 天天 喜の字
そこかしこ天狗をりたる登山かな 天天 磨角
登山客追い越してゆく修験僧 天地地人 駒吉
足音と鼓動と吐息登山道 天地人 芝浜
山登りふもと辺りは町長選 天人人人 音澄
飯の後軒に星空登山宿 天 雪童
登山小屋馳走の火種絶やさざる 天 魯斗
甘利山遠足登山の懐かしき 天 山女
【水鉄砲】
水鉄砲おのが影撃つひとりっ子 天天天天天天天天天地人 喜の字
逃げながら的がおどける水鉄砲 天天地地人 芝浜
水鉄砲おつぱい狙う童いて 天天人 酒倒
喜んで相撃ち受ける水鉄砲 天地人 風写
開戦の合図を待たず水鉄砲 天人人 即馳
弟を撃っては泣かず水鉄砲 天 好喜
★逆月さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【夕凪】
天 夕凪やひとすじの雲動かざる
地 夕凪や漁船は低くいびきかく
人 夕凪に踏切のおと殺気立つ
天。「ひとすじの雲」が凛と、勇壮にはまっています。地は「いびき」できまり。類句はありますが、ここはちょっと刺激のほしいところで。
【山登り】
天 そこかしこ天狗をりたる登山かな
地 登山客同じ顔して水を飲む
人 山登りふもと辺りは町長選
この季題、曲がりなりにも本格的に山岳をやったことがあるかどうかで、リアリティが違います。逆月は10代の頃おちこぼれながら、これでも、ヤマをやっていましたのでエヘン!
天。どんな山に登っても、一体だれが何を思ってあんな風に木を倒したのか、この石をひっくり返したのかというふうに、とんでもない力がはたらいた跡が、目に入ってきます。あれは天狗に違いありません。
【水鉄砲】
天 弟を撃っては泣かず水鉄砲
地 水鉄砲ごはんですよの母を打つ
人 水鉄砲おっぱい狙う童いて
弟でなくてもいいんです。これ、武器が柔らかいのを承知でいじめるのです。いじめたあとは「おがあじゃーん」こういう風景ありました!!
★喜の字さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【夕凪】
天・夕凪の路地に気だるき豆腐売り
地・夕凪や喧嘩は一旦収まりぬ
人・夕凪やひとすじの雲動かざる
【山登り】
天・登山客追い越してゆく修験僧
地・難儀でも峰の冷気や山登り
人・ハングルの落書悲しき登山道
【水鉄砲】
天・水鉄砲おっぱい狙う童いて
地・水鉄砲ごはんですよの母を打つ
人・二歳児の水鉄砲持ちいざ風呂へ
『夕凪』というと、海の光景に偏ってしまいますが。天の句はこの時刻の「行商の気だるさ」を捉えました。ここが言い得て妙。やっぱり観察眼でしょうねぇ。
気になったのが「夕凪や髪洗う習慣誰に似て」これは、
「洗ひ髪路地吹きぬくる風のあり」鈴木真砂女を引くまでもなく、髪洗うは夏の季語ですね。
さてさて・・・
晩夏の兼題を見た途端、いたずらしようと思いました。
というのも、兼題ふたつが、九年前の某句会のお題と同じだったから。あの時の句をだしたら、みなさんの評価はどうなるか、見たかった。
で、その句会での作を紹介しますと・・・・
・全世界ウォーターピストル平和なり ようかん
・水鉄砲あの子が欲しいと消えてゆき とんぼ
・おちんちん撃たれてしずく水鉄砲 孝多
・おねぇちゃんの胸をめがけて水鉄砲 矢太
・路地の裏子らの歓声水鉄砲 駒吉
・潮を吹く鯨を撃たん水鉄砲 不実
・俺たちのスターウォーズだ水鉄砲 桂堂
・水鉄砲おのが影撃つひとりっ子 喜の字
・義母のツンとした胸水でっぽう タケシ
みなさん!これらの発想をどう見ますか。
タケシさんは、その後、川柳に軸足を置き作品集を毎日新聞から上梓。
さらに、つい最近は「これからはじめる俳句・川柳 いちばんやさしい入門書」(池田書店)を神野沙希さんと共著で大活躍。
もう一つのお題・・・それは長くなりますからまた別の機会に。
俳句は、もっと自由に。そう言いたかったつぶやきです。
★魯斗さんの選句とつぶやき-------------------------------------------
【夕凪】
天・夕凪に踏切のおと殺気立つ
地・夕凪や漁船は低くいびきかく
人・夕凪や温んだ炭酸気配知る
高校生の3年間、夏だけ与論島で農作業のアルバイトをしていました。
早朝から早めの昼飯を挟んで1時ごろまでが労働時間。
平べったい島を吹き抜ける風が心地良くて、大汗をかいてもスッと冷してくれるんですよね。が、仕事のあと、日課の海遊びをして帰る道でピタリと無風になる。低くなった太陽とはいえ南の陽射しはギラギラで、風の有る無しのありがたさが本当によく分かるんですよ。
言葉としては「夕凪」て、すごくキレイな感じなんですが、体験的には粘り着くような気色の悪さが摺り込まれていて、ついついマイナス思考になってしまいました。
だから作句の時、情緒や風情として詠むべきか、それとも嫌悪の対象とすべきか迷いましたし、この選句でも・・・。
なお、選外でしたが「イヌネコヒトモノみな塑像」が最後まで気になりました。カタカナ8文字の字ヅラと、音読したときのリズムが興味深かったです。
【登山・山登り】
天・そこかしこ天狗をりたる登山かな
地・ひたすらに息と向き合う山登り
人・足音と鼓動と吐息登山道
いま流行りの山ガールを詠もうとしましたが、どうもしっくりいかなかったのですが、最近の山ブームが生み出したであろう「天狗をりたる」を読んで納得しました。
先日テレビで、富士山の地元観光協会が、殺到する登山客に携帯トイレを無償配付しているというニュースを観ました。
その配付に対する山ガールのコメントが「男性はいいでしょうけど、女性はこれじゃ困るんですよねぇ。トイレくらいちゃんとしてほしいものですよ、世界遺産なんだしぃ」だって。
何だかおかしな方向に勘違いしている「天狗」が「そこかしこに」いらっしゃるようで腰が引けました。
地と人。歳なりに実感と共感。高齢者登山は事故多発。他人事ではなく気をつけなくては。
【水鉄砲】
天・水鉄砲おのが影撃つひとりっ子
地・喜んで相撃ち受ける水鉄砲
人・弟の涙の筋や水鉄砲
こういうことあるある・・・そうだったなぁ・・・懐かしい・・・などなど。選句しながら思い出したことがたくさんありました。
目についたのが3つ並んだ「弟」の句。
兄貴としては、どうしても泣かしちゃうのがお約束なんですね(笑)
末っ子の私の場合、6歳も年長の兄から(理不尽にも)攻撃された(憐れで無抵抗な)被害者の立場で(その時の被害記憶は意外と鮮明に残ってるモノで)ちょっと切なかったですよ。で、どちらかと言えば「影撃つひとりっ子」が体験的には共感できました。
もう一つ思い出したのが、選外になってしまいましたが「弾丸に模して天撃つ」。
作者の体験とは違うかもしれませんが、風呂場の天井に向けて撃って、着いた水が雫になって落ちてきたところを狙い撃ち・・・やってました。早打ちガンマンのようにホルスター(もどき)からの抜き撃ちとかも(笑)
でも、エアコンなどのない時代、水鉄砲の本当の目的は「涼」だったのでしょうね。だから地の「喜んで相撃ち」はよく分かる。
そうそう、先日年若い友人から聞いた水鉄砲がらみの話。
その友人の息子(4歳)が、公園の池の水を入れた水鉄砲をよその男児(小学1年生)にかけたら、夜になって鬼のような形相の若い夫婦がやって来て「どんなバイ菌が入っているか分からない池の水を息子にかけたなぁ!」と猛抗議されたそうです。
たしかに池の水はバッチイかも知れないけど、なんだかなぁ。
どんな状況だったかは不明ながら、なんだかなぁ。
潔癖すぎる世の中、なんだかなぁ。
水鉄砲じゃ済まなくなりそうな、きな臭くなりつつあるニッポン、なんだかなぁ。